【81・シュタールツ帝国8】
読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。
描きたい話がつらつらとあり当初は一話1ページと目標にしていましたが、何故かこんなに長く続いており私自身驚きです。
帝国編ですが、もう少しお付き合い願います。
自惚れも甘くもみていなかったはずだった。
それでも、リューリなら大丈夫だろうと何処か過信していた。
だから、この事態を招いた。
「(バカなのは私じゃないか。フェアリアルキャットという強さに胡座をかいて油断していたっ。)……ごめん、リューリ。私がアンタに結界でも貼ってればこんな事ならなかった」
「……アリア。謝らないで。君のお陰で僕は生きてるんだ。ギリギリ君を呼ぶ事が出来た」
「それでもさ。傷は痛むかい?」
「……少しだるいけど、痛みはないよ」
「なら、良かった。リューリ、私の後ろにいるんだよ。アンタは私が守る」
リューリを背にして、地面に転がしたままの敵を見つめる。
「ねぇ……。アリア、あれは一体なに?」
「フェアリアルキャットとして長く生きてきたが、あれは魔獣でも魔物でもない。合成獣さ。……愚かな。人間と魔獣を無理矢理、術で合成され造られた物。この目で見るのは始めてさ」
「っ……! に、人間?!」
「人間の姿を模したり一部を人間に擬態させたりする魔物はいるが、それは、進化工程で自然的に生まれる。でも、あれは違う」
「じゃ、じゃあ、ここって……」
「そうさね。ここは、合成獣を研究していた場所さね。自然界では禁忌とされてるから上手く行きっこないのにねぇ」
こちらを憎々しげに睨む合成獣に思わず哀れみの感情が湧くが、許してやる事は出来ない。
あれに救いがあるとすれば、この場で命を絶ってやる事ぐらい。
「ね、ねぇ。アリア。魔法で助け……」
「リューリ、あれを助けるなんてできやしない。ましてや、アンタに怪我をさせたんだ。それに、一度ああなってしまうと殺してやることしか出来ないんだ。諦めな」
某錬金術師の話の中であったじゃないか。まるであの合成獣はその時のようだ。
あれは、物語として読んでいただけにこうして似たような事が、まさか目の前に起こるとは思いもしなかったし、想像も出来なかった。
でも、これが現実だ。
リューリの言葉に被せるように非情に言い放つ。
「で、でもっ……!」
「無理だね。それに、こんなダンジョンの奥で秘密裏に行われたって事は、帝国は知らないだろうねぇ。このこと自体、ヤバい案件さね」
闇の帯による拘束が時間と共に緩んで行くのを感覚的にわかり、一思いに仕留めてやろうと私は合成獣に近付く。
あぁ、今ならあの錬金術師の気持ちが少なからずわかる。彼らもこんな気持ちだったのだろうか。
「リューリ、嫌なら目を閉じ、耳を塞ぎな」
目の前に立つ私を睨む合成獣。痛く苦しいのか呻き声をあげている。
「……。嫌だ。アリア、本当に助ける事は出来ないの? 今は無理でも探せばあるかも知れないじゃないか!」
「リューリ……」
「確かにいきなり攻撃されたよ。でも、それは僕自身の落ち度だ。殺してあげれば確かに救いかも知れない。でも、こんな事があるってことはこの先もあるかもしれない。それに出くわす度にこれを繰り返すなんてアリア一人に背負わせたくないし、僕自身目を背けたくない」
リューリは少しふらつきながら、私の側に近付いてくるが、その目に恐れも怒りも無く、助けたい、諦めたくないと強い意志を宿した力強い目をしていた。
その様子に無意識にゾワゾワとし、喉がゴクリとなった。
「はぁー……。そんなのアンタの理想で、机上の空論さ。これを放置する事も出来ないが、殺したくない。一体、どうするつもりだい。策がないなら黙ってな」
深く息を吐くことで冷静さを取り戻すと、リューリを見つめ問いかける。
「そ、それは……」
「ほら、ないだろう? 安心しな。私はフェアリアルキャット。今更、気を使う必要はないさね」
そうだ。私は伝説の魔獣、フェアリアルキャット。合成獣の一匹や二匹、殺した事で何とも……。
「ダメ。ただのフェアリアルキャットならそうかも知れないけど、君は違う。君は……。ううん。アリアは僕と同じ転生した元人間だよ? 女性一人にそんな重い事を一人で背負って欲しくないんだ」
………………とぅんく。
「ふみゃぁ?! はっ?! へっ?! りゅ、リューリくぅぅん?! どうしちゃったのかなぁぁ?!」
思わず声を荒らげ慌てる私。
まって、「とぅんく」ってなんでよ?! 相手はショタ!! そして、リューリはイケメン攻め様からあんな事やこんな事をされる受けなの!! って違うわっ!!
脳内で喚く私とツッコミを入れる私でテンパっていると、そんな私を放置してリューリはスタスタと合成獣の前に出る。
そして、膝を付きそっと合成獣の頭を撫でようとする。
「あ! ちょっ、リューリ危なっ……」
ガブッ!
「ぁあ! 言わんこっちゃない! 離れて……」
「いっ……。ごめんね? 怖かったよね。大丈夫、君に痛い事はしないよ」
手を噛まれてもリューリは引かなかった。むしろ噛まれて痛いだろうに、それを我慢し隠して優しく笑ったのだ。
ただただ、優しく安心させるように、人と獣の融合した醜い頭を撫でたのだった。




