救出と解決
この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。
「大人しくしてれば何もしませんよ」
ウルフたちは桜花を誘拐し、坂本グループ本社へと戻り、地下倉庫へと桜花を幽閉した。
「あなたたち、こんなことをしてどうするつもり!?」
「簡単なことだ。嬢ちゃんと引き換えに吸収合併をするんだよ」
「なんですって!?」
「そうすりゃ坂本グループが日本で一番の巨大グループになるってことよ」
「そんなこと、お爺ちゃんが黙っているはずがない!」
「孫を人質に取られているんだ。動けるわけがないだろう」
「卑怯者の集まりね!」
「なんとでも言えばいい」
そこへ現れたのは坂本グループ会長である坂本金太夫だった。金のピアスに金のネックレス、指輪を五個もはめているなんとも悪趣味なお坊ちゃまといった感じの男だった。
「金太夫会長、なんでそこまでして吉本グループにこだわるの」
「ベリーイージーなクエスチョンですね。吉本がわが社と同等の巨大グループであり、日本で五本の指に入るグループだから。そのグループを吸収合併さえすれば日本のトップに立てる。これを逃す手はないでしょう?」
「確か、このグループがここまで大きくなったのも吸収合併が八割を占めてたわね」
「さすが才女。ワンダフルブレインだ。しかし君の時間稼ぎも無駄になるだろう。ここは電波をシャットアウトする特別な地下倉庫。発信機も盗聴器も意味が無い」
読まれてた!
桜花自身はどこに仕掛けられているかは知らないが、以前白が森で助けに来れた理由を考えると発信機以外考えられない。携帯電話は葉月宅の二階、今は葉一が仕掛けた発信機だけが頼りだった。
「さて、我々は幸三会長に合併の話をしてこよう。大人しくしててくださいね。ビークワイエット」
倉庫の鍵を閉めると、ウルフと自室へ戻っていった。
「ああもう! 何が最高の頭脳よ! 肝心な時に!」
(桜花、落ち着いて)
「早百合!?」
(何かあるはず。この状況でも助けを求めるか脱出する何か方法が)
「そんなこと言っても、ここには針金どころか糸くずすらないのよ?」
途方に暮れながらもイライラは募る一方だった。
「こうしている間にも合併の話が進んでるかも知れないっていうのに!」
靴で思いっきりドアを蹴飛ばした。
「痛っ!」
(そりゃ痛いでしょう)
痛がっていると、靴底から何かが落ちた。
「何これ?」
拾ってよく見ると、超小型のデータ端末のようだった。
「端末あってもLANもない電話線もないんじゃ・・・あれ?」
よく見ると、端末からコードが延びていて、その先には何やら長い板状のものが付いていた。
「えーと、説明書まで入ってる」
端末の先に付いているのは衛星通信用の小型パラボラアンテナです。図のように展開してください。
「図のように?」
まず板状のものをカチッと音がするまで外側に全て開き、根元にあるダイアルのようなものを時計方向に回す。
「こうかな」
カチッと回すと、見事に簡易パラボラが出来上がった。
「すごい! でも通信は・・・小窓があるわね」
小型パラボラアンテナを外に向けつつ、端末の電源を入れると、ちゃんと起動して通信状態もクリアになっていた。
「こんなもの用意しておくなんて、あの人たち本当にすごいわね」
しかし、問題があった。電池がほとんどなかったのだ。
「くぅ! ここまできて!」
しかし桜花はハッと思い立って、もう片方の靴を脱いで壁に叩きつけてみた。するとやはり何が落ちてきた。
「やっぱり、抜かり無いわね、大容量バッテリまで付いてる」
バッテリを接続すると、見事電池も復活した。
「やった!」
「桜花ちゃんの場所は?」
「本社らしきところに止まってすぐに光点が消えました。恐らく電波が遮断されてます」
桜花ちゃんがアレに気付いてくれればいいけど・・・!
本社にもうすぐで着くという時に、車載端末に受信があった。
「来た!」
白が内容を確認すると、やはり桜花からだった。
「どうやら地下の倉庫に閉じ込められているようですね。坂本会長は吸収合併に動いているようです」
「しかしよく見付けられましたねー」
「ほとんど賭けでしたが、結果オーライというやつです」
「さて、じゃあ吉本会長のほうにも連絡をお願い」
「はい」
電話をかけると、ワンコールで出た。
「わしだ」
「始末屋の白です」
「孫はどうだ?」
「ご安心を。たった今連絡がありました。恐らく今は一人で監禁されていますので、これから救出に向かいます」
「よろしく頼む」
「それから、くれぐれも合併の話は長引かせるようにしてください」
「分かった」
電話が終わると同時に坂本グループ本社に着いた。
車を降りると、今度は裏口から入った。
「何か合図をするように言って」
「了解しました」
白は素早く端末でメールを出した。
「後は電波の入らない地下倉庫に向かおう」
意外と警備員は手薄で、地下にはなんなく入れた。
「ここからは手分けしよう。金はこのまま桜花ちゃんの救出、及び脱出。私と白は会長の企みを始末してくる」
「了解です」
「了解しました」
葉一と白と別れると、金は一人地下へ向かった。
警備員さんに見付からないようにしないとなあ・・・。
慎重に下りて行くと、地下三階で行き止まりになった。
「あれ? おっかしいなあ。合図もないしそれっぽいところも見当たらないけど・・・」
それでも一応見て回ると、微かに音が聞こえる。
合図かな?
しかし、この革靴独特の音は間違いなく桜花ではなかった。ダンボールの陰に隠れると、やはり警備員だった。
一人かあ、助かったー。
警備員をやり過ごすとまた微かに音が聞こえた。今度は太鼓でも叩くようなゴーンという音が聞こえる。
多分これだ!
金は意気揚々と音のするほうへ向かった。
そこには確かに鉄の重そうなドアがあった。
「桜花ちゃん?」
金が呼びかけると、音はピタリと止んだ。
「その声金さん!?」
「よかった~、やっと見付けた!」
「金さん一人?」
「白も葉一さまもいますよ、二人は今坂本会長のところへ向かってます」
「来てくれたのは嬉しいんですけど、このドアは鍵も閉まってるし・・・」
「あ、ちょっと離れててくださいね」
「はい・・・」
言われた通りに離れていると、キンッという鉄の音がして、ドアはバラバラに崩れた。
「お待たせしました~!」
「あの、金さん?」
「はいはい、なんでしょうか?」
「一体何を?」
「斬ったんですよ」
「何で?」
「この自慢の愛刀です!」
誇らしげに手に持っているのは、間違いなく日本刀だった。木の柄に木の鞘という、その筋の人が持っていそうなモノだった。
「に、日本刀・・・」
「お仕事の時の必須アイテムなんです!」
「そうですか・・・。それにしても鉄を斬るとは・・・」
その切れ味、正しく斬鉄剣だった。
「さっさと脱出しちゃいましょう」
「そうですね。あ! 金さん後ろ!」
「へ?」
金が振り向くと同時に、男が金属バットで思いっきり殴った。
「金さん!」
しかしそこに金の姿は無く、男は動揺した。
「なんだ!? 手応えがねえ!」
「そんな遅くちゃ当たりませんよ、気配もバレバレです」
「何!?」
今度は男が振り向く前に、金が収めた刀で思いっきり殴ると、男は昏倒した。
「すごい・・・」
「白より遅くて助かりました」
「白さんはもっと速いんですか?」
「ええ。私よりもずっと」
なんだか裏の世界を知った気分になった。
「では脱出です!」
「あ、はい!」
「会長の部屋はどこかな?」
「最上階の一番奥のようですね」
案内図に親切丁寧に書いてあった。
「じゃあそこ目指そうか」
会長の部屋へは随分と簡単に入れた。特に警備もなく、一本道だったためだ。
「お邪魔するよ」
「何だね君たちは。アポは取ってないようだが」
「吉本会長に依頼されてね」
「吉本? ああ、ライバルの企業だね。何を依頼されたのかね」
「あんたの計画を始末してくれってね」
「計画? なんのことだか・・・」
会長が惚けてるところに通信が入った。
「こちら金、応答願いまーす」
「こちら白、どうでしたか?」
「桜花ちゃん無事保護しましたー。警備員さんには数人眠ってもらいましたー」
「ご苦労様でした。では責任持って送り届けてください」
「りょうかーい」
先ほどまで涼しい顔をしていた坂本会長の表情が見る見る強張っていった。
「貴様ら! 何をしてるか分かっているのか!」
「あなたこそ、相手の弱みを握って自分だけ甘い汁を吸おうとして・・・。立派な犯罪ですよ?」
「ふん、証拠もないのに何を偉そうな」
「証拠ならあるんじゃないかな」
「何?」
「桜花ちゃんだけでも十分証拠になるとは思うけど、あなたさっき吉本会長と電話しなかったかな?」
「確かに電話した。それがどうかしたか?」
「実はね、吉本会長の電話には録音機が仕掛けてあるんだよ」
「なんだと!? ふざけるな!」
横に立っていたウルフに指示を出すと、ウルフは拳銃を構えた。
「知られたからには生きて返すわけにはいかんな」
もはや罪を認めたと同義だった。
「まるで雑魚の台詞だね」
「なんだとぉ!? 撃てえ!」
二人の男は一斉に撃ち始めた。しかし・・・。
「あ、当たらねえ!」
白と葉一は最小限の動きだけで全ての弾丸を避けた。
「ふう、終わりかな? 撃ってくれてありがとう。これで正当防衛が成立したよ」
「な、なんて奴らだ・・・」
「言い忘れたけど、拳銃程度じゃ私たちは倒せないよ」
「ぐぅ・・・! くそぉ! どいつもこいつも邪魔ばかりしおって!!」
怒りに震えるが、何をしても無駄だと悟ったらしく、諦めたように椅子に深く座った。
「それで、何が望みだ」
「吸収合併の中止と、ライバルとして以外の吉本との悪意ある接触の禁止。それと桜花ちゃんへの謝罪もね」
「分かった。こちらが損をするわけではないしな。もう吸収合併の計画は諦める」
「ではこちらの書類にサインと拇印を」
坂本会長は朱肉を取り出すと見せかけて拳銃を取り出した。
「馬鹿め! 甘いわ!」
不意をつかれた葉一だったが、なんとかギリギリ避けられる距離ではあった。しかし、弾が飛んでくる前に猫が坂本会長の手を引っ掻いた。
「フゥー!!」
「痛ええ!! なんだこの猫は!」
手元にあったペンで刺そうとした瞬間、葉一は拳銃を払いのけると同時に猫を救出した。
「坂本会長。いや、坂本金太夫、あなたは最低の人間だな」
「痛いよぉ! 誰か消毒液を持ってきてくれえ!」
泣き喚く坂本を無視して、傷から出た血を使い、拇印を押させた。
「押した、押したから早く医者に!」
「そんな傷は舐めてれば治りますよ」
「くそぉ! 覚えてろよ!」
「覚えてるかは分かりませんが、逃げも隠れもしません。始末屋葉月、いつでもお相手しますよ」
ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。