【61・モトメテ】
ここは魔素の森の奥深く。 深部とまでは行かないまでもAランク以上の冒険者パーティー二、三組ぐらいないと来れない危険な場所に今、私はリューリと二人で来ている。
「ほ、本当に大丈夫なんだよね?!」
「何度言ったらわかるんだい? この辺りの魔物はこっちに近寄って来たりしないさね。 彼奴らは相手の強さを本能でわかってる。 私が強者で自分達では敵わないとね」
「アリアが離れたら僕はいい餌なんだけど?!」
「食われたらご愁傷さまだねぇ。 まぁ、私の結界を貼っておくからそんな事にならないよっと」
そんな会話をしながらリューリを乗せたまま私は目的地へと進んでいた。
なんで、こんな所にリューリを連れて来ているかと言うと、話は数時間前に遡る。
修行場所を練習場に移し修行を続けていた今日、カカシを立たせて風魔法『風刃』と風魔法『浮遊』をイリスの代わりに私が見守る中、リューリを尋ねにライヘン家の料理長が一人の青年を連れてきた事から始まった。
「スイーツの大祭典?」
「はい。 実は三年に一度、隣国のシュタールツ帝国で国内外の若手料理人や有名料理人を集めて開催されるコンテストが近々、祭りを兼ねて催されるのです。 そのコンテストのスイーツ部門にこのクランツが初出場するのです」
ほぉ、面白そうな祭じゃん。 紹介されたクランツさんを見るとまだ20代で優しそうな雰囲気でちょっとくせっ毛の茶髪の青年。 緊張しているのか口を真一文字にしていて、悪戯したくなる。
ん? 三年に一度? ……………ぁあ! フェアリアルキャットの記憶に行ったことのある記憶がある! まぁ、あの時はつるんでいたエルフの冒険者が街中に入れない私(フェアリアルキャット)の代わりに色々と買ってきて、食べまくったような記憶がある。
あの時のエルフは今頃どうしてるのかなぁ。 長命種の代表格のエルフとかは森に籠る連中も居れば、冒険者になる者も居る。 そんな冒険者になったエルフには美食家やダンジョン好きも多い。 以外と気が合う私達はたまに共に旅という食べ歩きとかしていたのだ。
そんな時にいつの間にか始まっていた人間の食の祭典に、エルフが目をつけ三年に一度は必ずといっていいほど行っていたのを思い出した。
「リューリ! 行きたい! その祭典に行って食べ歩きしたい!」
「やっぱり……。 食い意地張ってるもんね……。 でも、料理長、コンテストの話をなぜ僕に?」
私はリューリの足元をぐるぐる回り身体を擦り寄せおねだりを開始するが、ため息をされただけ。 くそぅ、お猫様のこのおねだりが効かぬとは、リューリの癖にぃ……。
って、そうだよ。 コンテストだよ。 私も気になり料理長を見上げてお座り待機をすると、クランツさんは可愛いなぁという眼差しで私を見てくる。
「それは、僕から話させてください」
クランツさんが料理長の後ろから少し前に出てきて、緊張した面持ちのまま話し始めた。
その話を要約すると、初出場するコンテストでいい成績を残したいが、アイデアがいまいちで料理長に相談したところリューリに相談する事になったらしい。
「数々の新しい料理を私は坊ちゃんから教えて頂きました。 そんな坊ちゃんならなにかいい案でもあるかと思いまして……」
「僕はパティシエじゃなくてパン屋なんだけど……」
小さく呟くリューリ。
「なにか、よい案はありますか?」
何かを期待するようにリューリを見つめる料理長とクランツさん。
「えぇー……」
『アリアー……。 何かない?』
『なんで、私に聞くのさ』
『いや、アリアなら何かあるかなってね?』
『うーん。 チョコレートはこの世界にあるのかな?』
『でも、チョコレート作るとしたらカカオ豆が必要じゃない?』
『まずは、あるかどうかを確認してよ』
「あの、クランツさんに確認したいんだけど、チョコレートって物はありますか?」
「チョコレート? それは一体なんでしょうか?」
スイーツの定番といえば、チョコを使ったスイーツ。 甘い物を食べたかった私は思いつくままに食べたい物を確認させた。
リューリの問いかけにクランツは知らないようで、首を傾げ不思議そうにしてきた。
あー……。 やっぱりかぁー……。 そのクランツの様子に私はガクッと肩を落とし、リューリに念話をしてカカオ豆をゲットしようと言った。
そして、クランツと料理長にスイーツ作りのヒントになるかも知れないと、私達は説明して《魔素の森》へと来たのだった。
「魔素の森に本当にあるの?」
「見た目がカカオ豆なんだけど、味は食べて見ないと分からないんだよねぇ」
「え"っ、それってもしかしたら食べられない可能性もあるの?」
「あはははっ! その可能性もあるねぇ!」
「はぁっー?!」
「ほら、着いたよ」
私は誤魔化すように笑い、魔素の森に響くリューリの声をBGMに目的地に着くと辺りを見回した。




