【62・サイシュウ】
「さぁ、この辺りだよ」
少し開けた場所には日が差し込み、魔素や空気の流れが他の場所とは違う。
ここは、フェアリアルキャットとしての最後の記憶の場所。
「この奥に一本だけあったのさ」
「へぇー。 ねぇ、ここにいると魔素の森に居るって事、忘れちゃいそうな所だね」
「……そうだねぇ」
「……? アリア?」
「……いや、なんでもないさね。 それより、ほらカカオっぽい実がなってるよ」
木漏れ日が差し込む奥に、ひっそりとそびえ立っていた一本の木を見上げると幹には実を直接付けていて、微かに良い香りがする。
段々と詳細な記憶を思い出してきた。 フェアリアルキャットは寿命が近付いていたんだ。
そんな弱ってきていた姿を誰にも見られたくなくて、強く気高い強者として、最後まで居たかったんだ。
フェアリアルキャットの記憶に引っ張られ、感傷的になりそうな思考を振り払うように、努めて明るく、普段と変わらないようにリューリを見ては鼻先で押した。
「なに、ぼさっとしてるんだい? さっさと取りなよ」
「い、いや、あの、高いんですけど? 僕に木登りしろっていうの?」
しり込みするリューリに呆れたため息をする。
「はぁ……。 なんの為に、その剣を持って来させたと思ってるんだい? それに、せっかく風魔法が使えるようになったんだ。 やってみるんだねぇ」
「『風刃』であの実を狙い落とせって事? 無理無理! 木ごと伐採しちゃうって!」
「つべこべ言ってないで、さっさとおやり!」
「手本! アリア、手本を見せてよ!」
グダグダと管を巻くリューリは、叫ぶように私に手本を見せろと言ってきた。
まぁ、やってもいいけど、見たところ実は三個だけ。 他に木があるか分からないから、ある意味貴重である。
「仕方ないねぇ。 一個だけ落としてあげるからちゃんととるんだよ? あ、ちなみに一個は『風刃』、もう一個は『浮遊』して取りにいくんだからね?」
「げっ……。 『浮遊』はまだ不安定なんだけど」
「大丈夫さね。 魔石が力を貸してくれるよ」
リューリにそう言って、私は木の前に立ち風魔法を展開させた。
風が私の周りに舞い、そしてイメージする。あの木の実だけを取るなら、小さく当たったらすぐに消えなくてはならない。
私の中で魔力が必要な分だけ練り上がる。
「『風刃』」
『風刃』の風魔法に相応しいイメージのまま、詠唱破棄し、その魔法が『風刃』という存在を顕現させる力ある言葉を言うと、私の放った魔法は鋭く実へと飛んでいった。
すると、スパッと切れて落ちてきた実の勢いを殺す為に『浮遊』を畳み掛ける。
「おっとっと」
木の下で待機していたリューリは、危なげなくカカオっぽい実をキャッチすると、私に振り返り笑顔を見せた。
「最後に掛けたのは『浮遊』?」
「そうさね。 『浮遊』はスピードは出ない代わりに浮かしたり、静かに飛んだり、衝撃を和らげる事に特化しているんだよ。 生活魔法に良く使われているんじゃないかい? たぶんだけど」
「なるほど……。 浮くだけかと思ってた」
「アンタはまだ使い慣れてないだけさ。 使い慣れれば、自然と出来るからせいぜい頑張んな」
私はそう言うと、リューリにやらせる為に後ろに下がりつつ、さっさとやれとばかりに身体を押した。
「わ、わかったよ……。 ふぅー……。 風よ、鋭き刃を持って、我が意に応えよ!『風刃』!」
詠唱破棄がまだリューリには出来ないので、仕方ないが、さっさと出来るように途中詠唱破棄の段階に進ませてもいいかも。
リューリの展開される魔法を見ながら思っていると、私と同じようにスパッと切り落とした。
「やばっ!『浮遊』!」
『風刃』が上手く出来たからと気を抜くからそうなるんだよ。 全く、しょうがないなぁ。
実に上手く『浮遊』魔法が掛からなかったのか重力に従い落ちてくるが、私は助けない。
だってそんな事しなくても、リューリには魔石がある。 私がそう思っていると、ほのかに緑色に魔石は光りリューリの外れた『浮遊』魔法が、カカオっぽい実に再び掛かる。
「……え?」
勢いが無くなった実は、ポトリと静かに地面へと落ちる。
「なに、ボケっとしているのさ。 その実もさっさと仕舞いなよ」
「いや、あの、僕の『浮遊』外れたよね? なんで掛かったの?」
「魔石のおかげだよ。 アンタの『風刃』は剣を抜かなかったから魔石は反応しなかった。 でも、『浮遊』は剣を抜かずに発動出来る魔法だからねぇ。 リューリの力ある言葉に反応して、アンタの魔法を補助したのさ」
実を拾ってきたリューリにそう説明すると、腰に下げたままの剣を見ながら一撫でしては、小さくありがとうと呟いた。




