【60・初心者と風魔法】
「はぁー……日向ぼっこ日和だねぇ」
ポカポカと日当たりのいいライヘン家の一角のベンチで、のんびりと日向ぼっこをしている私の耳は、リューリが母であるイリスから魔法訓練を受けている音を拾っていた。
「リューリ。 風魔法自体の殺傷能力は他の魔法に比べて低いの。 でも、その代わりに補助力はとても高いのよ。 風は自由で運ぶ象徴。 それを強くイメージしなさい」
「自由、運ぶ……」
リューリに風魔法の適正はない。 ではなぜ、風魔法の訓練をしているかというと、例の国王から貰った剣の為だ。
あの剣には風魔法の魔石が付いていて、そのままでも使用出来なくはないが、それでは無駄に魔力を消費するわ魔石に負担を必要以上にかけてしまうので効率が悪い。
私が教えてもいいけど、それよりちゃんと適正があって、正しい指導が出来る人に教えて貰った方が絶対いいと思ってイリスに白羽の矢がたったのだ。
フェアリアルキャットは感覚で使えるようになった事が多いから、理論的に言葉で説明するの大変なのよ。
「かぜ……はこぶ……ふく……」
リューリはイリスが見守る中、ぶつぶつと呟きながらイメージを固めていくと、それに伴いふわりふわりとリューリを中心に風が吹き集まってくる。
「そうよ。 その感じ。 さぁ、私に続いて呪文を言ってみて「吹き荒れる流浪の者よ、我が声に応えその力を顕現せよ! 『烈風破!』」」
「っ……! ふ、吹き荒れる流浪の者よ、我が声に応えその力を顕現せよ!『烈風破!』」
イリスの詠唱に続けてリューリは風魔法を唱えた。
すると、リューリの周りに吹いていた風はリューリの魔力を帯びて意思を持ちその姿を変えて、球状に渦巻いてきた。
しかし、コントロールが甘かったせいかリューリの意思を反して乱れてくると、イリスが慌てて止めようとするがもう遅い。
あろうことか、リューリのコントロールが外れ放たれた魔法はまっすぐ私に飛んできたのだ。
「ちょっ! 『魔法無効!』」
私は慌てて起き上がり焦りながらも、闇魔法『魔法無効』という魔法をリューリが放ってきた風魔法『烈風破』にぶつけて干渉し消滅させた。 あっぶなー……。 あれを避けるだけだったら簡単だけど、私の後ろには綺麗な庭がある。 避けたり逸らせば大惨事間違いなしだ。
「リューリ! なんで私に放ってくるんだい?! ケンカ売ってるなら喜んで買うよ?!」
「そんなわけないじゃん! 怪我はない?! 大丈夫?!」
バシバシと尻尾で地面を叩きながら文句を言うと、リューリは慌てて私の元に走ってくると必死に謝りながら、私の身体をペタペタ触り怪我を探し心配してきた。
「うみゃっ!? にゃっ!? にゃにするんだい! あんなので怪我なんてする訳ないだろ!」
最初は触るだけだったのが、段々と変わりもみくちゃにされて変な声を上げると、しつこいリューリの手を猫パンチで叩き落とした。
「はぁっー、はぁっー。 つ、次やったらタダじゃおかないよ……」
「いってぇ……。 なにも叩かなくてもいいじゃん」
息を荒らげ睨むと、軽く引っ掻き傷を付けた手をぷらぷらさせながら頬を膨らませるリューリ。 可愛いかよっ! じゃなくて!
「アンタが悪いのでしょうが! まったく、どこの世界に不安定な制御状態の魔法を相手に放つ奴がいる?! せめて、人の居ない所に放ちなよ!」
「まったくよ! リューリ、あれほど上空に放ってと前もって言っていたのに何をしているの!」
私に続いてイリスに怒られるリューリは、縮こまりいつの間にかその場で正座をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
「はぁー……。 アリア様、大丈夫ですか?」
「ふん。 あんな魔法なんて大した事ないさね」
「怪我が無くて安心しました。 庭も守って下さりありがとうございます。 それにしても、先程の魔法は何でしょうか?」
正座するリューリをそのままにイリスは私がさっき使った『魔法無効』が気になっているようで、全てが無事と確認出来ると、さしつかえなければ教えて頂けませんか?と、聞いてきた。
「あれは、闇魔法『魔法無効』だよ。 相手の魔法に干渉し魔力を同調させ、打ち消す。 つまり、魔法を無かった事にするんだよ。 使い方しだいじゃ、精神に干渉する魔法にさえ通用するよ(まぁ、精神に干渉する魔法を無効にするなんて、こっちの負担がでかいからしないけど…)」
フェアリアルキャットの記憶を引き出しながらイリスに説明するが、精神に干渉する魔法については心に留めるだけにした。
あれはしんどい、面倒い、時間がかかるの出来る事なら二度とやりたくない魔法だとフェアリアルキャットの記憶では覚えていた。
なんで、そんな魔法を使った記憶があるのかは好奇心のなせる技だ。 たしか、人間に使ったとだけ覚えてる。
「リューリ、アリア様が居て本当に良かったですが、以後、こんな事にならないようちゃんとコントロールを身につけなさい。 いいわね? まったく、上空に放てば大丈夫だと思い庭先でしたけど、今度からは練習場でするわよ」
「う"……。 はーい」
確かに私もリューリの魔法コントロールが出来て来ていたから大丈夫だと、タカをくくっていただけにこれは無い。 イリスに賛成だ。
リューリは反論も出来ずに、肩を落としたまま返事を返したのだった。




