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家出姫は家を出る

ゴロゴロと身体より遥かに大きく無駄に豪華絢爛なベットの上を転がり続けること約5時間。わたしは現実逃避をしていた。


金ピカの机の上に重なる宿題という名の紙束。その紙束を見つめ、わたしは思う。


めんどくさい。


ため息をつき、再度ゴロゴロと転がり仰向けになる。目を閉じると瞼の裏にに家庭教師のおじいさんが現れた。にこやかな笑顔のおじいさんが時間をかけて作った紙束……うっ、罪悪感が現れた。


罪悪感を消すため転がり回るが罪悪感が消えることはなく、仕方なくやることを決意したその瞬間、バンッと大きな音を立てて扉が開かれた。


「ネルファ!まだ、寝ているのか!?お前はいつもぐだぐだして、もう少し兄達のことを見習ったらどうだ!宿題もまだ、こんなに残ってるじゃないか!こんなんだからお前は……」


なんてタイミングの悪い「うだうだ星人(父)」だ。わたしが宿題をやろうとしているところに現れてはうだうだと説教ばかりして気が済んだら去っていく邪悪の権現。


そして今日も10分程度言いたい放題いったらどこかへ行った。そして、うだうだ星人がいなくなった時にはわたしのやる気は無くなっている。これがほぼ毎日続くんだ、正直に言って地獄だ。


そもそも兄達が優秀すぎるのも悪いのだ。

兄妹だというのにここまで差があるものなのか?

生まれてくる時に私の分の頭の良さまで吸い上げて生まれてきたに違いない。


……この金ピカの鳥籠に囚われているわたしをだれか救ってくれないだろうか、救ってくれないだろうな。ならば自ら出るしかあるまい!


それから時は経ち時刻は深夜0時……

月明かりだけを頼りに荷物を纏める。


よし、準備できた。


荷物を背負い、窓枠に足をかけたその時、静かに扉が開く。


「これはこれはネルファ様、こんな時間に散歩ですかな?」


「バ、バルモン」


執事服を着こなし、綺麗に整った白い髭が特徴的な王家に長らく仕えている執事長が扉の前に立っていた。


「おっと、私としたことがノックを忘れて入ってしまうとは、ボケ始めですかね。……それで、ネルファ様、そちらは危ないので散歩に行くのなら玄関からどうですかな。」


「バルモン、わたし決めたから、家出するから。」


バルモンは驚く素振りも見せず、温かい目でこちらを見ていた。


「家出ですか……これは思い切りましたね。それでどこへお行きになられるのですかな?」


「それを教えたら家出にならないでしょ。」


「はっはっは、それはそうですな。では、その家出の手伝いだけでも私にさせていただけませんか?」


「手伝う?うだうだ星人(父)に言いつけるんじゃなくて?」


「国王様に言いつけるなんてしませんよ。私も子供の頃はよく親と喧嘩して家出したものです。ですから、ネルファ様のお気持ちはよくわかります。しかしですね、家出というものはとても危険なものです。準備もせずにするものではありませんよ。」


「……まさかバルモン、家出のプロ!?」


バルモンは白髭を触りながら「プロではありませんがお力にはなれると思いますよ。」と優しく微笑む。


「じゃあ、バルモン、家出の準備を至急。」


「お任せください。」


数分後、わたしが背負えるくらいの大きさのカバンを持ってバルモンが戻ってきた。


「お待たせ致しました。こちらです。」


「これだけ?」


「はい、家出に荷物を多く持っていくのは得策ではありません。それに、このカバンは魔法が付与されていまして見た目以上に物が入りますのでこれで十分以上かと。」


「なるほど、わかった。それで何が入ってるの?」


「まずは3日分のお弁当が保存魔法をかけた状態で入っております。着替えはもしものことを考えて1週間分、傷薬や包帯などは医療箱に全て入っております。テントは守護魔法と自動設置の付いたものを入れておきましたので夜は静かに眠れると思いますよ。」


「おぉ!」


「あとはサバイバル用具も入っておりますが刃物などもありますので使用の際はご注意を。夜は暗いのでライトもお忘れなく。もし、カバンの中身でわからないことがあったら説明書が入っていますのでそれをご覧になればわかるかと。」


「バルモン、グッジョブ!」


「ありがとうございます。」


魔法のカバンを背負い、ライトを片手にアルバス国の第一王女ネルファ姫はバルモンに見送られながらウキウキで家出を開始した。


家出を始めて数時間後、ネルファ姫は思った。


歩くの疲れた。


だめだ、このままじゃ、気付いた父にすぐにつれ戻される。


父は馬を使うはず、わたしももっと早く移動する手段を探さなければ。

でも、どうやって……


考え事をしながら歩いていると大きな何かに躓いた。


「あ、いて」


すぐに服についた土をパッパッと払い落とし立ち上がると黒い鱗に覆われ、大きな翼を持った……巨大なトカゲがいた。


「我の尾を踏む無礼者はどこのどいつだ?」


「あ、これ尻尾の先か、ごめん。」


「謝れば済むと思っているのか、我もなめられたものだな。聞いて驚け、我こそは一夜にして一国を滅ぼした伝説の竜ムート様だ!」


「あ、うん、わたしはネルファよろしく。」


大迫力の竜の挨拶に驚きもせずに淡々と返す。


「うむ、よろしく……では無い!なぜ驚かぬのだ娘よ!我は伝説の竜だぞ!」


「あまり、自分で伝説とか言わないほうがいいよ。なんか痛い。」


「うぐぅ…。」


伝説の竜にクリティカルダメージが入った。


「お、お前のような小娘など一口で喰えるのだぞ!」


「はいはい、すごいすごい。」


目の前の伝説の竜の言葉を適当にあしらいながら、膝に付いていた土をポンポンと払う。


「……殺されたいようだな小娘。お前の肉を引き裂き喰らってやる!」


竜は爪を振り上げネルファに向かって振り下ろす。


ガキャッ!爪はネルファに届くことなくネルファの周囲を取り囲む結界によって防がれていた。


「なに!?まさか、お前、王家の者か!王家の物がこんなところで何をしているのだ!」


「ん、家出。」


「え……家出?」


なんか、もっとこうまともな理由で来ていると思っていた竜は呆気にとられた。

しかし、すぐに我に返り、幼い姫を見て良からぬことを思い付く。


こいつを利用すれば我の封印を解くことができるかもしれん。


「んじゃ、わたしもう行くからじゃあね、トカゲさん。」


「いや、待て小娘よ、先程は襲って悪かった。我は長い間ここに閉じ込められていてな、動けずにいたせいか些か気が立っていたようだ。」


「…そっか………じゃあね。」


「いや、待て!お前、欲しいものは無いか?我を助けてくれたら欲しいものをくれてやる。」


「欲しい…もの?」ようやくまともに話をしてくれそうな反応が返ってきた。


「そうだ、貴様の欲しいものをこのムート様がなんでもくれてやろう!」


「欲しいもの欲しいもの」とブツブツ呟くネルファを見てしめしめと竜は思う。欲しいものと引き換えに我の封印を解いてもらえば我ははれて自由の身、ようやく我を封印した王国の奴らにも復讐ができる。王家の者といえど所詮子供だ。利用するのは簡単。


悪代官のような顔をしている竜はネルファの「あっ」という言葉にすぐさま反応する。


「小娘よ、何が欲しい?言ってみよ。」


「足」


「????足なら貴様に付いてるではないか。」


「違う、移動するためのやつ。馬みたいな速いやつ。」


「そ、そうか……(これは困った宝石や金ならあるが馬は無い。捕まえようにも我はここから動けんからな。)」


まさかの要望に竜が頭を捻り唸っていると、ネルファは竜の背についた大きな翼を眺めながら目を輝かせていた。


「ねぇ、トカゲ。もしかして飛べる?」


「我はトカゲでは無い!……飛べるに決まっておろう。」


「馬より速い?」


「当たり前だ、我はこの世のどんな生物より速く移動できるのだぞ。」


「ねぇ、トカゲ、わたしの足になって。」


「だから、我はトカゲでは……足?貴様の足になれというのか、この我に。」


「そう。足になるなら助けてあげる。」


「貴様、我を愚弄するのも大概に……」


「ならないの?じゃあ、バイバイ。」


竜の態度をみてすぐに背を向ける竜は焦る。


「ま、待て、他には無いのか?」


「無い。」


「宝石とか金とか」


「いらない」


「うぐぐ……(我が足などと、しかし、これを逃せばこんな機会は二度と……)」


竜は首を横に振りながら悩みに悩み。

結界、仕方ないという結論に辿り着いた。


「わかった。我を助けてくれるのであればお主の足となろう。」


「うん、約束だよ。」


「あぁ、仕方あるまい。」


竜の大きな爪に姫の小さな手が触れると金色の光を放ち竜の体を縛り付けていた鎖が全て外れた。


「がはははッ!我は遂に自由となったのだ!これでに憎き王国に復讐が、」


「トカゲお座り。」


ドンッと竜は地面に座る。


「トカゲお手」


竜は姫が前に出した小さな手に優しく爪を乗せる。


「ハッ、我は何を!」


「偉い偉い、じゃあ、行こっか。」


よっこらせと巨大な竜の背中に乗り空を指さす姫。竜は自分の犯した重大なミスに気が付いた。


まさか、先程の約束のせいで我はこの小娘に逆らえんのか!?なんてことだぁあ!!


こうして、ネルファ姫は大きく速い乗り物を手に入れたのだった。












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