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真実

この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。

 店を閉めて家に戻ると、リビングで桜花が話し始めた。

「皆さんお気付きの通り、本当の天才と言われた人格はあたし、桜花です」

「なんでわざわざ早百合ちゃんを使ってここに?」

「なかなか決心のつかないあたしに業を煮やして勝手に来たんです。あの子忘れっぽいから封印の時も早百合のままで」

「そうか、自分で進めてしまおうと思って肝心の桜花ちゃんのことを忘れてたってことか。じゃあ、桜花ちゃんはなんで姉だって言ったの?」

「あれは個人的な人格の設定です。妹が欲しかったので早百合を創って、私が姉になる。ということです」

「それで、ここから逃げ出したわけは?」

「実は・・・ウルフが動いたという報せがあったので」

「ウルフってこの三人?」

「はい。お爺ちゃん直属の諜報部隊です。あたしの味方である偵察の人が報せてくれて、これ以上ここにいても迷惑になると思い」

「それが心配でここに来た時から携帯電話を気にしてたんだね」

「はい」

「桜花ちゃんの話は分かった。後はこのウルフって三人だね。白」

「はい。そろそろ起こしますか」

「どうやって起こすの?」

「こうします」

 白はバケツ一杯の水を持ってきて、躊躇なく三人にぶっかけた。

「うわああああ!」

「目が覚めましたか」

「あ? ・・・貴様は!」

「この方たちを貴様呼ばわりするのはあたしが許しません」

 三人の男たちの前に立って毅然と言い放ったのは桜花だった。

「桜花様! しかし、この者たちは誘拐犯なのでは」

「誘拐? なんか面白そうなことになってるね。詳しく聞こうか」

 葉一は椅子に座って三人を鋭い目で見つめた。

「あんたら、会長直属のウルフって諜報部隊らしいね」

「なぜそれを!?」

「桜花ちゃんが全て話してくれたんだよ。それと、うちの優秀なのが色々調べてくれたしね」

「・・・」

「でも一つ疑問があるんだよね。あんたらの持ってる拳銃。なんで通常弾も持ってるわけ?」

「そ、それは・・・」

 しどろもどろになるウルフに桜花も気付いたようだった。

「もしかして・・・。戻らないようなら暗殺を命じられていた?」

「っ!」

 ウルフの動揺が、何よりの証拠となった。

「どういうこと? あたしはお父さんにただ用事があると言ってここに来たのよ? なのになんでお爺ちゃんがそんな命令するのよ!」

「じゃあ、命令の内容を言ってもらおうか」

「そ、それは出来ない」

「あそ、じゃあ幸三会長に失敗のこと伝えるね」

「そ、それだけは!」

「桜花ちゃんはどうなってもやっぱり自分が大事?」

「・・・。条件がある」

「条件次第では飲みましょう」

「暑いので服を脱がせてくれないか」

「え? でもここは―――」

 言いかけたところで白が桜花の口を封じた。

「そうですね、こう暑いと何も出来ませんから」

「助かる」

 別に暑くなんか・・・。そうか!

そう、服には発信機はもとより盗聴器もあるはず。それらを仕込まれた服を着て話すのは裏切りを公然と宣言するようなものだった。

 脱いだ服は洗濯機に放り込んで水だけ入れてスイッチを入れた。これでとりあえず会話が聞こえることはない。

「多分、気付かれたと思うけど、監視者との距離は?」

「おそらく麓で待機しているはずだ」

「じゃあ異常を察知してここに来るまで少し時間があるね。車で移動しながら話そう」

「にゃあ?」

「この子どうします?」

 なぜか猫が玄関で待機していた。

「置いてくのも心配だけど、連れて行くのもなあ」

「ゲージに入れて移動しましょう。時間もないですし」

「そうするか」

「にゃあ」

 猫は分かっているように嬉しそうに鳴いた。


 事の発端はほんの小さな計算違いだった。

桜花はいつも通りに研究者の持ってきた資料を元にコンピューターのアルゴリズムを作成。しかし、そのアルゴリズムに小さいが大きな欠点があった。

その事によって吉本幸三会長が暖めていた大きな計画に支障をきたしたという理由で、幸三の逆鱗に触れたのだった。

「ひどい・・・。そんなことで桜花ちゃんを殺すっていうの?」

「それは我々にとっても本当に最終手段なんだ。どうしても戻らないというのであれば機密保持のために・・・」

「それでも、殺すという選択肢があるっていうのは尋常じゃないね」

 白の運転で山を越えると、監視者が待機している麓の反対側に出た。

「さて、事態が急展開になっちゃったわけだけど、依頼はどうする? 桜花ちゃん」

 当初の依頼は封印と知能の低下だったが、事態は変わった。本来の人格である桜花の登場、幸三会長直属のウルフの登場。これからどうするのかは、桜花に委ねられた。

「追っ手はまず来ないでしょう。桜花さんの携帯電話は桜花さんの部屋に、ウルフのスーツは洗濯機の中ですからね」

「ただ、一つ面白いことになってるんだよね、どうやら私たちは桜花ちゃんを誘拐したことになっている」

「会長は、誘拐犯のせいにしたほうが都合が良いと言っておられた」

「なるほどね、それなら救出の時に間違って桜花ちゃんが死んでもなんとでも言えるわけだ」

「本当ひどいですよね! あれ? でも桜花ちゃんが戻ってそのコンピューターを直せばいいことなんじゃない?」

「そういうわけにもいかないだろう。今更直したところで計画というのは失敗になっている。失望した会長がやりそうなのは常時監視付きの軟禁生活だ」

「そんな生活、誰も望まないでしょうね」

 小さな女の子に全てを押し付け、自由を奪うなんて非道なことを、見過ごせるわけはない。

「でもお爺ちゃんがそんなことをするなんて思えないけど・・・」

「最近の会長はそうなんです」

「桜花ちゃん」

「はい」

「どうするかは決まった?」

「いえ、まだ・・・」

「なら、私たちが独断で動いちゃっていいかな?」

「葉一さま!?」

「独断でって、どういうことです?」

「始末屋っていうのはね、始末するだけが仕事じゃないってことだよ」


 東京にある吉本グループの本社は地下二階、地上十一階建てのビルで、地下にはリラクゼーション施設があり、社員は疲れを取るのによく利用する。会長、社長、副社長及び重役等は最上階である十一階にて主にデスクワークをこなしている。

その本社の駐車場に、白は堂々と車を停めた。

「これからどうしますか?」

「決まってるじゃない。会長に会うの」

「お前ら正気か!? 会長に会う前に追い出されるのがオチだぞ!」

「大丈夫だよ。ここからは本業だしね、遠慮なく突破させてもらう」

「殺すんですか?」

 真剣な桜花の質問に、三人は笑顔で答えた。

「始末屋だからといって、殺しは極力しないというのが葉一さまの考えです」

「そうですよー、今までの依頼だって死者0が自慢なんですから」

「だから、桜花ちゃんはここでウルフのおじさんと、猫さんと一緒に待っててね」

 言われて桜花が隣を見ると、猫が不思議そうな顔で「にゃ?」と鳴いた。

「はい、分かりました」

「よし。じゃあウルフの三人、桜花ちゃんとうちの猫をしっかり守ってね」

「分かった」

「それじゃあ、行きますか!」

 車を降り、正面玄関から堂々と入った。

会長の居場所はウルフから聞いているので、わざわざ受付に行く必要もない。ウルフから聞いた通りの関係者以外立ち入り禁止の文字が書いてあるエレベーターへ向かう。

「ここだね」

 エレベーターの横にはボタンが無く、カード認証の装置があった。

 ウルフから借りたカードを通すと、認証は滞りなく成功し、エレベーターが開いた。エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押すと、静かに上り始めた。

 最上階に着くと、そこは一流のホテルかのような内装で、本社の玄関からは考えられない造りになっていた。

「これはまた、自分を王様だとでも思いたいのかな」

「すごーい、葉一さま、ここ全部大理石ですよ!」

「みたいだね、赤絨毯もさぞかし高級品なんだろうね」

 その赤絨毯を歩き、会長の部屋へと向かう。

一番奥の部屋に来ると、専属らしい受付嬢がいた。

「アポイントメントは取られていますか?」

「いや、ちょっと急用なものでね。アポは取れなかったんだけど、吉本桜花ちゃんの件についてと言えば分かると思うよ」

「・・・。失礼ですがお名前は」

「始末屋の葉月葉一」

「分かりました」

 受付嬢は電話で会長らしき相手に話を通した。

「どうぞお入りください」

「ありがとう」

 必要あるのか? と疑問に思ってしまうような重厚な扉は案外簡単に開いた。

会長室はなんとも質素だった。最小限のオフィス設備に机にはノートパソコンと電話があるだけで、忙しそうとも思えない雰囲気だった。

「君たちかね。私の孫娘を誘拐したというのは」

「いきなり挨拶ですね幸三会長。計画が頓挫したからと孫娘を殺そうとするとはね」

「孫娘を殺す? なんのことだ」

「ウルフに実弾を持たせたのはあなたでしょう」

「ウルフだと?」

「ええ、そうです。会長直属の」

「いや待て、ウルフはもうわしの部隊ではない」

「どういうことです?」

「ウルフはライバル企業に買収されたよ。裏切り者めが」

「それはいつのことですか」

「つい昨日のことだ。待てよ、そういえば孫娘が誘拐されたという報せも確かライバル企業が・・・」

「ということは、ウルフは最初から桜花ちゃんを消すつもりで?」

「桜花はどこだ」

「駐車場の車の中でウルフと・・・白!」

「駐車場ではないようです。南に三キロほど行ったところでしょうか」

「南へ三キロぐらいといったら、ライバル企業の坂本グループ本社がある」

「金、白、行こう」

「はい」

「了解しました」

 行こうとした時、幸三が呼び止めた。

「待ってくれ」

「どうしました?」

「お前らは始末屋だったな」

「そうですが」

「ならば一つ、依頼を引き受けてはくれないか?」

「と、言いますと?」

「言うは易しだが、坂本グループの陰謀を始末して欲しい」

「陰謀ですか?」

「ああ。奴らはことあるごとにわしらを狙っておってな。今回も恐らくは吸収合併のための人質にと桜花を誘拐したのだろう」

「それは企業のためですか?」

「もちろん桜花のためだ。企業などいつでも再建出来る自信が、わしにはある」

 強い意志を持った良い瞳だった。

「分かりました。ではご報告にまた戻ります」

「よろしく頼む」

ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。

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