【74・シュタールツ帝国編】
リューリのレベルが上がり新たなスキルをこの目で見れた日から数日が経ち、私は現在ライヘン一家の皆と馬車に乗って隣国へと向かっていた。
馬車は三台で一家とは別に、スイーツの大祭典の目玉である【スイーツ部門】に出場するクランツと今回は補佐と指導に回るという料理長のジン、他メイド一名と従者一名の計四名を乗せた物と様々な荷物を乗せた物と中々の大人数である。
なんでこんな人数になったのかは鶴の一声ならぬ、イリスの声でこうなった。
あの日、大量のカオの実をゲット出来た私達は意気揚々とライヘン家へと帰ったのだった。
「板チョコ〜♪ チョコケーキ〜♪ フォンダンショコラに生チョコ〜♪ 絶対食べるぞ、チョコデニッシュ〜!」
「胸焼けしそうなラインナップ……。しかも、変な歌……」
「まだまだー! ってあれ? イリス?」
邸宅に近付くと見知った気配が玄関前に居ることに気が付いた私は首を傾げた。
緊急事態になった訳でもないのに女主人たるイリス自らの出迎えに、思わず辺りの匂いを嗅いで危険はないかと勘ぐってしまう。
リューリも不審に思い警戒しながら玄関前に着いてイリスを見れば、何かを期待しているような眼差し。
「おかえりなさい。リューリ、アリア様!」
とりあえず、危険はないようだと念話で会話してリューリを背から降ろす。
「イリス、どうしたんだい? アンタが出迎えなんて珍しいさね」
「んふふふっ! それはね、聞いちゃったんですよ! カオの実を採ってきたのですよね?! ありましたか?!」
ずずいっと私に顔を寄せ待っていた理由を言ってきた。
あー……なるほど? 恐らく料理長あたりが話して、甘い物が好きなライヘン家の女性陣は皆一様に羨ましく思ってた。甘い香りが調理室から漂って来たから余計にだ。
そして、リューリと共に森へと行ったと聞けば、もしかしたらカオの実を取りに行ったかもしれない。
期待に胸が膨らみ待ちきれず思わず、ここで待っていた……と。
「……呆れた。リューリのクエストをこなしに行ったとは思わなかったのかい?」
「もちろん考えたわ! でも、アリア様がそれだけで終わらすはずないもの。そ・れ・に! スイーツの大祭典なんて聞いたら気になって気になって……!」
「あー……」
すっかりリューリの手によって甘い物がより好きになったイリスはそれだけに留まらなかった。
「リカルドにも大祭典に行きましょう! って話は付けたわ!」
「わー……。母さん、なんて行動力……」
リューリと二人してイリスの勢いに引いてしまったのは仕方ないと思う。
それで、それで? っと期待したイリスに私は無言でリューリの背を頭で押す。
「ちょっ、アリアっ!」
「あの様子じゃ行く事は決定事項の様だし、カオの実を見せれば落ち着くんじゃないかい?」
「あー……うん。か、母さん。とりあえず、調理室に行こう?」
そして、リューリとイリスを伴って来た調理室の入口にて再び始まったのは私とリューリの攻防。
「いいじゃないか! カオの実を出すだけでしょ! それに、もっと小さくなるから!」
「小さくなったら余計、すばしっこくなるでしょ! ここで待ってて!」
「ヤダー!」
あのやらかした日からとうとう室内にも入れてくれなくなったが、今日という今日こそ私の戦果を見せびらかしたい!
そう思っているが、入れてくれないリューリ。
「またですかい」
「あら、ジンまで揃っていたのね。またって事はよくあるの?」
「奥様……。まぁ、アリア様が手に入れてきた食材がある時は大抵、この攻防してます」
「まぁ……。それはいけないわ」
私達の様子を見ながらイリスとジンはそんな会話をされているとは知らず、中に入ろうとする私とそれを止めようするリューリ。
それを見てイリスはジンと目を合わせため息すると私はイリスに、リューリはジンにとそれぞれ抱き抱えられてこの攻防は強制終了したのだった。
「アリア様、カオの実を出すのは隣の貯蔵庫にしましょう? リューリ、それならいいわね?」
有無を言わさぬ雰囲気でイリスに言われた私達は背筋に冷たいものを感じて震え、揃って返事をした。
そして、貯蔵庫にてリューリのマジックボックスから取り出した大量のカオの実を見て目を輝かせるイリスとその下処理を考えて、引きつった笑みを浮かべたジンにと見事に別れたのだった。




