表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

クーナ発つ

 クーナは自らの血にまみれた右手を眺めながら、自分がしてしまった事についての思考を始めることもなく街をさまよっていた。新潟中が停電した強烈な落雷と、それに伴う激しい雨はほんの一時間近く前まで続いていたが、それは案外あっさりと止み、代わりに今では薄雲を割くように月が顔を出していた。その月光に照らされる自らの姿がすぐ近くの民家の窓に映りこむが、これほどまで醜く、薄汚れた姿であることに内心ひどくうんざりした気持ちだった。長年メンテナンスをしていないせいか左足が思うように動かず、かた、かた、と壊れたマリオネットのような奇妙な動きで静かに眠る住宅街の中、歩みを進める。

 不意に、道の脇から光がぼんやり動いているのを確認すると、クーナは特に身構えることも無く悠然とその光の正体を探ろうとした。静かなエンジン音に乗せて、エアーバイクに乗った若い男性警察官がひとり、クーナの姿を確認するとバイクを降りて向かってきた。

「君、その手はいったいどうした……」

 クーナの赤い液体にまみれた手を細長い電気警棒で指したが、その動きが不自然に固まった。クーナの異形の姿……衣類の類を見につけていない彼女のボディは所々に傷が目立つ。腕や足のパーツが剥がれ、むき出しになっている電子回路。耳孔からは黒いオイルが漏れ、彼女の裸体を濡らしていた。そして左手にはボーリングの玉ほどの大きさの『何か』が、そこから生える繊維状のものをわしづかみにしながらぶら下がっていた。

 それが苦悶に満ちた表情の、人間の生首であることを認識した警官は、一瞬動揺したがすぐ本部に連絡を取ろうと、手首に巻いたリキッドフォンを操作しようとした。クーナはその行為が自分にとって良いことではないと直感すると、おおよそ普通の人間では対処できないスピードで警官の隣へ駆ける。ほとんど瞬間移動に近いその動きに対抗する間もなく、彼は左腕をはねられてしまった。

 そして、クーナは自らの右足を思い切り警官の口に押し込み地面に叩きつけた。歯が折れ、血が溢れるが叫び声をあげることはかなわず、ぐうぐうと聞くに堪えない唸り声をあげながら口に押し込まれる足を残った右腕で無理に引きはがそうとした。が、クーナは残った左足をふらりと宙に浮かせるとすさまじい勢いで、ちょっとしたかかと落としの要領で警官の頭目がけて振り下ろす。血と脳漿が飛び散り、神経の反射なのか、すでに死後硬直の症状が表れているのか、クーナの足を思い切り掴んだまま事切れた。

 その人間の残骸から足を振り払うと、ぺちゃ、ぺちゃ、と血に染まった足音を立てながら、やはりどうにもこの格好は人目につくのだろうという考え方に至った。充電もしておかなければならない。ともなると、どこぞの民家にでも押し入る必要がある。

 しかしその考えは、頭部の電子頭脳にぴりり、とした軽い電波が走った瞬間、立ちどころに消え失せた。何かが近くにある。思わず近くの小路に隠れたが、その小路の向こう側の道路を人影が通った時、その電波はより強くなった。そちらの方へ向かい、小路から顔だけ出して人影の正体を伺うと、その後ろ姿はなんてことはない二人の人間の姿だった。いや、正確には一人と一台。片方は人間だが、もう片方は自分と同じ種類のロボットであると理解した。ぴりぴり、ぴりぴりとお互い意識し合うように電波はさらに強烈になるのだ。

 おそらく自分と同じロボットの電子頭脳同士が共鳴しているのだろうと分析し、クーナ自身ちょっとした安堵感を覚えた。自分にとって彼女は仲間であるはずだ、一緒に色々話し合ってみたい。そのためにはまず隣にいる邪魔な人間を殺しておこうと考え、一角にある大きめの公園へ向かう彼女達を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ