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第一話:光より現れし者達

 日も暮れた頃。

 山の中腹。森の中にある小さな街の外壁を囲み、松明やランタン、剣や弓を片手に持つ、冒険者崩れの盗賊達が立っていた。

 その数、数百人ほど。


「さて。セリーヌ。そろそろ答えを出せ。私の下に来るか。それとも、街の者と共に死ぬか」


 盗賊達を仕切っているであろう、羽振の良さそうな貴族の服を着た小太りの男が、にやにやと街の門を見ながら、風の精霊術、音響アンプ・ボイスで街の中にいる者達に声を掛けた。

 近くの術者に目配せし、術の効果を解き暫く待つ。が、街から反応する声はない。


「……ふん。手間をかけさせおって。まあよい。儂が欲しいのはあの女だけ。見せしめに街を破壊し住人を何人か殺せば、すぐに気も変わるであろう。にっしっしっし」


 いやらしい笑みを浮かべながら、男が口髭を指でなぞり、その先手に入るであろう富と美女を想い、舌舐めずりをした。


   § § § § §


 一方。

 包囲された小さな街、サルディアの中央広場には、街を守る兵士達や住人達と共に、一人の美しい女性が立っていた。

 服は他の街の者同様に質素ながら、どこか高貴の出を感じさせる、薄茶色の長髪をしたこの女性こそ、先の男、ドルディマン伯爵にその名を呼ばれた、セリーヌその人である。


「姫。我々が最後までお守り致します」


 一人の兵士の言葉に、他の兵士達も街の者も、各々に武器を構えたまま小さく頷く。

 小さな子達を守ろうと意気込む女性達もまた、緊張しながらも鍬や鋤を持ち、覚悟を決めている。


 だが、セリーヌには分かっていた。

 全員を合わせてもその数、数十人。しかも、戦いの素人も交じっている。


 既にこの世界にない、滅亡したシャルイン王国。

 十年前。まだ十歳だったセリーヌ姫を必死に逃がす為に、共に逃亡生活を続け、ここライアルド王国の辺境にある森まで共に着いて来てくれた、有能な家臣達もいるにはいる。

 だが、彼等に実力があるにしても、この戦力差では多勢に無勢でしかない。


 しかも、セリーヌ自身が投降したからといって、この街の者達が無事で済むとも思えなかった。


 ドルディマン伯爵といえば、この地より遥か遠く。ガルダレム帝国に滅ぼされた小国、旧シャルイン──現ザルバーグ領の領主であり、色々と裏があると噂される、曰く付きの貴族。

 わざわざここまで来たのは、亡国の姫君であるセリーヌを花嫁として迎え入れる、より高い地位と権力を手にしようと考えているのは明白。

 そこに周囲の住人達など必要はないからこそ、住民が無事では済まされないのは容易に想像がつく。


  ──わたくしは、どうすれば……。


 絶望しか見えない未来に、天を仰ぐセリーヌ。

 その視線の先には、空気を読めない少しずつ星が瞬き始めている。

 彼女はそんな、絶望と無縁の光達から目を逸らすかのように、ゆっくり瞼を閉じ、両手を組んだ。


  ──アラナ様。どうか……どうか皆だけでも、お助けください……。


 自分の身を差し出した時、ここにいる住民達が救われるよう、セリーヌは慈愛の女神に祈りを捧げた。


 ……声に応える神があれば、手を貸したであろうか。奇跡を起こしたであろうか。

 それは、神が応えない限りわからない。


 だが。

 偶然か。必然か。

 彼女が神に祈ったその時、奇跡の物語の幕が上がったのは確かだ。


 突如、何もないはずのセリーヌ達の頭上の夜空に、眩い光が放たれた。

 思わず彼女がはっとし、目を開けた瞬間。


「わわわっ!」


 っという若い男の声と共に、突如そこから何者かが姿を現した。

 

「お、落ちる!?」

「まったく。情けない声を出すでない」


 突然落下する感覚に襲われ、顔を青ざめさせた青年を、同じく光から現れた美女が両腕で抱えると、そのままふわりとセリーヌ達の前に降り立った。

 現れたのは、その二人だけではない。


「っと!」

「まったく! 危ないわねー!」


 一人は地面でしっかりと踏ん張り、一人はくるっと空中で回転し、地面に華麗に着地を決める。


鴉丸からすまる。ありがとう」

「礼には及ばん」


 低い声でそう返した鴉面を被った者もまた、まるで羽毛が地面に落ちたかのようにふわりと地面に降りると、片手で腰に抱えていた少女をそっと立たせてやった。


「な、何者だ!」


 彼等が現れた光が消えた直後。

 敵の襲来かと警戒した兵士達が慌ててセリーヌの前に立ち、彼女と護らんとする。

 周囲の警戒心が強まる中、光より降り立った六人はセリーヌ達に振り返った。


 鴉の仮面をし、長い黒髪を後ろで結った山伏姿の者。

 透き通るような水色のセミロングの髪と、同じ色のワンピースを着た、無表情の幼き少女。

 白いシャツとデニム生地のサロペットスカート。上に赤いパーカーを羽織り、首にヘッドホンをした、短い茶髪に快活そうな女性。

 黒を基調としたゴスロリ調のフリルブラウスとコルセットスカートを着た、欧米人を思わせる顔立ちのウェイビーな金髪の美少女。

 無造作な長い白髪を揺らし、華やかな晴れ着を着崩した妖艶な美女。

 そして、美女に抱えられたままの、濃紺の短髪を持つ大人しそうなパジャマ姿の青年。


 そこにいたのは、この世界で到底見る事のない、セリーヌ達からすれば間違いなく、異端な服装をした者達だった。


「玉藻。ありがとう。もう降ろして構わないよ」

「嫌じゃ」

「……え?」

「最近はメリーやせつばかり引っ付いておるからのう。今宵はわらわの番じゃ」

「いや、えっと。今はそういう事を言っている場合じゃ──」

「玉藻。お兄ちゃん、困ってる」

「そうよ! ダーリンを独り占めとか、ぜーったい許さないんだから!」


 神也と呼ばれた青年の戸惑いの言葉を遮り、無表情のまま話すせつと呼ばれた少女と、あからさまに不貞腐れた顔で不満を垂れる、金髪の美少女メリー。


「これ。其方達そなたたちとて、神也しんやが困っておっても引っ付くじゃろうが。これでおあいこじゃ」


 そんな二人を、玉藻と呼ばれた美女は大人の余裕と言わんばかりに、にこにことしている。


 あまりに緊迫感のない会話にセリーヌの前で気構えていた兵士達だけでなく、周囲にいた街の者達まで唖然としてしまう。


「まったくよー。玉藻、そこまでにしとけって。あちらさんもぽかーんとしてるだろ?」

六花ろっかの言う通り。それに、若のめいは絶対。忘れたか?」


 茶髪を掻き、呆れ顔を見せる六花と、同じく仮面の内側の目を細め苦言を呈する、せつに鴉丸と呼ばれた者。

 二人を面倒くさそうに見た玉藻は、大きなため息を漏らす。


「まったく。神也。後でちゃんとわらわを撫でよ。其方そなたの膝枕と手の感触こそ、最高の褒美じゃからのう」

「わかったよ。それで気が済むなら」

「約束じゃぞ?」

「うん」


 あまりに素直に頷く神也に、玉藻は思わず表情が緩みそうになるのを必死に堪え、心底残念そうな振りをしながら、渋々その場に彼を降ろす。


 未だに続く彼等の能天気なやり取りに、声を発せない兵士達。

 そんな中、一人セリーヌだけは、じっと神也を見つめていた。

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