家出姫は隠れ家を作りたい
「……豚さん達には頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいと思うのか?」
竜王の前に立つ小さな少女をボロボロのオークキングが威圧する。
「ねぇ、トカゲ、私ポークステーキが食べたいかも。」
「そうか、おぉ、ちょうど目の前に美味しそうな豚がおるなぁ。」
「ぐ……、わかったよ。俺達は負けたんだ、どんな命令でも聞こう。だが、部下の命だけは助けてくれ、彼等の中には家族がいる者もいるんだ。知らしめに首がいるなら俺の首だけで許してもらえないか?」
「え……首なんていらないけど。あと、あなたの部下を殺したりもしないよ。」
「じゃあ、俺達に何をさせたいんだ?」
「ふふーん、それはね。みんなには私の秘密基地を作って欲しいんだよ。」
「は?」
オークキングならびにオーク達は予想もしていなかった返答に口を開けたまま固まる。
「あれ、秘密基地しらない?」
「いや、知っているが……秘密基地を作れというのはお前が住める家を建てるってことで合ってるか?」
「うん、それを周りから見ても見つからないように作って欲しいの。」
オークキング達はなぜそんなものが必要なのか分からなかった。隠れるのは弱いものが行うことであり、竜王を従えている少女に必要とは思えなかった。
「まぁ、なんでそんなもんが必要なのかわからんが俺達はお前に従うしか無いからな。」
立ち上がり作業を始めようとするオーク達をネルファは「待って」と制止する。
「なんだ?」
「その前に決めることがある。」
「なにを決めるんだ?」
「まずは給料、それと休みの日数。」
「給料……って給料がでんのか?」
「当たり前。ご褒美無しで働くとか絶対ありえない。私もしない。」
「いや、だけどよ。俺たちはこの村を襲ったんだぞ。そんな良い待遇してもらっていいわけ無いだろ。」
「でも、給料無し、休み無しじゃ死んじゃうよ?」
「それは……」
オークキングは自分達がしたことの罪の大きさは理解しているし、それが自分達にとって必要だったことも理解している。全て覚悟の上だったからこそ、裁かれないことが理解できなかった。
「迷ってるなら貰った方がいい。あとで後悔するから。私も隠れて屋台で買い物したときに箸貰わなかったことを後悔したことある。」
いや、それとこれとは話が違うだろ、とトカゲはネルファの後ろで思う。
「あと、ここにいる豚さん達が住む家も必要だね。ねぇ、村長、ここに豚さん達住まわしていい?」
トカゲの後ろから腰を曲げた白いヒゲの村長が数人の村人と共にに現れた。
「ネルファ様、それを儂らに訊くのはお門違いですぞ。ここは元よりネルファ様の……王家の領地。それを決めることができるのはネルファ様、あなただけですよ。」
「ううん、私が聞いてるのはそういうことじゃないよ村長。オーク達を許せるのかを聴いてるの。」
「……幸い重傷者や死者はおりませんし、村への被害も全てネルファ様に治していただきましたので儂らは矛を納めていただけるであればこれ以上のことはございません。……しかし、オークキング殿に一つお聞きしたいことがあります。」
村長はオークキングに視線を向ける。
「なぜ、儂らの村を襲ったのですか?ここは王家の領地の中でも僻地と言われる場所です。こんな場所を落としても魔王軍が有利になるとは思えません。………魔王軍の進行とは別の理由があるのではないですか?」
鋭い指摘にオークキングは俯き話し始める。
「……そうだ、今回の人間界への進行に魔王様は関係無い。全て俺達が計画したことだ。」
「どうして、こんなことしたの?」
「なぁ、姫様、人間界ってのは良いよな。綺麗な水、肥えた土、生い茂る木々がある。俺達の住んでた魔界も昔は人間界と同じだった。でも、ある時から水は枯れ、土壌は荒れ果て、作物が育たなくなったんだ。」
オークキングは地面の柔らかい土を大きな手ですくい上げる。
「俺達は必死で食料を掻き集めて生き残った。だが、もう限界だった。だから、俺達は人間界の土地を奪うことにしたんだ。」
「それなら、村じゃないところに住むだけで良かったんじゃないの?」
ネルファは子どもらしく気になったところに質問していく。
「そうだな。だが、それじゃあ、ダメなんだ。それでは俺達は人間達から攻撃されてしまう。だから、魔王軍の進行に見せかける必要があったんだ。」
ネルファは首を傾げる。
そんなネルファに村長が丁寧に伝える。
「ネルファ様、魔王軍でもない魔物達が人間界に現れるとどうなると思いますか?」
「え、どうって……倒される?」
「はい、しかし、その魔物達が魔王軍の者達ならどうですか?」
「………?」
「ははは、まだ、ネルファ様には難しいですかな。……魔王軍の魔物達を王国軍はすぐには攻撃出来ないのです。もし、すぐに軍を向かわせてしまえば、その隙に別動隊に国を攻められるかもしれませんから。」
「まぁ、その作戦は失敗したのだがな。まさか、竜王がいるなんて想定できるわけがあるまい。」
「むむむむ」頑張って村長達が言っていることを理解しようとネルファは眉間にしわ寄せる。
「……オーク達は食べ物を食べるために頑張ったってこと?」
「はははは、まぁ、そういうことです。オークキング殿、そういうことなら儂らはあなた達を咎めはしません。儂とオークキング殿は似ているのかもしれません……お互い未来を生きる者たちによりよく生きてほしいと願っているわけですから。お互い話し合いで済みたかったですな………それが叶わないことは儂も十分理解してますがな。」
「村長殿……」
オークキングは地面に額を打つけ頭を下げる。
「村長殿よ……本当に申し訳ない。」
「はっはっは、顔を上げなされオークキング殿。これからネルファ様の秘密基地とやらをお互い協力して造らなければならないのですから頭を下げている暇などありませぬぞ。」
泣いて謝るオークキングに手を差し伸べる村長。
なんか、いいね。
竜の尻尾に座り、その光景を見ていたネルファはそう思った。
「よし、じゃあ、頼んだよ。2人とも。」
「「お任せください、ネルファ様」」
オークキングと村長はネルファを前に膝をつき頭を下げる。こうしてオークと人間が共存する新たな村が誕生したのだった。
「そう言えば、豚さん達ってここにいない人達も含めて何人くらいいるの?」
「そうですね、ざっと100くらいかと。」
「そっか、村長この村は何人ぐらい住んでるの?」
「70人くらいですね。」
「これ、食べものも足りなくなる?」
「はい、食料の問題も在りますが100人以上のオーク達となると住むところの用意も早急にしなければなりません。しかし……」
「オーク達と力を合わせればなんとかならない?」
「それがですね。この村には建築士がいないのです。前まではドワーフ族の方が住んでいたのですが旅に出てしまいまして。」
「豚さん達にもいないの?」
「俺達は洞窟に住むから建築はしたことがないですね。」
「そっかぁ、じゃあ、秘密基地を造るのに必要なのは建築士と食料ってこと?」
「はい」「そうですね」
「じゃあ、私が了解取ってくるよ。」
「いやいや、待ってくだされ、わざわざネルファ様が行くことはありませんよ。」
「そうです、ネルファ様が行くなら代わりに我々が行きますから。」
二人は慌ててネルファを止める。
「いや、いいよ。私が一番速いし。ね、トカゲ。」
「速いのはお前ではなく我だがな。」
大きな翼を広げトカゲは元気に応える。
その背に跨り再びネルファは空へと旅立つ。
「あ、そうだ。ドワーフってどこに住んでるの?」
「ドワーフ達はここから南にあるセンブ山というところに住んでおります。」
「りょ〜かい。トカゲ、南に全速前進!」