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狭い世界と広い世界と

作者: 怠惰な人

「ははははははは」

 教室中に明るい笑い声が響く。なんだか教室が盛り上がっているようだ。なぜ盛り上がっているのかは分からない。何故なら僕は今、暗闇の中で必死に夢を探しているから。出来る事なら夢の世界にずっと入っていたい。だから、僕は夢の世界を探す為に机に突っ伏している。けれど、その響いてきた笑い声のせいでその夢の世界がとても遠くなった。

「もしかしたら僕を笑っているのでは無いのだろうか?」

 曖昧な言葉で表現された時によくわき起こってくる妄想だ。

 例えば、

「あの男って暗いよね」

だとか、

「あの人格好良いよね」

だとか、少しでも自分に関係ありそうならすぐに結びつけて妄想にしてしまう。そして、その妄想に支配されたが最後、僕は恥ずかしさや照れから顔を真っ赤にしながら、ひたすらその話を盗み聞きすることに集中する。大抵、僕とはあまり関係なかったりするのだけれども。


 僕には自分に自信も自身も無い。よく言う優しいだけが取り柄と言ったら取りかもしれないけれど、その優しさは僕の気の弱さの表れでしかなかった。


 僕はこの教室ではネクラな生徒でしかなかった。教室でネクラは弱者だ。だからよくいじりのようなイジメにあった。休憩時間にスキンシップという名の暴力にあったり、よく馬鹿にされたり。いつからこんな感じになったのかは分からない。けれど、気づいたらこうなっていた。よくある教室の小さな出来事だった。


 でも、この教室しか知らない僕にとって社会はこの教室の中でしかなかった。そんな狭い世界で生きていたから余計に自分自身に価値が無いように感じた。だから、自分の将来に無関心になっていった。どんどん感覚が麻痺していき、やる気が無くなっていった。


 こんな価値の無い自分が生きていていいのかと思うくらいには追いつめられた。


 ある日、僕は気まぐれからおばあさんを助けた。助けたといっても荷物を持っただけだ。それで、僕はもの凄く感謝された。おばあさんの行き先は老人ホームで、老人ホームに行くと熱烈な歓迎を受けた。普段は注目されない僕に人だかりが出来ていろんな事を教えてもらったり、いろんな事を教えたり。


 この老人の社会では僕には価値がある。そう思った。僕は、学校では何も出来ない冴えない人間だった、勉強もスポーツも出来ない、だから虐められた。でも、ここでは僕も若いというだけで価値が生まれた。それがなんだかとても嬉しかった。だが、僕には何か物足りなかった。認められる事は嬉しかったけど、もの足りなかった。

 ある日、その老人ホームに一人の少女が来ていた。同じクラスの少女だった。なんでもその子はおばあちゃんと仲が良く、いろんな話をしている内に同じ学校の生徒が来ている事を知り、興味を持って会いに来てくれたらしい。

 女の子に興味を持たれるなんて初めてで最初は何を話していいのか分からなかった。けれど老人ホームの事を話しているうちに仲良くなって、話す事が次から次へと出てくるようになった。その内、学校でも話すようになって遊びに行くようにもなった。その頃には自信がついてくるようになった。自信がついてくると不思議なもので、考えなくても次から次へと話せるようになって友達もできるようになったし、彼女も出来るようになった。

 僕は、自分の世界しか見ていなかった。クラスの中という狭い世界で目立つような人間ではなかった。けれど、老人ホームに行った途端若いというだけで価値ができた。自分の価値を発揮出来る場所は必ずあルノダと思った。


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