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*7* 新しい出会い

会議室に3人が残されたのはほんの10分くらいの時間だったけれど、あたしたちとタケルくんはまるで昔から友達同士だったみたいに自然と打ち解けることができた。


タケルくんと拓海なんて会話だけ聞いていたら学生時代の友達なんじゃないかって思うくらい。


あたし自身もタケルくんと話すことがとても楽しくて、頭で考えなくても会話がポンポンと次々湧いてきた。


おもしろいくらいに会話のキャッチボールができて、それがなんだかとてもおかしかった。



一緒に並んでいることに違和感を感じない、大げさかもしれないけれど、馬が合うってこういうことを言うのかな、って。


大人になってから新しく出会う人って、大抵が仕事絡みで、昔みたいに無邪気に仲良くして“友達”になることがなかなかできなくなってしまう。

それって寂しいことだけど、年を重ねていく上で仕方のないことなのかな、とも思う。


でも、たまに、ごくたまに、仕事で知り合った人と仕事が終わった後でも会いたいなって思うことがある。


そういう人たちとは、自然とビジネスの枠を越えた友だち付き合いができているわけだけど、タケルくんともそういう関係になれるだろうなっていう、妙な確信があった。



「お待たせしました」



ガチャッと扉が開いて新井さんを先頭に、背の高い男性――KENと、その後ろからきっと莉子であろう女性が現れた。



黒髪の短髪にくっきりと深い二重がとても凛々しく、媒体を通して見るよりもがっちりとした体格のKEN、ロングヘアーに、透き通るような白い肌、くりっとしたアーモンドアイにぽってりとした唇がセクシーな印象を与える、スレンダーな莉子。

目を見張るような美男美女の登場に、一瞬時が止まったかのような感覚になった。


仕事柄いろんなモデルさんと会ってきて、美男美女には慣れていたと思っていたあたしが、じっと見惚れてしまうほどのふたり。



「遅れてすみません。ケンです。よろしくお願いします」

「莉子です。よろしくお願いします」



二人に応えるように隣の拓海とタケルくんも頭を下げているのを見て、あたしもあわてて頭を下げた。




******




打ち合わせは新井さんの他に、『WEAVE』の編集者がひとりと、KENと莉子ちゃんの事務所の人が参加し、滞りなく進んでいった。

一年間の連載企画であるため、打ち合わせや撮影などの年間スケジュールが書かれた一枚の紙をもらい、その日は解散となった。


モデルのふたりはとても気さくで、とくにKENに至ってはあんなにも人気を博しているというのに、そんなことを感じさせない馴染みやすい人柄の良さを感じた。


莉子ちゃんはKENと同じ事務所に所属していて、雨宮さんの予想通り今年モデルとして活動し始めたばかりの新人さんらしく、打合せに参加するのも初めてのようで少し戸惑っていたように見えた。


でも意見を求められたらハキハキと自分の言葉で説明することができていたとこを見ると、彼女の持つ芯の強さをひしと感じ、一緒に仕事をするのがとても楽しみになった。



次にみんなと会うのは撮影の日。


それまでは個々で編集者との打合せが数回あるが、こんな風に全員が顔を合わせるのは撮影までおあずけだ。



「タケル、この後暇?」

「うん。今日はもう上がりだから。なんで?」

「メシいかない?俺らの友達がやってるいい店があるんだ」

「いいね。行く行く」

「栞も行けるだろ?」

「うん」


拓海が『浮雲』のことを言っているのだろうとすぐに分かった。


こんな風に拓海が初対面の人を『浮雲』に招待するのは珍しい。

それだけタケルくんとの間に共鳴するものがあったのだろう、3人で行くから、と早速悠介に電話を入れている。


あたしも雨宮さんに今日のことを報告するために電話をかけ、順調に終わったことを告げた。そのまま直帰していいよという雨宮さんの言葉に甘えて、拓海についてそのまま『浮雲』へと向かった。




「え、じゃあタケルはKENと莉子と同じ事務所なわけ?」

「そーそー。スタイリストが俺入れて3人所属してんの。ただ同じ事務所のモデルと仕事することって実はあんまりなくて。KENは何度か会ったことあったけど、莉子は初めてだったし」

「へぇ〜。そういうもんなんだ」

「意外とね、そうなんだよ」


悠介ともいとも簡単に打ち解けたタケルくんを挟んで、あたしと拓海が座り、その向かいには調理をしながら会話に参加する悠介。


あたしは、悠介オススメの黒糖焼酎の水割りを信楽焼のグラスで飲みながら、白菜の浅漬けをひとつまみした。


昔はあまりアルコールが得意じゃなくて、飲み口のいい甘いカクテルを好んで飲んでいたけれど、悠介に焼酎の美味しさを教えてもらってから、少しずつ飲めるようになった。


『浮雲』に来ると、あたしが好きそうな焼酎を悠介が見繕って入れてくれるから、いつもお酒のオーダーはお任せなのだ。


「あ、そうだ」


バッグから名刺入れを取り出して、タケルくんに名刺を差し出す。


「さっき、渡してなかったよね?」


名刺を渡す前に自己紹介を簡潔に終わらせてしまったために、名刺交換すらしてなかったことに気がついたのだ。


「ホントだ。じゃ、俺もー」


タケルくんは名刺を2枚出し、あたしと拓海に手渡した。



stylist 新堂タケル――

と書かれた名刺を見て、ふと疑問が湧く。



「ねぇ、タケルってどういう漢字なの?」

「健康の健だよ。大概みんなタケルって読まずにケンって読むから、仕事ではカタカナ表記にしてるんだ」


名刺をまじまじと見ながら、へぇーと相槌を打つ。


と、名刺の上にすっと人差し指が伸びて、あたしの指から名刺を抜き取ったかと思うと、裏にサラサラと10桁の数字と、アルファベットの羅列を書いた。


「これ、俺の。栞ちゃんもこのアドレスに送っといてな?」


「ありがとう。後で送っとくね」



あたしの左隣で、拓海に渡した名刺にも同じように番号とアドレスを書くタケルくんに、そう告げた。



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