【72・キュウセイチョウ】
リカルドは私の様子に若干、身体を逸らしながら首を横に振った。
「いえ、アリア殿も一緒に行ってもらいます。数は少ないですが、主従契約をした精霊や動物を連れて行っている生徒も居ますから大丈夫です。ただし、精霊は姿を消せますが、動物達はそうもいかないので、寮の自室にて待機になってしまいます」
「ぐぬぬ……。そんなんじゃ、留守番と大差無いじゃないか」
「しかし、アリア殿が出歩き、フェアリアルキャットとばれると、生徒達に混乱と恐怖を与えかねない事態が発生するかも知れません。ご協力とご理解下さい。ですが、寮内や休日は好きに二人で連れ立って歩けます」
「うーーん。リューリが私を呼んだり緊急事態になったりしたら、そんなの関係無いからね?」
「はい。その辺の事については今後、公爵と話し合いを重ねて行くつもりです」
此処に置いて行かれるよりはマシかなと、渋々受け入れた私だが納得し切れないので、八つ当たり気味にリューリの足を尻尾でバシバシしてしまう。
そうして、今後の流れを話し合うと夕食では、ヘレンちゃんへも話を通してその日は終わったのだった。
♢♢♢♢♢
「はあぁ、やっぱり狩りは楽しいねぇ! おっと水魔法『水鞭』。リューリ! アンタがトドメを刺しな!」
「とりゃぁっ! あーもう! 魔法禁止縛りキツっ!」
次の日、私達は魔素の森へとあのカオの木の様子を見るために来ていた。ついでにリューリの剣術と体術鍛錬を兼ねてだ。
私が手加減して襲ってきた魔物を拘束しつつリューリがトドメを刺すというお膳立てしまくったやり方だが、仕方ないのだ。
なんせ魔法は身体能力向上、斬撃向上のみで、少しでも攻撃魔法や防御魔法を使おうとすると、私がリューリにかけた闇魔法『魔法妨害』で無効にされてしまう。
つまり、防御も攻撃も物理だけという縛りを付けたのだ。
これには理由がある。魔法ばかりに頼っていては体力、スタミナ、判断力等が向上せず、せっかく国王から貰ったすんごい剣があっても宝の持ち腐れになってしまう。
「ほぉら、ビックキラーベアが出たよ! バテるのは早い、早い♪」
前回はどうしたんだって? んなもん、私が無双しまくったのだ! 発散出来て楽しかったです!
「うがーっ! アリアどうしてそのサイズでそんなに魔法使えてんだっ!」
ビックキラーベアが爪で攻撃してくるのを剣気で弾き返し、体制が崩れるとその懐へと即座に入り込んで切り捨てるリューリ。
「だって、別にリューリを乗せる訳じゃないし、私なりにスキルのレベル上げよ〜!」
切り捨てられ倒れたビックキラーベアの上に立つ私のサイズは、ノルウェージャンフォレストキャットより小さいロシアンブルーみたいなスタイリッシュなお猫様だ。
「いやー。この身体はより身軽で動きやすいよ! これなら、散歩もより簡単! やったね!」
逆ギレ状態で話しながら呼吸を荒くするリューリに私は意気揚々と返す。
「ちゃんと、私だって考えてるんだよー? サイズを小さくすればするほど、使える範囲が限られる。でも、それならより魔力操作を綿密にして密度を増せばいいのでは? って思ってね。そしたら、結果はご覧の通りこのサイズまで変身スキルは使えるようになったし、四大精霊魔法の初級でも威力は増したってわけ」
「アリアはもう十分過ぎるほど強いんだから必要ないじゃん……」
「レベリングはゲームオタクの基本でしょ!」
「いや、限度って知ってる?」
「うっさいわ! 私よりリューリはどうなの?」
お互いしか居ない為、本来の口調で話しながら目的地を目指す。
「ちょっと待ってて。うわっ、えげつないスピードでレベル上がってた……。 あ、新しい剣術スキルだ」
「良かったじゃん。リカルドが剣士なんだからワンチャン、剣だけ使ってたら何か剣術スキルゲット出来るじゃない? って話していたけど、本当に出来たね」
あの日当たりのいい場所に着いて手頃な岩に座り、ステータスチェックをお互いするとカオの木を目指した。




