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【82・シュタールツ帝国9】

 どれくらいそうしていただろう。

 私が警戒し続ける中、合成獣の唸り声が次第に小さくなり、遂にはリューリの腕から離れた。

 

 ーーヴゥ"ー……


「ったく! 無茶するんだから! 『治癒(ヒール)』」


「ん、ごめん。でも、僅かでも理性が戻ってきたみたいだね」


「そうみたいだけど……。へぇ? 一丁前に私にまだ威嚇するの? いい度胸じゃない」



 合成獣をみると私をビビりながらも、威嚇してくる様子に面白みを感じて、わざと威嚇するようにこちらも唸り声をあげる。

 

 

「ちょ、アリアっ! 何してるのさっ!」

 

「うるさいよ。ちょっとからかっただけじゃないか。それに、強者が誰なのか今一度、分からせようとしただけじゃん」

 

 へぇー。さっきまでは誰彼構わず怒りに任せて攻撃してきたのに、今は私が上だと分かってるだね。

 

 

「リューリ、前に教えたと思うけど、魔法を行使する上で一番大事なのはイメージだっていったよね」

 

「う、うん」

 

「んで、アンタは魔法で合成獣(コイツ)を助けられないかって言ってた」

 

「そうだよ。でも、アリアは無理だって……」

 

「あぁ、今すぐ(・・・)は無理さ。なんせ、合成獣を作り出す術式はそれを生み出した術者しか知らないし一体一体術式が違う。他者がそれを外部から干渉し、解術しようなんて絡みに絡んでぐちゃぐちゃになった糸を解くようなもん」

 

「っ……。やっぱり無理……?」

 

 

 そう、呪いとかアンチ系の魔法を解くのとは訳が違う。

 それに……。

 

「無理に解こうとすれば、今僅かにある理性が無くなり暴走するか、その激痛によりショックで死ぬか、はたまた自爆して道連れになるかだね」

 

 

 そう、だから合成獣は救えない。

 私の話に沈痛な表情を浮かべるリューリ。自分の話をされているのかなんとなくわかったような合成獣は労わるように、自身で噛んだ腕を許しを求めるようにおずおずと、その腕を舐める。



「だが、手が無いわけじゃない」


「えっ?!」


「はぁー……。アンタ私の話を聞いてたのかい? 今すぐは(・・・・)って言ったんだよ」


「だって、出来ないって言ってたじゃないか」

 

「絡んだ糸を解くのにパパっと出来るのかい? それに、私だけじゃちょいと難しいだけさね」

 

「じゃ、じゃぁ……!」

 

「あぁ、頼るのはかなり癪に触るが、こういった類いのもんに詳しいのが居るんだよ。ってのが、フェアリアルキャット知識。んで、これからだけど、まず、合成獣を眠らせた上で封印術を組み込んだ魔力氷で氷漬けにすれば、たぶんダンジョンからの戦利品扱いとして連れ出せるはず。ダメだったらダンジョン上層部に小部屋でも作って監視しつつ対応だね」

 

「…………」

 

 

 眠らせるだけじゃもしもの時に出遅れてしまう。

 黙っているリューリを後目にフェアリアルキャット知識を総動員して一番手っ取り早く、尚且つ安全で楽な方法を選んでいく。

 他に候補としては従魔契約とかが上がったが、相手は合成獣。上手くいく可能性は低い。

 後は単純に殺すことだけど、これはリューリがダメっていうし、結界を展開し維持し続けるのは私がしんどい。

 岩で固めるのはビジュアル的に私がイヤ。

 ほら、ここは定番の氷漬けから救い出す! って展開をみたいじゃん!?

 作るのは私なのでちょっとしょっぱいが、そんなの関係ない! ないったらない!

 

 

「って、事でいい? 正直、やるならサクッとやって此処をさっさとおさらばしたいんだけど……」

 

「あ……うん! お願いします!」

 

「何言っての、氷漬けにするのは一緒にやるの。共犯だ。共犯!」

 

「ぇえ?! だ、だって、魔力氷なんて上位魔法でしょ?! 出来ないって!」

 

「出来ないじゃない。やるんだよ! それに、アンタが合成獣を助けたいって言った張本人だよ? 安心して、私の魔法に魔力を上乗せするだけさ。合成獣、今、この場で出来る私からの最大の譲歩と手順だ。覚悟はあるかい?」

 

 

 ジッと合成獣を見れば、私を覚悟を決めた目で見つめ返すと静かに小さく頷いてきたのだった。

 

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