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戦国和倉温泉  作者: いばらき良好
第8章
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8の2 利政結婚

 三月二十六日、晴天の能登和倉温泉が薄紅色の八重桜で満開の頃、利政(十五歳)は、最上義光の次女駒姫(十二歳)と祝言を上げた。


 思い返せば、昨年の最上殿仕官のおり、利政は最上四姉妹と出逢っている。特に瞳の大きな駒姫は子猫のように可愛くて、自然と眼を奪われたものだ。

 利政は和倉の珍しい品々に文を添えて送り、駒姫からも綺麗な文字の手紙を頂いた。

 父の利家が、家臣の最上殿に了解を得て婚約となり、そして本日、和倉温泉加賀屋で神前結婚式となった。


 前田家と最上家の親族が揃う中、利政と駒姫が入場し、榊でお祓いしてもらい、三三九度の盃を交わした。


 そして大広間に移ると、両家の一門、重臣たちが膳を並べて勢揃いしていた。

 又兵衛たちは「前祝いだ」と言って、朝から泥酔していた。今日は無礼講だったのかと思うと利政にも自然と笑みが生まれ、緊張が和らいだ。いつもの相棒、右近と石川も末席に参列している。


「神仏は尊いが、どうせワシらは地獄行きじゃ」

「又兵衛の馬鹿者が。祝いの席だぞ。言葉を選べ」

 酔った又兵衛を父上が叱るが、本気で怒ってはいない。挨拶みたいなものだ。


「今日の若殿は立派に見えるな。嫁さんも美人だ」

 おい、聞こえているぞ。剛毅で武辺者揃いの前田家臣は言葉を飾らない。これは、君臣とも家族同然の付き合いだから、怒らずに許せるのだが。


 兄利長と嫁の永姫様から祝の品を貰い、病の伯父安勝からお言葉を頂戴した。

「あっぱれ見事な若武者ぶりよ。可愛い奥方様も万々歳。二人とも末永く幸せになぁ」

「伯父上、かたじけない」


 さらに義父の最上殿は涙で酒を飲み「めでたい。日本一の婿殿よ」と盃を天に掲げた。義母上や他の三姉妹も笑顔であった。


 宴もたけなわ、父上は自慢の「槍の舞」を披露し、母の松は笑って拍手していた。

 横で微笑む新妻に「駒姫、いく久しく頼む」と利政は声を掛けた。

「はい」と静かに頷く駒姫を、可愛い嫁御だと思った。


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