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禁足地。
初めて聞く単語だった。
あのあと、私は二人と喫茶店の中に入った。そこはなんと、白い髪の人――義隆さんのお店だったらしい。萩原義隆さん。白くて長い綺麗な髪に、黒い縁の眼鏡をして、柔和な表情の男性。彼に促されて渋々、茶髪の少年――義隆さんにたっくんと呼ばれる――千堂匠海くんも、自己紹介をしてくれた。
私も二人に、自己紹介をした。
「花河茉莉花です」
「素敵な名前だ。よろしくね、茉莉花ちゃん」
「はい……。それで、なんなんです? その……」
「禁足地」
私の言葉を継いで、匠海くんが言う。
「そっかそっか。知らないか……。まあ、そうだね。簡単に言えば、『入ってはいけない場所』ってことだね。入っちゃいけない理由はいろいろある。大昔、死体を集めた場所で穢れているとか、地盤が不安定な場所で危険だとか、人食い鬼が出るから危ないぞとか、神聖な場所だから決して入ってはいけないとか」
「規模の大きい神社や離島にも、そういうものがあったりする。女人禁制、聞いたことないか?」
「それはあるかも」
男性しか入れない場所。その場所の神様が怒るからとか、理由はそんな感じだった気がする。
「最近は怖い物見たさで、そういう封じられた場所へ行く人も多い。それだけなら、まだいい。そいつらは自分の意志でそこへ行って、祟りや呪いを受けたりするわけだから」
「そんなオカルトな……」
「さっきまで呼ばれてたやつがよく言う」
「……」
匠海くんに事実を突きつけられて、黙り込んでしまう。こらこら、女の子を虐めないのと、義隆さんが匠海くんをたしなめる。
「でも、茉莉花ちゃんの場合は違う。それはもう、専門家の僕らですら、ちょっと驚くほどに。……あの動画に映っていた場所はね、僕らがよく知る禁足地なんだ。入りさえしなければ、何もしてこないはずの“もの”が、あそこにはいた。でもあの動画を見るかぎり、“あれ”は動画を通して、人を呼び寄せようとしている」
「……多分あの感じだと、もう何人か呼び寄せられてる」
冷静な表情で、匠海くんが怖いことを言う。
「呼び寄せて……どうなるの?」
「精気を吸われて――最悪、死ぬ」
ぞっとして、意識が遠のきそうになった。恐ろしいことを言ったのに、匠海くんの表情は変わらない。
そこで義隆さんが、一つ名前を口にした。それは私にとって、聞き覚えのある名前だった。
「クラスメイトですけど……でも、なんで知ってるんです?」
「さっきの動画の送り主だよ。……茉莉花ちゃん、その子から何か恨まれるようなこと、したかい?」
「そんな、まさか……。ほとんど喋ったことない女の子ですよ? 恨まれるなんて……」
「でも送り主は今たっくんが言ったように、動画が危険かもしれないって分かってたと思うよ。遊びで誰彼構わず送るようなものではないからね。……でも。ってことは、向こうから一方的に恨まれてるってことか。まあ、思春期はいろいろあるからなぁ……」
と言って腕を組むと、義隆さんはうんうん唸った。けれど私は、義隆さんの言葉を反芻して、一つの疑問に行き着く。
「もしかして……これって送った側は、なんともないってことですか? でも、どうして私だけ……」
よくぞ気付いたと言わんばかりに、義隆さんはしたり顔を見せる。
「茉莉花ちゃんがそれに気付いた時点で、もう答えは出ているよ。――“あれ”は相手を選別している」
「多分、あれは『人の悪意』に呼応してる。送り主が花河さんを嫌ってたから、こうなった」
「けどね、さっきも言ったけど、元々“あれ”は何もしなければ、何もしてこないんだ。つまり、『人の悪意』に呼応するように“あれ”を変化させた『何か』が、禁足地にはある」
「……それを何とかできれば、この件、解決できるってことですか?」
義隆さんは、うんと頷いた。




