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【64・実のショウタイ】

「ぼ、坊ちゃん……。 い、一体、これを何処で……」



 私達が持ち帰ってきたカカオの実を見た料理長の反応に、私達は互いに顔を見合わせ困惑した。


 あの後、本当に洞窟に行こうとしたが、装備が心許ないという情けないリューリにため息をして、仕方なく私たちは魔素の森を後にしたのだった。


 リューリめぇ、私という者が居るんだから大丈夫だって言ってるのにぃ……。 ふんっ、後で絶対に行ってやる。



 そんな考えをしていると、いつの間にか料理長はリューリの両肩を掴みガクガクと揺さぶり始めた。



「ま、魔素の森だけどぉっ?! ちょ、まっ、ゆ、揺れるうぅ! アリ、アリアっ! た、助けっ」


「ちょいと! リューリを離しなっ!『影の帯』!」



 私は咄嗟にリューリを助ける為に、闇魔法『影の帯』でリューリを巻いて私の後ろへと下がらせると、威嚇するように料理長を唸り声混じりに見上げた。



「ひぇっ! す、すみませんっ!ですが、これが興奮せずに居られますかっ! 坊ちゃんまだ、この《カオの実》はありますかっ?!」


「ぇ? み、見つかったのはこれだけだよっ? な、なに? なんなの?」



 余程びっくりしたのかリューリは私の後ろでおっかなびっくりに料理長を見上げるが、少し震えてるのがわかる。


 ジリジリと寄ってくる料理長。 こんな事、普段はしない人なんだけど、一体あの実がなんなのさ。



「それ以上来たら、頭から水をぶっかけるよ?」



 小さな水の球を作り出し、それを料理長の頭上に浮かしながら脅していると、ふいに裏口の扉が開いた。



「あれ? 料理長? どうしたんですか? それに坊ちゃん達も……」


「マスカさん! それにクランツさんも!」



 きょとんとした表情のままこちらを見てくる二人の人間に気付きながらも、私は、目の前の料理長から目を離さない。



「ぉお! マスカ、クランツ。 聞け! 坊ちゃんが、とんでもない物持って来たぞ!」


「とんでもない物? 一体なんですか?」


「見ろ! 幻の『カオの実』だ!」



 料理長は私達が持ってきた実を、マスカさんとクランツさんに見せた。


 え? 幻? 料理長の言葉が気になり、警戒はしたものの、魔法を消滅させて成り行きを見守った。



「こ、これは?!」


「……『カオの実』」



 二人は驚きに目を見張り、ラグビーボール並のサイズを誇り、少し毛羽立っている茶色の『カオの実』という私達が持ってきたカカオっぽい実を凝視した。



「質感、見た目、サイズ。 間違いない。 これは、正しく『カオの実』だ」



 料理長は改めて『カオの実』を手にしてそう二人に話せば、再び私達を見てきた。



「あのー……。『カオの実』?っていうの? その実。 食用?」


「坊ちゃん……。 まさか、知らずに取って来たんですか?」


「いや、だって、食べられるかどうかさえ知らなかったんだよ?」



 マスカさんは『カオの実』を指差し、震える声で私達に教えてくれた。


 曰く、この『カオの実』はれっきとした食用で、幻と言われる由縁はその数の少なさと栽培の難しさ。 昔、その美味さに目を付けた、各国の様々な貴族や冒険者がこぞって乱獲。 そのせいで、数はみるみるうちに減り、闇オークションで法外な金額で取引されたりとしていたが、酷い時は一時期、絶滅したのでは? と噂されるほど。


 だが、ある時、冒険者パーティが依頼進行中に自然界の中で偶然にも発見。 その若木を根元から持ち帰り、ある『南の小国』の王族に献上された。 発見したら、王族に連絡し資源保護を目的として保護されるように通達があったのだ。



「だからこそ、今、『カオの実』が現存しているのは、その保護をしている『南の小国』というわけです。 その小国のお陰で数が少しずつ増えてきたとはいえ、この場にコレがあること自体、ありえないぐらいの奇跡なんですよ」



 マスカが説明していると、その後ろで料理長とクランツさんは大きく何度も頷いた。



「料理人なら誰でも生涯に一度は『カオの実』を調理してみたいと思う物ですね」



 おいおい、なんつー代物なの『カオの実』。


 私は、話を聞き終えると思わず『カオの実』を見て口元をヒクつかせたのだった。

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