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【63・キオク】

  あの後、他には無いかと探していると、少し離れてはいたが、やっと二、三本生えていたのを見つけた。


 ただし、こちらは先ほどの木よりあまり元気がない。



「リューリ! こっちにあったさね」



「ホント?! ぉお! やったじゃん!……って、なんか少ししおれてない?」


「あぁ、さっきの木よりは元気がないが、間違いなくこれもカカオっぽい実を付ける木だね」



 私は木の周りを見渡し、魔素の流れも読んだ。



「これは……」


「アリア、何かわかったの?」



 リューリが私の呟いた言葉に気付き、声を掛けてくる。



「魔素の淀みが原因かもねぇ。 さっきまでの場所とは違いここは日があまり差し込まない。 自然的な浄化が進まないのさ。 ほら、鑑定してご覧なさいな」


「魔素の淀み……。 えっと、なになに……。魔素の過剰摂取。このまま進めば、トレント化の可能性ありぃ?! ちょっ、アリア、これヤバいって!」



 鑑定結果に慌てふためくリューリ。



「はぁ……。 あのねぇ、これは仕方ないことなんだよ。 ここは魔素の森。淀みなんてあちこちにある。 いちいちこれくらいで驚いてるんじゃないよ。 自然の摂理さね。…………私も危うくそれに呑まれる所だったみたいね」



 問題の木を見ながら説明していたが、最後は小さく呟いてしまった。



「ねぇ。 何かあった? さっきからなんかいつもと違う気がするんだけど……」



 心配そうにこちらを見るリューリに誤魔化そうとするが、上手く言葉が続かない。



「……大したことないさね。 浄化魔法と結界魔法を併用すれば、まだ何とかなるさね。 貴重なカカオっぽい木なんだ。 手に入れるよ」



 言葉を選び、結局私は誤魔化そうとした。 でも、リューリ納得行かないようでジッと私を見てきた。



「アリア……。 誤魔化さないでよ。 あの綺麗な場所を来たあたりからおかしいよ? 僕たち相棒でしょ? 教えてよ」


「ふぅー……。 知ったところでなんも足しにはならないさ」


「いいから、教えて」



 有無を言わさないようなリューリの様子に私は小さくまたため息をすれば、着いてきなとリューリに言って向かったのは、あの洞窟。


 洞窟の入口に座り辺りを見回すと、思い出してくる記憶。 


 リューリは、私に習うように隣に座り自分用の水と私用にと器を取り出し、注ぐ。


 注がれた水を少し舐め喉を潤すと、私は意をけして口調を、本来の私の口調に戻して話し出した。



「今から話す事は誰にも言わないでよ? 私も正直、まだ混乱して受け止め切れてない部分があるから」


「うん。わかった」


「……単刀直入にいえば、フェアリアルキャットは寿命で死んで、その肉体に私という魂が入った」


「……え? 寿命で?」


「うん……。 私も最初は戸惑ったよ。 でも、彼女らしいといえばらしいよ。 あのね、1000歳を超えた辺りから少しづつフェアリアルキャットの中で違和感が生まれたみたい。 最初は小さな魔力コントロールの乱れ。 次第にそれが無視できないぐらいになってね。んで、彼女の中でそれが、自然と死というのを受け入れる事にも繋がった。 でも、強者としてのプライドも誇りもある。 だから、彼女は人前から姿を消したんだ」



 一息入れるように私は水を飲む。 リューリの背を撫でてくる手つきが、優しく塞ぎそうになる気持ちが何となく和らぐのを感じる。



「フェアリアルキャットは死を自覚してからの動きは潔かった。 人間も魔物も出来るだけ寄せ付けないようこの森に来ては狩りをして、あの場所を作ったり、この洞窟を寝ぐらにして静かにしていたんだ」


「フェアリアルキャットがあの綺麗な場所を作ったの?」


「……うん。私たち魔獣や魔物が死ぬとね、魔素が辺りに広がりその魔素が濃ければ濃いほど、強力な次の魔獣や魔物の産まれる糧になる。 フェアリアルキャットの魔力も魔素もそんじょそこらの奴らじゃ吸収し切れないほどのもの。 それこそ、魔物暴走(スタン・ビート)並の事件が発生しかねないぐらいなんだ。 それを危惧したから、それを少しでも抑えるために自然浄化出来る場所を作って、洞窟の中を魔石を使って浄化したんだ」


「なんで、そこまで? 別にそんなことする必要ないでしょ?」



 そうなのだ。そんなことする必要は本当はない。 でも、フェアリアルキャットはそれをした。 彼女は意外と優しく人間が好きなのだ。

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