始末屋とは
この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。
全てを終わらせ、吉本会長の部屋へ戻った。
「今回は本当にありがとう」
「いえ、ほとんどついでのようなものでしたし」
「いや、しかし葉月さんはしっかりと依頼をこなしてくれた。立派な当主だ。ウルフのほうはどうなったかの?」
「戦意喪失してましたし、ほっておきました。坂本グループには二度と行かないでしょう。ところで、これから桜花ちゃんはどうなるんですか?」
「もちろんもう無理はさせんよ。小学生相応の生活をしてもらう。研究者なんかは月に一度来てもらえばいいだろう」
「でもお爺ちゃん、あたしのせいで計画が狂ったって・・・」
「ん? あんなもの潰れてもなんともないわい。むしろ今はもっと大きな計画を立てている。それに協力してくれないか?」
「もちろん!」
どうやらこっちは上手くいきそうだ。
「それでは私たちはこれで」
「ああ、依頼料のほうはしっかり振り込んでおく。それと、近いうちに喫茶店のほうへ行こうと思うんだが、いいかな?」
「ええ、もちろん。いつでもいらしてください」
「はあ、癒される~」
喫茶店の定休日、金は猫と戯れていた。
「この前はこの猫に助けられちゃったなあ」
「そうなんですか?」
「うん。坂本が悪あがきに拳銃を取り出した時、たまたまウルフが持ってきてたこの猫が坂本を引っ掻いてくれたおかげで発砲はされなかったんだよ」
「偉いねえ~」
「そういえば葉一さま、猫の名前はどうしますか?」
「うーん、考えたんだけど、桜ってどうだろう?」
「桜ちゃん? いい名前じゃないですか~」
「桜花ちゃんから取ったんですか?」
「まあね。白い桜もあるし、いいかなって」
「桜~」
完全にだらけていると、郵便が来た。
「取ってきます」
金の状態に呆れながら、白が取りに行った。
「誰から?」
「吉本桜花ちゃんからですよ」
「どれどれ」
「こんにちは、お元気ですか? 桜花です。
先日は大変お世話になりました。
あれからの生活は一変しました。以前よりも両親やお爺ちゃんと話すことが多くなったし、政治家や研究者は本当に月に一度くるぐらいで早百合も私も毎日友達と遊んでいます。こんなことなら最初から両親やお爺ちゃんに相談するべきでした。巻き込んでしまって大変申し訳なく思います。
今度の日曜に家族で喫茶葉月にお邪魔することにしました。その時はよろしくお願いします。」
「上手くやってるみたいだね」
「今度の日曜に来るみたいですね」
「日曜というと明後日ですね」
「それなりのおもてなしをしましょうか」
日曜日、喫茶葉月は忙しかった。
「白、六番にビールとおつまみ!」
とにかく忙しかった。
「金、五番のテーブルと二番のテーブル片付けて」
「はいー!」
そんな中、VIPが来店した。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ!」
「忙しそうですね、葉月さん」
「ええ、今日はなぜか一段と・・・あれ、桜花ちゃん?」
「お手紙に書いておいたでしょう? 今日来ますって」
「本当に来てくれたんだ! 会長に社長に副社長さんも」
「ははは、今は吉本で結構だよ」
「分かりました。今メニューをお持ちしますので」
吉本一家がテーブルに着くと、そこだけ空気が違った気がした。
「葉一ちゃん、あの人たち何者だい?」
「何者って、吉本さんご一家ですよ」
「吉本? どっかで・・・ああ!」
思い出したお客は思わず声に出してしまった。
「お静かに。今日はお忍びらしいですから」
「そうかい、あの吉本グループの会長、社長、副社長、ご令嬢というなんとも豪華なメンバーだな」
「今日は初めての家族水入らずらしいですよ」
「へえ、やけに詳しいな」
「この前縁あって知り合ったんですよ」
「ほう、こりゃ優秀なスポンサーになりそうだな」
「スポンサーはお断りしてますよ」
「なんでだい」
「そんなにお金欲しいなら喫茶店を細々とやってませんよ」
「ははは! 確かにそいつは言えてるな」
そしてピークが過ぎると、余裕が出来てきたので、吉本一家のテーブルへ着いた。
「いらっしゃい」
「お久しぶり、葉月さん」
「そちらが・・・」
「こっちがお父さんの浩二さん、こっちがお母さんの奈美さん。で、お爺ちゃんの幸三さん」
「お忙しいのにお邪魔してしまって、すみません」
「いえいえ、こちらとしては嬉しい限りです」
「それに勝手に依頼に来たということで、ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、依頼は誰であろうと随時受け付けてますし、結果的にはハッピーエンドということになりましたし」
「しかし良いところだなー。あやつにも見せてやりたい」
「あやつというのは?」
「おお、古い友人でな。いつも茶に付き合ってもらっているんだが、今日も連れて来ればよかったかの。ほれ、本業のことを話してたのもあやつだったのでな」
「私たちの本業のことを?」
「ああ。森重という奴でな。そこらの若者に負けないぐらい元気な奴で、どこかで何かの管理をしているだか言ってたな」
噂をすればと、その古い友人はやってきた。
「やあ葉一や、また来たよ。ん? そいつは・・・」
「いらっしゃい、森重さん」
「森重だと?」
「おお! やっぱり幸三じゃないか!」
「なんだ森重、こんなところでなにやってる」
「はっはっは! わしはこの山の管理人じゃからな。おって当然だろう」
「なんだ、通りで始末屋なんか知ってるわけだ!」
「はっはっは! そうか、あの時の嬢ちゃんが幸三の孫か!」
「お久しぶりです」
「うむ。元気そうでなによりじゃな。どうだ幸三や、一緒に飲まんか?」
「おお、いいなあ。おーい、ビールを二つ頼めるか!」
「はーい!」
「葉一に言えばよかろうに」
「なに、今回の恩人においそれと頼めんよ」
「遠慮することはありませんよ、仕事ですから」
「はっはっは! 相変わらずの仕事好きじゃな。幸三と良い勝負じゃないか」
「何を? わしのほうが意欲旺盛だぞ?」
はっはっは! と大いに盛り上がっている中、桜花は葉一に話しかけた。
「葉月さん、早百合から伝言です」
「何?」
「『今回は本当にお世話になりました。これからも桜花をよろしくお願いします』だそうです」
「いえいえ、どういたしまして。私のほうこそ、これからもよろしく」
「それともう一つ、以前車内で言ってた『始末するだけが始末屋の仕事じゃない』ってどういう意味だったんですか?」
「ああ、それはね・・・。桜花ちゃんは、今回の依頼が解決して救われた?」
「もちろん! 肩の荷が下りたっていうか、すっきりしましたしね!」
「それだよ」
「え?」
「依頼者の心の不安も始末して、依頼者を救う。これが一人前の始末屋。まあ、父さんの受売りだけどね。本来の始末屋には必要ないことだけど、父さんの考えは違ったんだよ」
亡き父親を思い出してか、葉一の目は、どこか遠くを見ているようだった。しかし、その顔に悲しみはなかった。
「でも、おかげで私は救われました。本当にありがとうございました」
桜花は、弾けるような明るい笑顔で、感謝の気持ちを伝えた。
喫茶葉月は、一段と大きく、明るい笑い声に包まれた。
始末屋に求められること。
それは、人の心を救うという信念。
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