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戦国和倉温泉  作者: いばらき良好
第11章
31/58

11の1 常夏を走る

 春の日差しが気持ち良い。どこまでも碧い海が広がって見える。

 石川達也は船上にいた。

 文禄三年(1594年)三月十日の早朝に出航した。最前列にはレーダー完備の前田家ミニクルーザーがいる。後ろに続くは一〇〇隻を超える日本大船団。九州の兵約四万名が乗船している。


 達也は主君の前田利政殿たちと、加藤清正殿(三十三歳)の蒸気船に乗っていた。

 この船は水線下一階、水上二階造りで全通甲板となっている。船内中央には蒸気を発生させる釜とピストンや歯車があり、船の両舷には水を掻いて進む水車(外輪)が付いていた。さらに帆走のための二本マストと戦闘用の大砲八門も装備している。

 今まさに大きな帆に風を受けて、船は西へと進んでいた。


「こんな凄い船、よく造ったなあ」

 達也の感嘆に、清正殿は上機嫌で応えた。

「我が軍師の森山(三郎)は手堅い仕事をする。お主も同じ和倉衆なら解かるであろう」


 確かに、森山は豪傑肌で呑気ではあるが、仕事ぶりは真面目で手堅い。森山も横に居るのだが、達也は話を続ける。

「解かります。この大砲は国友産ですか」

 大砲の脇に置かれた箱の中の砲弾が鉄球3・75キログラムなので一貫目砲だ。砲身は、そのつやと茶色味から青銅製らしい。


「ああ、そうだ。佐吉(石田三成)に作って貰った」

 側にいる三成殿が清正殿の言葉を継ぐ。

「古寺の鐘を鋳つぶした時に、バチは虎之助(加藤清正)へやってくれと祈ってある」

「ワシは信心深いから大丈夫だ。寺の鐘よ、戦のためにすまぬな。南無妙法蓮華経」

 清正殿は真剣に手を合わせて大砲を拝む。この御仁は大声だし、本心を隠さない。前田の大殿(利家)によく似ていた。いや、大殿の方が思慮深いか。


 ここには前田利政殿と奥村右近殿に達也、加藤家の清正殿と森山そして家老三人、石田家の三成殿と島左近殿の一〇人がいた。

 他の大船には最大六〇〇名までの兵員が乗っているが、この船は旗艦なので兵は半分の三〇〇名である。念のために咳や高熱の将兵は、港に置いて来た。


 多くの兵が座る甲板に珍しい物があった。

「あっ、あれは井戸ポンプですよね」

 達也が見つけたのは、よく古井戸に付いていた手押しポンプであった。

「高波や座礁、敵に撃たれた時に緊急排水を行う。穴埋めまでの時間稼ぎさ」

 森山の説明に一同納得した。本当によく考えて作ってある。今、蒸気釜には火を入れてないが、森山の船だ、間違いなく動くだろう。


「では、まずは戦略から決めよう。座れ、座れ」

 二人の和倉衆を味方に加えた清正殿が、船尾甲板に陣取った。下は操舵室だ。

 船上での清正殿は腰に大脇差のみ、着物に小具足の袖小手だけを装着している。他の九人も同様な姿で車座になって座った。


「戦略上の優先順位は、南蛮攻略、豪州開拓、天竺奪還で良いな」

 九州軍大将の清正殿が、皆に確認した。達也もうなずく。

「いかにも。キリシタンの日本侵略と人身売買を防ぐのが、この戦の大儀だ」

 三成殿が代表して返事した。


 森山が縦60センチほどの地図を広げた。清正殿が説明する。

「九州軍の受け持ち範囲は、インドシナ半島を除く東南アジア全域だ。広いので拠点が必要となるだろう。そこで第一拠点を台湾の基隆港に置く」


 清正殿が地図の一点を指した。なるほど、地図で見ると台湾は超重要な位置にある。マレー諸島を「下向きの扇」に見立てると「要」の位置が台湾だ。

 太閤殿下はこれを知っていて、台湾を信頼出来る石田三成殿に与えたのだろう。

「台湾は我が領地。南蛮攻めの補給支援は任せてくれ」

 三成殿が胸を張った。達也が応じる。


「今後も、レーダーと無線を積んだミニクルーザーを船団の先頭に配しましょう」

 大将の清正殿が礼を言った。

「佐吉、石川殿も、かたじけない。ワシは陣割を考えた。常夏フィリピンにはワシら加藤家、ボルネオには立花家、マレー・スマトラには鍋島家、ジャワには島津家を置く。次の段階では、香港・マカオに小早川(秀秋)家、グアムに寺沢家、パラオに松浦家を配す。第三には、セレベスに黒田家、パプアに毛利(吉成)家、ニューカレドニアに高橋家、フィジーに秋月家、サモアに伊東家を送る」


 ここで島左近殿が口を開いた。

「よい布陣でござる。敵スペインの兵力は如何ほどでござろうか」

「マニラのスペイン正規兵は四〇〇名です。大砲の性能こそ、戦の要でしょう」

 達也が昔に本で読んだ知識を披露した。


「かたじけない。油断なく攻めましょう」

 左近殿は石田兵二六〇〇名を率いてはいるが、三成殿が陣借りの立場なので、あくまで大将の清正殿を立てている。


 二日目の午後には台湾が視認でき、夕刻までに台湾北岸の基隆港に到達した。

 湾内は広く波も静かで、周囲の山々には緑が多く、温暖な気候なので拠点には最適であった。

 達也の知識では、ひと山越えれば台北につながる川と平野があり、いずれは稲作増産による食糧調達も可能であろう。

 日本軍は物見も出さずに、小船で競うように、台湾の大地に上陸した。


 達也も利政殿たちと上陸し、初めての台湾に舞い上がった。まるで子供のように、ヤシの実やバナナは無いかと森を見て歩く。漁村はあったが、人が居ない。現地の民は恐れて山に逃げ込んだのであろう。

 三万を超える将兵が基隆港にあふれ、飯を炊いて夜を明かした。野宿でも春三月の台湾は寒くなかった。


「先ずは飲み水の確保。次に大名家ごとに陣屋を作れ。この地を第一拠点とする」

 九州軍大将・加藤清正殿の命令が飛んだ。

 大名たちは、清水の得られる丘や港の具合の良い場所に陣幕を張った。それから一斉に木を伐り、太い木材は陣屋の柱に、枝は周りを囲む柵となった。

 三万人以上での工事は驚くほど速かった。どの兵も訓練されているからであろう。


「タイワン」

 ある日、赤い鉢巻をした現地の子供たちが、飯の匂いに釣られて山から出て来た。綺麗な模様の刺しゅう入り羽織を着ている。

「タイワンとは、お客さんの意味です」

 達也が昔に本で読んだ豆知識を周囲の人に伝える。

 無邪気で人懐こい子供たちで、僧衣でオジサンの達也もそうだが、立派な服装で十七歳と若い利政殿の方が、一層の人気であった。


「確かに我らは外から来たお客さんだ。では、飯だ。ご飯を一緒に食べよう」

 利政殿は陣借りの身分でありながら、配給を子供たちに分けてやった。

 献立は、炊き立てのご飯に味噌汁、よく焼いた魚の干物、大根の漬物などである。

 わーっと食べて、子供たちは遊び、日暮れには笑顔で帰って行った。

「嵐みたいだったな。可愛いものだ」

 我が主君の利政殿も上機嫌であった。


 翌朝、加藤家陣中の掘っ立て小屋である前田屋敷に現地の村人が多くやって来た。お揃いの赤い鉢巻に白い鳥の羽根を頭に挿していた。大人たちも刺しゅうの綺麗な着物をまとっている。手には南国の野菜や魚を持っていた。

 どうやら物々交換をしたいらしい。特に子供たちに親切だった利政殿を頼って来たのだろう。


「すごいな、こりゃあ」

 右近殿も驚いていた。

「米はあります。前田家の三人では余るので、民に与えましょう」

 達也は利政殿に提案した。

「よし決まった。じゃあ、布が要るな」

 利政殿は立ててある前田家の幟旗を迷うことなく切り裂いた。小分けにして米一升ずつを包む。そして交易となった。


 あっという間に包んだ米は捌けて行き、地元野菜と魚に変わった。サトウキビや枝豆、南国の果物。魚の種類も豊富らしい。

「さすがは前田殿、瞬く間に台湾の民を家来にしたか。はっはっは」

 やって来た清正殿はこれを喜び、削ったサトウキビをかじった。


 十日ほど交易を続けたが、いよいよ呂宋のマニラ攻略に出発することになった。

「この交易所は石田三成殿に任せる。台湾の友たちよ、今まで世話になった」

 言葉の通じぬ現地民に手を振って、利政殿は朝日に煌めく小船に乗る。達也たちも船に乗った。子供たちが手に持った前田旗の端切れを元気に振っている。


「凄い人気ですね。殿」

 大船に向かって櫓が漕がれる。

「ああ、良い人々であった」


 この若い殿は「爽やかで優しい人」だと達也は思った。利政殿と一緒なら、これからも面白い光景が見られるだろう。達也はとても嬉しくなった。

 となりで元気な右近殿も、大きく手を振っていた。


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