【66・ハンセイとは?続】
《地下鍛錬場》
それは、日々請負う任務に向けて生き残るために己の技術と力を高めるのに研鑽を積む場所である。
そんな地下鍛錬場では、現在一匹の魔獣が中央に悠然と立ち毛繕いをしている。 辺りに冒険者が屍累々と突っ伏していたり、冷や汗を流ししり込みをして様子を伺う者までいたりと様々だが、軽傷者はいるものの幸いにも死者はいない。
「まじか……」
そんな中、一人の冒険者がポツリと呟いた。
「こっちは魔法、物理どちらも攻撃力、防御力を上げて、あっちは魔法、物理どちらも攻撃力、防御力を下げさせてるはずだぜ? なのに、なんでキズ一つおろか一撃だって当たんねえんだよ?」
「いつの間にか同士討ちしてるし……」
「すばしっこすぎる」
遠巻きにしている冒険者達は口々に今、目の前で起こった出来事に呆然としながら次元の違い過ぎる実力に戦意喪失していた。
「おやおや、口ほどにもないねぇ。 もう終わりかい?」
毛繕いが終わり魔獣もとい私は、冒険者達を見回した。
「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたんだい? 私の攻撃力、防御力を下げるまでは良かったが、他がガタガタだよ。 即席の一斉討伐つまりレイドの時、互いに協力し合わないでどうするんだい。 私が今まで対峙した連中はよく連合組んで私を攻めてきたねぇ。 それに比べたらアンタらはまだまださね」
私の言葉に思い当たる節があるのか、近くの者同士で気まずそうに視線を合わせる人間を所々見かける。
「さぁ! まだやる気のある骨のある奴は居ないのかい!」
僅かに声を張り上げ辺りを見回すと、背後から『炎の槍』が一直線に飛んできた。 高く飛びながら空中で一回転して避けると、続けざまに相殺させる為に氷魔法『氷の槍』を込めて放つ。
やはり、デバフのせいで魔力が込めにくい。 だが、あの『炎の槍』を相殺させる為には普段より多くの魔力を込めないと無理。 相手を殺さずにするにはなりより加減が難しい。 本来なら相殺させずともそれを上回る上位の魔法を放てばいいが、それをしないのは私なりの優しさというやつだ。
「くっ……! 水蒸気で見えないっ!」
魔法攻撃のスキに追撃で戦士タイプの男が剣を構えて攻めて来ようとしたが、そう上手くは行かないもの。 炎と氷がぶつかれば当然生じる水蒸気に視界を奪われた。
「まだまだっ……! スキル《暗行常夜》」
代わりにと私を攻めようとしてきた者の気配を感じたのは、その者がいつの間にか背後に現れ、短剣を二本私に振りかざした瞬間だった。
チャンスとばかりに私を空中で縛ろうと他の冒険者達も動き出す。
ある者は闇魔法で拘束しようと、また別の者は風魔法で、また別の者は己の武器の鎖鎌でと先ほどまでとは違いぎこちないながらも連携が見て取れる。
「飛べっ! アンビー! 風魔法『飛翔!』」
一人の魔法使いによって先ほどの戦士が再び下から私を突き刺そうと剣を携える。
傍から見れば絶対絶命。 動きは封じられてるわ上下から挟み撃ちで切りかかれてるわ、遠目では追撃部隊として弓と魔法を構えてる様子が見て取れる。
「アリアっ……!」
さて、どうしようと思っていると、微かに聞こえた我が主の私を呼ぶ声。
その瞬間、私の行動は決まった。
「悪いが、終いだよ!」
身体を本来のサイズに戻し、拘束魔法を弾き鎖を引きちぎり、その瞬間の光に目が眩む二人に尻尾と頭で跳ね飛ばすと、空中を風魔法を使い僅かに足場を作って方向転換。
降りたったのは、我が主、リューリの前。
「ぶわぁっ?!」
「ふぅー……。 リューリ、どうしたんだい?」




