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ひつじの2人  作者: 島平
第一章
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見覚え

 着いた場所は、美術室だった。至って普通なこの教室で何があったのか、そう思った時、その原因でありそうな物が目に入る。

 大きなキャンバスに描かれた絵。だが、なにかで突き抜かれたであろう大きな穴が空いている。ひと目見た僕にでも、他害(たがい)であることは明らかであった。その近くで泣いている女子生徒。おそらく、彼女の作品なのだろう。


 「問題って、あの絵のこと?」


 「そう、あの泣いてる人の絵なんだけど。俺と同じクラスの人で、放課後入ってすぐここに来て気付いたんだって。それであの作品の穴、どう見ても不自然だよな」

 

 「私も思った」


 どうやら2人も気づいていたらしい。なら誰か、人の手によるもので確定だ。新学期早々、悪質ないたずらで気味が悪い……。


「ん?」


 すると急に、この教室の、この事件に覚えがあるように思えてきた。なぜかはわからない。だが、言葉に表せないほど、見覚えがあるような感覚になった。


 「僕、この場面見たことあるかも」


 「え、それって、デジャブってやつ?」


 「わからない。わからないけど、前に見たことある気がするし、これは、人の手じゃないと思う」


 そう思うと、朝の誉の見た夢のことを思い出した。「嫌な夢」とは正に、このことを指しているんじゃないだろうか。


 「『見たことある』か。んで、人の手じゃないってどういうことだよ」


 「かもしれないだけ。そして、それを今確かめる。朋也。あの人の名前なんて言うの?」


 「おい、一年の時同じクラスだぞ。佐竹さんだよ」


 「あぁ、顔見えないからわからなかった」


 佐竹さんに聞きたいことがあった、この絵を見つけたときの状況を。それを聞けば『わかる』気がした。


 「佐竹さん、この絵を見つけたときの状況聞かせてほしんだけど……」


 「………」


 だめだ。泣いていて返事をしてくれない。それとも聞き方を間違えたか。それとも嫌われてるのか……。

すると、2人が駆け寄ってくれた。


 「佐竹さん、俺 五十嵐!それと一年の時同じクラスだった 柊!ちょっとこの絵を見つけたときの状況聞きたいんだけど、ごめんね、いいかな?」


 「……大丈夫」


 「ありがとう!」


 涙ぐんだ声で返事をしてくれた。

 なるほど、朋也の顔と性格がイケメンだから返事をしてくれるのか。なるほどね……了解。


 「私がこの教室に入ったとき、この絵が倒れてて、慌てて起こしたら破れてた…。でも、下に何も無かったし、倒れたときに破れたわけじゃないと思う」


 「どこに絵を掛けてたの?」


 「そこの開いてる窓のとこ。昨日ここで描いた時、明日も描きたいから早く乾かすために、開けた窓のとこに掛けたんだけど……」


 「その掛けるためのネジも外れてないと……。なんかわかりそう?康平」


 朋也が話を聞いてくれてる内に、教室を見て回った。佐竹さんの言う通り、床に絵を突き抜けそうなものは落ちていなかった。だが一つ、解決の糸口になるものを見つけた。


 「やっぱりあった。うん、多分わかったよ」


 どういうわけか、この事件に覚えがあった。いや、この場面に『見覚え』があった。気づいたのはさっき、朋也が言っていた言葉。『デジャブ』だ。これのお陰でこの事件の真相を知ることができた。


 「なにか見つけたのか?」


 「うん、これ」


 「え……鳥の羽?」


 「そう、それと絵も見てみ」


 「穴の周りに羽…付いてる」


 「僕が思うに、その穴を空けたのは鳥。多分だけど、窓に反射した外の風景を見た鳥が、突っ込んできたんじゃないかな」


 「……そっか。私、危うく誰かを疑ってしまうところだった…。ごめんなさい。私が窓を開けたのが原因でした。解決していただきありがとうございました」


 あとはもう言うことがないな。この学校の誰かが犯人じゃなくてよかった。朋也もお礼を言われて嬉しがっている。まぁ、朋也が僕と誉を呼んでくれなかったら、大事になっていたかもしれないしな。


 「解決できて良かったね。康平」


 「本当は全部偶然なんだけど。そうだね、良かったよ」


 「康平!助かったわ!飯奢るぜ」


 「お、じゃあ昼食べに行くか」


 「私のは?朋也」


 「しょうがない。ついて来てくれたし、いいでしょう」


 そんな会話をしつつ、僕達三人は学校を出た。

 お店に向かう途中、解決しなきゃいけないもう一つの問題を思い出した。僕にとっては、この問題のほうが難題だ。次はこいつに聞いてみるか。


 「なぁ、朋也。僕の長所って何かあるかな」


 「何だその質問。康平は、さっきみたいな、その場の状況判断力あると思うし、優しいよ!」


 「長所が一つ増えた。この調子で増えて行ってほしいな」――


 

 そうして今日が終わり、来週からはまた、授業のある日常が始まる。そうやって日が進んで行く。決して過去には戻れない。過去を踏みしめ、未来へ進むための地になり、道になっていく。それが今を生きることである。

 

 今日が、僕達にとっての、物語の始まりになることをまだ、知る由もなかった。




  第一章(完)

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