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異世界もの

マジック・クロニクル――異世界人の剣士

作者: ケン

 突然だが魔法―――というものは存在していると思うか? 中には実は俺たちの知らないところで魔法使いが闘っているんだという事を言い張る奴もいるが俺は残念ながら魔法は存在しないと思っている。

 でも科学至上主義者というわけでもなく、人間の頭では解明できないことはたくさん存在していると俺は思っている。

 まぁ、魔法は除くけどな。

 ただ……その考えは一瞬にして砕かれてしまう。


「待ちなさーい!」

「待ったら殺すだろ!」

「当たり前じゃない! とにかく待ちなさーい!」


 赤髪の少女が俺を追いかけながら一冊の本を握りしめ、大きな火球を俺に向かって放って来る。


 何故、こんなことになったのか。


 何故、俺は殺されかけているのか。


 それを知るには一時間ほど時間をさかのぼらなければいけない。





―――――――――☆――――――――





「ク、クビ!? な、なんでですか!?」

「いや、なんでって君まだ中学生らしいじゃないか」

「いやいや! もう卒業間近なんです!」

「嘘をつけ。履歴書には高校生って書いてあるじゃないか。とにかく今日で君はクビ」


 店長にそう言われながら今日の分の給料を手渡され、いつの間にかロッカーから出された荷物も渡されて店の事務所から追い出されてしまった。

 確かに俺はまだ中学生だ。とは言っても卒業式まであと二日というところだし、ちゃんと履歴書には中学卒業、高校入学予定ってちゃんと書いたはずだ。


「ま、目標の金までは貯めれたし」

 俺の家は超がつくくらいに貧乏だ。今着ている服だって友達からもう着ることのない服を譲ってもらったものだし、靴も同じ。

 家は風呂なし・トイレ共同・台所共同のボロイアパート、そのうえ両親はいつの間にか蒸発し、俺には何も残らなかった。

 勉強は頑張り続けたので何とか特待生になり、授業料は免除になったけど入学金や教科書代などが必要だからこうやって働いていた訳だ。

 就職しようにも俺なんかを受け取ってくれるところはなく、結局名前さえ書けば通れるようなところに入学が決まったわけだが……はぁ。マジで宝くじあたらねえかな。


「はぁ……っておい!」

 ため息をついた瞬間、後ろから給料が入った封筒を金髪ピアスのヤンキー崩れの奴に奪われ、慌ててそいつを追いかける。


「返せやこらぁ!」

 それが無かったら今秋までにおさめなきゃいけない入学金が払えねえんだぞ!

 全力で追いかけるが相手は右に左に曲がり、狭い裏路地に入っていくせいで中々、距離を詰めることができずにいた。


「チャンス! どりゃぁぁぁ!」

 そいつが行き止まりにぶち当たった瞬間、そいつめがけて飛び蹴りをかまそうと軽く跳躍しながら蹴りのポーズをとる。



 ―――――直後、一瞬だけ視界が真っ暗になった。




「うわ!?」

「きゃぁ!」


 視界が元に戻ったかと思えば目の前に俺の給料袋を奪った奴の姿がなく、それどころか赤い髪の少女の姿が見え、慌てて体勢を変えようとするが時すでに遅し、その少女と正面衝突してしまい、そのまま押し倒す形になってしまった。


「イツツ……あ、悪い。大丈夫か?」

「……その前に退きなさいよ!」

「ぐへぇ!」


 後頭部を思いっきり蹴り飛ばされ、対応できずにそのまま湖に落ちてしまった。

 溺れ……って浅い湖か。良かった。俺泳ぎ下手くそな部類だから湖とか池とかの飛び込みって嫌いなんだよな。一回、死にかけたし。

 立ち上がって水を吸い、重くなった上着を脱いで絞っていると少女が何やらブツブツと俺の方を見ながらつぶやいているのが見えた。

 ……というかここどこだよ。

 周囲を見渡してみると俺がさっきまでいた裏路地ではなく、そこら辺に太い木々が立ち並び、地面はコンクリートではなく草花が生い茂っている天然の土の地面。

 さらに言えば鳥らしき鳴き声も聞こえるというどこかの森みたいな場所だ。


「なあ、そこの女の子」

「な、何よ」

「ここどこだ?」

「どこだってここはエウレオス王国よ」


 …………はい? 何、そのファンタジーRPGに出てくるようなカタカナ満載の国の名前。というか女の子が着てる服装も全然俺と感じが違うし。え、何? 最近の外国人は黒いローブを身にまとうのが最新のファッションなの? というか女の子が持ってる赤い表紙の本、よく見たら知らない言語で書かれてるし。


「あんたこそ何者なの? 見たことない服装だし、名前は?」

「俺? 俺は里見悠馬だけど」

「サ、サトミユウマ?」


 な、なんだその発音は。なんで”ト”の部分でイントネーションが上がるんだ……この女の子の服装、そして本に書かれている見知らぬ言語、そしてこの知らない場所……まさかとは思うけど俺。



 ――――異世界に来ちゃった?



「なんでこんな奴が来るのよ……私を支えてくれる奴が来るんじゃなかったの?」

「お~い。そこの女の子」

「何よ!」

「えっと……何で俺ここにいるの?」

「知らないわよ! 私はただ単に精霊姫にお祈りをしていただけなんだから!」


 少女が指差す方向を見てみるとそこには腰ほどまである長い髪、そして背中からは翼が生えている女性の銅像が建てられている。

 まあ、この際精霊姫が何なんだよっていう質問は後にするとしても俺、どう見ても元にいた場所から全く違う場所に来ちゃったよな。


「で、この精霊姫にお祈りしたら何かいいことでも起きるのか?」

「精霊契約の際にその人にピッタリな精霊や魔物を召喚できるって言われているわ。精霊姫の加護……まぁ、最近はおまじない程度になってきているんだけど」


 要するにその精霊契約っていう大切な行事があるから絶対に成功しますようにっていうお祈りをしていた訳か。俺達で言う受験の前に神社に行って合格するように神頼みをするみたいなものか。

 でも困ったな……俺、今週中に入学金払わないと合格取り消しになっちゃうんだよな。

 精霊姫の銅像の周りを見てみるけどそこに入り口らしきものは無い。


「困ったな」

「何がよ」

「いやさ……出口がないんだよな」

「は? 出口?」

「俺が出てきた出口。ここから来たんだけどな~」


 念入りに探してみるが出口らしきものは一切見当たらない。

 マジで俺どうやってここに来たんだよ。


「大変! もうこんな時間!」

「時間ってお前、腕時計着けてないじゃん」

「はぁ? とにかくあんたと喋っている暇はないの!」


 そう言って少女は赤い表紙の本を抱えて走り去っていく。

 流石にこんな見知らぬ土地で一人でいるのは怖いので俺も彼女に気付かれないように後ろから追いかけて彼女と同じ方向へと走っていく。

 いったいどこに向かってるんだ? というか俺、今週中までにちゃんと元の場所に帰られるんだろうな。帰られなかったら訴える……って誰に訴えよう。

 神様? いやいや、そんな不敬なことはできない。じゃあ……総理大臣? 関係ないか。



――――――――☆――――――――――


「な、なんだここ」

 彼女の後を追いかけて辿り着いた場所はまるでどこかの王族が住んでいるのかと思うほどの大きさを誇る建物だった。

 とりあえず誰かに見つかるのもあれなので周囲を警戒しつつ、物陰に隠れながら建物の中に入ると一番最初に広いグラウンドらしき場所があり、それを囲うように建物が建てられいる。

 三つある建物はそれぞれ渡り廊下らしい通路で繋がっているらしく、二つの建物から渡り廊下が繋げられている建物は残り二つと比べてどこか煌びやかな造りになっている。

 例えるなら……装飾の違い? 他の二つは特に何もされていないがその一つだけはやけに装飾が施されており、炎を纏う鳥だったり、剣だったりが施されている。


「ほんと、何なんだここ……お? 人の声がする」

 建物の裏側から聞こえてきた声の方へ向かうと裏手にも大きな芝生が広がっており、そこにさっき会った彼女とほとんど同じ格好をした奴らが集まっていた。

 なんだなんだ? 全員ローブを纏って本を持ってる……本当にここ異世界なのか?

 そんなことを思っていると連中が集まっている中から赤い輝きが漏れているのが見え、赤い鱗を持つ巨大なドラゴンが姿を現した。


「あ、完全にここ異世界だわ。向こうにあんな生物いないし、発見されたら新聞から何まで大騒ぎするな……にしても帰り方はどうする……ん?」

 さっきまで歓声を上げていた連中が急に黙り始めたかと思えばクモの子を散らすように周囲に散らばり、残ったのは赤いドラゴンとさっき出会った赤い髪の少女。

 な、なんだなんだ? いったい何があったんだ?

 赤いドラゴンは地面にへたり込んでいる赤髪の少女に向かってゆっくりと近づいていく。

 明らかにあれ……襲われてるよな? 助けに行こうにもあんな怪物勝てる訳



 ―――――誰かの為になるような行動をしなさい



「…………あぁもう!」

 唯一、親らしい言葉を言ったあの女の声が脳内で響き、俺の体を勝手に動かす。

「これ借りるぞ!」

「あ」


 少女のところへ向かうときに丁度、男が剣を携えていたのでそれを抜き取り、剣を握りしめて少女と赤いドラゴンの間に立つ。

 直後、振り下ろしてきたドラゴンの腕をその剣で受け止めると全身に凄まじい衝撃が走り、膝が折れそうになるがどうにかして起ち続ける。


「な、なんであんたここに!」

「帰り方が分からねえから追いかけてきたんだよ……ぬおらぁぁぁ!」


 叫びながら剣を持っている腕を振りぬいた瞬間、ドラゴンが背中から地面に倒れた。

 あ、あれ? なんで俺こんなに力出せるんだ?


「危ねぇ!」

 巨大なドラゴンが体勢を立て直し、大きな口を開いた瞬間、反射的に彼女の手を取り、その場から飛び退いた直後に巨大な火球が放たれ、地面に大きな穴が開いた。

 あんな一撃を放ってくる奴、どうやって倒せばいいんだよ!


「これ使って!」

「お、おう!?」

 いきなりそんな声がするとともに俺の足元に一本の筒のようなものが投げられてきた。

「それをカートリッジに装填するんだ! 早く!」

「カ、カートリッジ!? 剣にカートリッジなんて」


 その時、持ち手の部分に斜めに入っている線が見え、その線に従って持ち手の部分に力を入れてみるとちょうどその線通りに持ち手が斜めに傾き、装填できる穴が見えた。


「これか!」

 そこに投げられた筒みたいなものを装填し、持ち手を元に戻した瞬間、刀身が赤く輝きだし、そこから炎が噴き出す。

 剣を持ち直し、ドラゴンの方を向くとその巨大な口を開け、大きな火球を作り出しているのが見える。


「これで決めてやる! えあぁぁぁ!」

 ドラゴンが大きな火球を口から放った瞬間、剣を振り下ろすとその軌道に従って炎が斬撃として放たれ、火球を真っ二つに割り、さらにドラゴンに直撃し、真っ二つに切り裂き、大きな爆発を上げた。


「ふぃ~。一件落着うぉ!?」

 一息ついた瞬間、持ち手が斜めに折れたかと思えばそこから筒のようなものが自動で射出され、慌てて受け取る。


「ま、まぁとにかく一件落着」

「じゃないわよ!」

「な、なんで!? 俺助けたじゃん!」

「私はあいつと契約しようと思っていたのに!」

「えぇ!? でも襲われて」

「うるさいうるさい! もうこうなったらあんたでいいわ! あんたを契約精霊にして奴隷みたいにボロボロになるまで使い込んでやるー!」

「なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?」


久しぶりのなろうでの更新です。


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