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本の紹介35『平気でうそをつく人たち』M・スコット・ペック/著

作者: ムクダム

嘘の仮面の下に隠れる人間の邪悪な顔

 なぜ人間は嘘をつくのか、そこに潜む邪悪について科学的アプローチを試みる作品です。作者は精神科医、カウンセラーとしての実務経験があり、仕事の中で出会った患者たちの話を下敷きにして虚偽と邪悪にまつわる人間の心理を分析しています。この手の本は頭でっかちな内容になりがちですが、作者が現場で体験したことが本書の内容を机上の空論と感じさせない要因となっているように思います。

 冒頭、「この本は危険である」という一文から始まる本書ですが、有名な事件や作者が診察室で接した患者の実体験を切り口にして、あらゆる人間が抱える虚偽と邪悪について炙り出す内容となっています。人間という種族への恐怖、そしてそこに含まれる自分自身の邪悪への恐怖を自覚させられるという点を見れば、危険な本というフレーズはあながち間違っていないかなと感じます。

 全6章から構成されており、各章においてまず具体的な事件や事例を紹介した上で、事件の当事者たちがなぜ嘘をつくという行為に至ったのか、心理学的に追っていく内容となっています。

 大雑把に言ってしまうと、嘘は自己正当化の欲求とナルシシズムから生まれるものであるというのが本書で言及されている内容となるのですが、特に印象深かったのは戦争と軍隊が抱える虚偽と邪悪の構造についての部分ですね。

 作者はベトナム戦争の際に米軍の精神科医として9年間勤務しており、戦争を主導する国・軍隊という組織が持つ集団としての悪と、戦地で実際に作戦を実行する兵士が持つ個人としての悪について言及しています。

 悲しいことについ忘れがちですが、戦争の大義名分がどのようなものであれ、現実に戦争で実行されるのは人の命を奪う殺人という行為です。命を奪うことは悪いことだというには、人類共通の認識であると考えます。その上で、どのような場合にそれが許容されるのか等の議論がなされ、法律や社会制度が出来上がっているものと思いますが、本来的に命を奪う行為には罪の意識が伴います。

 仕事として戦争に参加し現場で他人の命を奪うことになる兵士は、その作戦を決定したのは自分たちではない、命を奪うことを命じたのは軍隊という組織であると考えることで殺人の罪悪感から逃れようとします。

 他方、戦争の実行を決定する政治家や作戦を指揮する軍隊の司令部など現場にいない人間は、自分たちが実際に命を奪ったわけではないということで罪悪感を薄めることに成功しています。

 一連の行為は間違いなく邪悪なものであるにもかかわらず、それを細分化し分担することで、人間はその罪悪感から目を逸らすことに成功していると言えるのです。そして、そのための仕組みを人間は歴史的にいくつも作り上げてきているのですが、邪悪から目を逸らすことに長けていることこそが、ある意味で人間のもっと怖い部分なのかもしれません。

 軍隊や戦争の話は一例ですが、私たちは日常的に何気なく嘘をつきます。一度も嘘をつかずに一生を終える人間というのはまずいないでしょう。悪気のない嘘でも、その嘘をつくに至った心理を振り返ってみると、ちょっと笑えない心理が発見できるかもしれません。

 我が身に置き換えて読んでいると気が滅入ること請け合いの内容ですが、人間、そして自分の邪悪な面を知ることは、取り返しのつかない事態に陥るのを食い止めるチャンスにもなり得ると考えます。善悪は裏表の関係であるとも言いますし、本書には健やかに生きるための手助けという役割もあるかもしれません。終わり

 

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