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クーナとヴェラ

(アイ!? どうして……)

 ヴェラは目の前の光景を疑わざるを得なかった。アイが、まるで見知らぬ少女を殺そうとしている。一体何をもって、そうした殺人行動を起こしているのか、到底理解できるものではない。まるで感情のかけらもないアイの赤い瞳に、先ほどのドライブ中の無邪気さなどは微塵にも感じられなかった。

 これが、アイの本性なのか、あるいは、もっと別な力が働いているのか。いずれにしても、繰り広げられるアイの凶行を止めなければならない。どんな理由があれ、人が殺されるのを見過ごすことはできないし、アイに人殺しをさせるわけにはいかない。バカみたいに、今まで何も思わず多くの人々を殺してきた自分にそんな考えが浮かぶことが、少しおかしかった。

 ヴェラはアイを止めるべく、クーナの前に立ちはだかった。主人の声を聞いたアイは、少女の首を絞める手を離した。彼女が咳き込むさまを見て、わずかに安堵の表情を浮かべる。

 だが、安心している暇などなかった。いつの間にか、目の前にあの異形の姿が向かってきている。アイよりも素早い、恐るべき勢いで。右手を振りかぶり、渾身の一打を自分目がけて放とうとしている! 間一髪でヴェラは避け切ることができた。一方クーナは後ろの植え込みに向かって勢いよく突っ込んで行くと、先ほどまでヴェラが潜んでいた木々の幹を蹴り上げ、宙を舞った。蹴り上げられた木は音を立てながらゆっくり折れてゆく。

「おい! 逃げろ!!」

 少女に向かって、ヴェラは叫んだ。しかし、恐怖からか、地面にへたり込んだまま少女は動けないようだった。ほとんど、放心状態と言ってもいいだろう。

 とにかく今は、目の前の敵と戦うことが先決。クーナをヴェラは目で追う。ちょうど月に重なるように、クーナのシルエットが夜空に映った。ふわりと優雅に空の散歩を楽しむような身のこなしは、ボロボロの外見からは想像できないものだ。そしてゆっくりと、ヴェラの方へ顔を向けた。はっきりと赤い二つの光りが見える。

 アイも、自分を攻撃した時同じ瞳の色をしていたな。少し頭を冷静にし、そんな事を考えながら、右手に握ったあるモノで、頭部にある電子頭脳に狙いを定めた。

 手帳に差しておいた、非常用のボールペン型のピストル。弾は一発のみ。必中、かつてないほど神経を研ぎ澄まし、一撃を解き放った。当てるのは造作もないはずである。弾は一直線に軌道を描き、クーナの脳天を確実にとらえていた。

(当たった!!)

 長年の経験から、そう確信できた。

 だが、小さい弾丸はロボットの頭部からわずかに外れてしまった。少しだけ顔を逸らして、弾丸を避けたのだ。

 いったいに、どういった動体視力をしているのだ! アイもそうだったが、先ほどからの、このロボットたちの身体能力の高さは何なのか!? 銃撃を外したことにわずかに動揺したヴェラは、対応が遅れた。

 クーナは落ちる勢いそのまま、圧倒的な速さでヴェラへ再び向かってきた。右手、手刀一発。自分の脳天目がけて振り下ろしてくる。ヴェラはこれも何とか避けたが、コンマ一秒の差で、頬を指先がかすめた。ちょうどもみあげの横の位置に小さい切り傷ができ、頬を生暖かい血液が伝った。すると間髪入れずに、左手でヴェラは髪を掴まれ、腹部に膝蹴りを受けた。恐ろしく重い一撃であり、鈍い打撃音と共にヴェラの身体はくの字に折れ曲がった。

 口の中に酸っぱい液体が溢れ、その場になすすべなく崩れ落ちる。一瞬気が遠くなったが、何とか歯を食いしばり、必死に意識を保った。口から吐瀉物を垂らしながら、辺りを見回す。すると、涙でぼやける視界にあのロボットの姿は見当たらなかった。

(っ……どこだ、どこにいる!?)


 その時であった。わずかに混乱したような色味が混じった、あの歪な合成音声が聞こえてきた。

「お前……」

 声の方向を見たヴェラは、驚いた。先ほどまで実に生き生きと自分を攻撃していたクーナの姿が、すぐ近くにあった。ただし、本来あるべき左足が失われており、どす黒いエナジーオイルが地面を濡らしている。

 そしてその横には、アイが、真っ赤な瞳に怒りを湛え、仁王立ちしていた。その手には、恐らくたった今剥ぎ取ったであろう左足がぶら下がっている。ヴェラが腹部の痛み、苦しみに耐えていたほんのわずかな時間で、アイがクーナを攻撃したことは間違いない。

 まさか、私を助けるために戦ったのか?

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