序章:胎動
昔々、ある国が滅びた。
信仰と剣と、わずかな理想にすがっていた国だった。
誰もがその終わりを語る。
けれど、その中心にいた少女のことを語れる人間は、そう多くはない。
だから私は、語ることにした。
これは、王女リゼナの物語。
王家の血と信仰の鎖に縛られながらも、自らの意思で歩いたひとりの少女の記録だ。
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あのとき、彼女には何もなかった。
王都は包囲され、神殿は沈黙し、玉座の後ろには逃げ場すらなかった。
命じることも、祈ることもできなかった少女が、
ただ、立っていた。
まるで、すべての終わりを受け入れるように。
でも、あれは終わりではなく、旅の始まりだった。
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彼女は剣を持たず、術にも長けず、ただ「信じる」という力だけを持っていた。
旅のなかで出会った人々。
かつて共に過ごした仲間との再会と衝突。
誰かを守るために、誰かを置いていくという決断。
王女としてではなく、ひとりの人間として、
誰よりも人を信じ、誰よりも揺らぎながら、
それでも進もうとした彼女の歩み。
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語りたいことは山ほどある。
けれど、その全てを語るには、まだ言葉が足りない。
だから私は、順に紐解いていくことにした。
あの戦火のなかで、
彼女が見た景色。
彼女が選んだ未来。
そして、その歩みが何に変わっていったのかを。
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これは、英雄譚ではない。
神話でも、伝説でもない。
けれど、私は信じている。
あのとき確かに、彼女はそこにいたと。
それを語り継ぐことに、きっと意味はあると。
王女リゼナの人生が、
どこかの誰かの心に、
ほんの少しでも灯りをともしてくれたら――
本作は、隔週金曜日に1章ごとをまとめて掲載していきます。
(次回更新;2025/05/23[Fri.]20:00 1章25話構成)
→上記予定でしたが、次回更新2025/06/06[Fri.]20:00(JST)
に延期させていただきます。理由は英語版の進行と合わせるためと、翻訳の最終調整。6月頭からの方が管理しやすいためです。こちら都合でお待たせしてしまい。申し訳ございません。
→2025/05/27追記。大変申し訳ありません。投稿直前でのお知らせになってしまい恐縮ですが、私の個人的な環境の変化や体調悪化、現実での繁忙が重なり、連載の開始がしばらくできなくなってしまいました。誠に申し訳ありません。序章だけでもたくさんの方にお読みいただき、ブックマークも感想もいただき期待をしていただいたにもかかわらず、裏切ってしまったのは人としても小説家としても失格に値する行為だと自覚しております。
この連載は凍結となりますが中止ではありません。安定して連載が可能になった際は改めてお知らせいたします。もし連載開始の際は改めてお願いいたします。