【56・ジッセン】
宿屋の裏庭に私達は戻ってきた。 周りをキョロキョロして誰も居ない事を確認すると、リューリは先程貰った『精米機』を近くの作業台にマジックボックスから取り出し置いた。
「アリア……」
「リューリ……」
私達は互いの名を呼べば、ここまで我慢してきた喜びを爆発させるように手を握った。
「やっと、念願の米が食べられるー!!」
「転生したから諦めてたけど、手に入った!!」
「よく報酬でこれをお強請りしたよ!」
興奮冷めやらぬまま、私はさっそくとばかりにリューリに米を炊くようにお願いした。
玄米を入れて『精米機』を動かすリューリ。 すると、独特の機械音を立てて動き出すと、リューリは『精米機』の裏を見た。
はやる気持ちを抑えて私は精米が終わるのを待った。
少しして、精米が終わったのか機械は静かになり、先程見た裏から引き出しを取ると、リューリは私に見えるよう下に下げてくれた。
「リューリっ!」
「うんうんっ! 白米が綺麗に見えるっ!」
精米したての独特な香りに自然と期待は高まる。
さて、米を炊くにしても設備が無いと思うが、そんな事問題ない!
テンションの高い私は土魔法で簡易的な竈門を作るとリューリはマジックボックスから焚き火用の木を取り出し中に入れて、その上に野宿で使う鍋を設置。 火魔法で火を付ければ後は待つだけ!
「アリア、今のうちにおかずと味噌汁も作りたい」
「はいよ!」
言われるがままポコポコと竈門を作れば、嬉々として料理を作るリューリ。
「リューリ? アリア殿?」
おや、リカルドが来てしまった。
「あ! 父さん! 今、手は離せないんだけど、国王様から頂いた報酬の『精米機』を使ってご飯を炊いてるんだ! すっごいよ!」
帰ってくる途中で買った鶏肉で唐揚げを作り、野菜で味噌汁を作りと忙しいリューリ。 私も今回ばかりは邪魔してならない。
そう、私は一番大切な米の炊きあがりの番をしているのだ。 始めちょろちょろ中ぱっぱ。赤子が泣いても蓋取るな。
あの有名な一節を守る為、私は米の竈門から動かない。
「リカルド、そこに居るならリューリの手伝いをしておくれ」
「え? あ、はぁ……」
私が視線を外さず声だけを掛れば、リカルドはリューリの料理の手伝いを、訳も分からずするのだった。
「父さん、ありがと!」
「いや、なぁ、聞いていいか?」
「んー……? 唐揚げ揚げながらでいいならいいよー?」
「分かった。 まぁ、聞きたいのは、あのアリア殿の様子と『せいまいき』とやらは何に使う魔道具だ?」
親子は並んで唐揚げを次々と揚げ、付け合わせの味噌汁も作り始めた。 こっちもいい感じになってきた。
「『精米機』ね。 アレなんだけど、米っていう東の国の穀物を食べやすくする為に使う道具なんだ。 アレがなくても食べられるのは食べられるんだけど、味と見た目が全然違うんだよ。 健康にいい栄養成分は少なくなっちゃうんだけどね」
「ほぅー……。 それは凄いな」
「そして、アリアはその精米された米が食べられるようにああやっているんだけど、その火の加減が難しいから見て貰ってるんだ」
「初めちょろちょろ中ぱっぱー。赤子が泣いても蓋とるなー」
私が歌いながら火の番して、闇の帯で木を取り出し火を弱めている姿を後ろからリカルドは不思議そうに見ていた。
「闇魔法を手のように使ってる……。 ある意味凄いが使い方がなんか違うような」
「アリアー? どう? どんな感じー?」
リカルドがなんか呟いていたけど、興味はない。 後は余熱で蒸らすだけ。
「久しぶりにこんな事したから感覚が鈍ってるかもだけど、今は蒸らしに入った」
「んじゃ、こっちも仕上げに入っていいかな?」
「あぁ、構わないよ」
リューリは私が頷くと、マジックボックスからテーブルセットを取り出し、唐揚げ、サラダ、味噌汁を並べていった。
今回手に入れた調味料を使って、どんなおかずにするか二人で迷いに迷って決めたレシピだ。
さぁ、後はあの主役の登場だ!




