【66・ハンセイとは?】
「あのー……。 ギルマス、フェアリアルキャット様がなんでギルドに? しかもなんか落ち込んでるような愛でられてるような感じがしますが……」
「あ? あぁ、あれか。 ほっとけ。 ったく、面倒な……」
「え? えっと、でも……」
無骨な鎧を纏う男達や魔法使いらしきローブを纏った女性、弓を持ったエルフなどが思い思いにくつろぎながらも何処か落ち着きない中、隣町へと所用で出かけていた受付嬢が、その微妙な空気が漂う冒険者ギルドの職員用エリアの奥で珍しく居るギルマスに問いかけた。
すると、ギルマスのゲリオスはその原因をチラリと見てため息をしては、素っ気なくそして、小さくボヤいた。
「ふわふわー……。 サラサラー……」
「ほんと、触り心地がいいわぁ」
ところ変わってこちらは冒険者の女性達に囲まれ撫で回されるわ、抱っこされるわ好きなようにされている私。
たわわに実っている女性の胸の感触を背中に感じつつ抱っこされているが、完全に気分は晴れない。 男どもの嫉妬の混じった視線を感じ優越感に浸るのは楽しいけど。
どうだ、羨ましいだろう。
男どもにわざとドヤ顔するのも忘れない。 悔しそうに顔を逸らす連中に笑いそうになる。
え? 性格が悪いって? そんなの知らない。 これくらいして気分を誤魔化すぐらいいいじゃないか。
「はぁー……」
再び出てしまったため息に私を抱っこしている治癒士の女性が気付いた。
「アリア様、先程からため息をしていますが、どうしたんですか?」
優しく問いかけられ顔を上げるが、首を横に振りなんでもないと言う。
「ですが、何処か元気の無いご様子です。 体調でも悪いのであれば、治療致しますよ?」
「アンタ、随分優しいねぇ。 まぁ、強いて言うなら甘いもの食べたい……」
そうなのだ。 あの日リューリに甘いもの禁止令が出て以来、糖分が圧倒的に足りない。 なんなら、砂糖直舐めも今なら出来るといいぐらいだ。
「甘いものですか? なら、ご用意しますよ?」
「そうそう! お茶会しましょうよ!」
「いいね! あ! なら、最近出来たカフェに行こ!」
女性達が口々に誘って来るのを嬉しく思いバレなければいいかな? と邪な考えが過ぎる私の前に立つ人影。 ギルマスだ。
「おめえら、依頼はどうした。 さっさと終わらせてこい」
「えっ? あ、いや、少しぐらいねぇ?」
「そ、そうよ! 他の連中もまだ揃ってないし!」
呆れた様子のギルマスにドギマギと返事をするが、これはダメでしょ。 小さくため息をして、治癒士の女性の膝から飛び降り私は女性達を見上げた。
「依頼があるならさっさと行って来なさいな。 それに、アンタら冒険者の依頼は信用が第一。 依頼が早く完璧に済めば、それだけ信用度が増すってもんだ。 違うかい?」
「そ、そうですけど……」
「なら、さっさと終わらせて来な。 私はしばらく居るし、早く帰ってくればカフェに行けるだろ?」
「はーい」
「はっ! そうだよ! 早く行くよ!」
しょんぼりと肩を落とす女性達に仕方ないなぁ。 と思いそう言えば、慌てて駆け出す彼女たちを見送ると、何故かギルマスと揃って深くため息をしたのだった。
「それでだ。 ペットみたいになってるお前さんに恨みの籠った目を向けるアイツらをどうするんだ?」
「ん? そんなの決まってるじゃないか」
未だに男性陣から向けられるチクチクとした目を受けながら、優雅にクルリと周ると男性陣の前に歩き出した。
「随分と恨みが増しい目を向けてくる連中が居るねぇ。 私に用があるなら地下に来なさいな? 彼女たちが戻ってくるまでの間、ちょいと揉んであげるさね。 まさか、腑抜けた馬鹿どもばかりじゃないだろうねぇ」
私の言葉に殺気が増し増しになるのを肌で感じ取る。 いいねぇ、楽しみだ。 私はそう思いながら地下鍛錬場へと足を進めた。




