【67・ハンセイとは?続々】
立ち上る砂煙に煽られ噎せるリューリを気にせず見下ろしていると、落ち着いたのか服に着いた砂を叩きながら落としていたリューリは、こちらを呆れた眼差しで見上げた。
「どーしたもこーしたもないって。 なに? この状況。 説明してくれるよね?」
ぉおう。 なんで微妙におこなのよ。 私、悪くない。
私の久しぶりの元サイズを見て相変わらずデカイなぁとかいいながら怪我がないか見てくるが、なんで怒ってるの? 中身の私がぷるぷる震えちゃうわ。
「なんでって、見た通り冒険者にちょいと訓練とやらを付けてたのさ。 私相手に何処まで出来るか腕試しもアイツらは兼ねてたみたいだけど、ふんっ。 相手にならないねぇ」
「訓練……」
「そうさね」
「あんなに追い込まれてて?」
「くくっ、傍から見ればそうかもねぇ。 なんだい、心配してくれたのかい」
「わ、悪いっ?」
ちょっと、奥さん。 うちのリューリが可愛いんだけど! 居もしないイマジナリー奥さんに話しかけてしまった私は悪くない。
だって、照れたように僅かに頬を赤らめぷいっと顔を逸らしてゴニョゴニョと呟くようにあんなにいっぱいの人に囲まれてとか、魔法で動けないようだったしとか、何この子、私がどれほど強いか知ってるくせに、あれを止めるために呼んだの?
可愛いかよ!!
内心荒ぶるアラサー女が吠えるが、表には決して出さない。 代わりに私は猫ちゃんが甘えるように、リューリの身体へと優しく頭をすりつける。 私の主は可愛い! これ間違いない。
「ちょっと、アリア。 くすぐったいてば」
リューリにうりうりと頭を擦り付け、包むように身体を丸めながらリューリの香りを楽しんでいると、段々とリューリから堪らないといった感じで笑い声が聞こえてくる。
そして、辞めさせようと私の顎下をカリカリ。 やだん、もっとやってと思いながら自然とゴロゴロなる喉。
そんな私達のイチャイチャ空間を終わりにしたのは、誰であろうギルマスだ。
「お前ら、ここが何処か忘れた訳じゃねぇよな?」
鍛錬場の荒れ具合を怒りたいが、そんな事する暇なく目の前で突然始まったイチャイチャ。なんかもう疲れたという感じでいるが、そんなもん私は知らない。
「ちょいと、せっかくリューリが可愛い事言ってくれて気分がいいんだ。 邪魔しないでおくれよ」
じとりとギルマスを見る私に、コラッと叱るリューリ。
「グルルゥ……。 だって、リューリぃ……」
唸る私に苦笑いのリューリ。
「だって、じゃないよアリア。 てか、僕は可愛くない」
「何言ってんだい。 いいかい? 男でも女でも番が出来たらちゃんと私に言うんだよ? 変な奴じゃないかちゃんと見極めてやるさね」
「つ、つがっ! って、普通に男もその枠に入れないで?!」
「はんっ! 今の時代、番に男も女も関係ないさ。 そこに人間でいう愛とやらがあって、生活出来るほどの力が備わっていれば問題ない。 愛さえあればとか夢をみるのはやめなよ? 現実はそんな甘くないさね」
「なんだぁ? リューリ、いつの間にそんな相手が出来たんだぁ?」
「はぁ?! ちょっ、ギルマス! 何言ってるんですか! アリア! 変なこと言わないで?!」
ニヤニヤとからかうように私が言うと、ギルマスもそれに乗っかってくる。 言うねぇっと思っていると益々赤くなりながら怒ってくるリューリ。
まぁ、これぐらいにしないとって思っていると、そんな私達にケガの治療を終えた冒険者達が疲れたようにそれぞれ近付いてきた。
「あー……。 取り込み中悪いが、ギルマスがなんでここに?」
一人の剣士タイプのガッチリとした体型で、他の連中より強そうな見た目の男性が声をかけてきた。
「おぅ、グレース。 流石のオメェでもボロボロだな」
あ、思い出した。最後に私に突っ込んできた剣士さんだ。
「はは、せめて一太刀はと思っていたんだが、無理だったな。 色んなモンが俺らと桁違いすぎて他の魔物が優しく感じたぜ」
「で、でも! アリア相手にあそこまで迫れるなんて凄いです!」
「ありがとな、坊主。 だが、フェアリアルキャットの方はかなり余裕だったっぽいぜ? なぁ?」
「そうさねぇ。 攻め手は悪くは無かったさね。 他の魔物ならアンタが、魔法の中から突っ込んできたように見えたあの瞬間にトドメだった。 ただ、その前までがダメさ。 言っただろ? 連携しろって。 戦況、戦力、地形、それらを見極め第一の刃が届かなくとも第二、第三と戦略を練り続けなくちゃダメさね。 まぁ、私が相手だとその戦略とやらも尽く捻り潰してやるけどねぇ」
剣士、グレースを見下ろし私は思った事を話した。 話している最中には、いつの間にか他の冒険者達も集まり切ると、一様に私を見上げ話を聞いていた。
ぱっと見、大の大人達が子供のリューリを囲んでいる図ではあるが。
ちなみに、私は未だにリューリを包むようにしている。
私は話を終えるとリューリをチラリと見て、所で何か用があったのでは? と話しかけると、はっとそうだった! と私に向き直った。
「アリア! 例のアレが完成したよ!」




