【55・セイマイキ】
魔物暴走が終わり、数日経つと宿屋もそれ関係で集まっていたと思われる冒険者達が少しずつ減っていき、何処か浮き足立っていた空気も落ち着きを取り戻した今日、私とリューリは再び王城へと呼ばれた。
「連日お呼びたてして申し訳ありません」
中庭のような場所へと兵士に案内されて着いていくと、そこに待っていたのは宰相さんだった。
その宰相さんの後ろには白い布が掛けられた『何か』が置いてあるのに気付き、私は危険がないか鼻をヒクつかせる。 どうやら、危険な物ではない。 魔力探知を使い探ると僅かに魔力を感じた。
「宰相さん、気にしないでください。 でも、今日はどうしました?」
「おや、迎えに向かわせた者は何も言っておりませんでしたかな?」
「彼奴なら私にビビっていたからちょいとからかったら城に来るようにと早口で言って逃げちまったよ」
全く失礼な奴だったよ! リューリと一緒に裏庭でお茶とお菓子を食べてのんびりしながら、精米機が来たら米を炊いて、おかずは何にしようかとか、ライヘン領へそろそろ帰る準備しなくちゃなぁー…とか話していると文官らしき人がやってきたのだ。
私を気にしながらリューリと何とか話をしていたが、ちょっとした悪戯心で私は足元に擦り寄ってやったのだ。
すると、面白いぐらいに飛び上がり逃げてしまい詳しく話を聞きそびれてしまった。
「アリアが本当にごめんなさい! あの後、きちんと叱ったので、こんな事はないと思います!」
リューリは私の頭を掴んで無理矢理下げさせる。 ぐぬぬっ! 痛いじゃないか! 私はイヤイヤするように頭を振って避けようとするが、がっしりと毛を掴んでいる為、無理に動けばさらに痛い。おのれ、リューリめぇ…。
「ははっ! いやいや、気にしないでください。 むしろ、その文官にはもっと精神的に強くなって貰わないといけませんね」
「で、でも……」
「いいんですよ。 さぁ、それよりこちらをご覧ください」
宰相さんにそう言われたリューリは私の頭から手を離した。 あー…痛かったぁー…。 離された頭を撫でて労わっていると、リューリは宰相さんに呼ばれた。
「あの、これは?」
「大変お待たせしました。 こちら『精米機』です」
「なっ?!」
「えっ?!」
「お待たせして、申し訳ございません。 何分少々、特殊な物でして準備に手間取りまして遅くなってしまいました。 機能については……」
白い布が取られ姿を見せたこの世界の『精米機』。
想像にあったのは前世のスーパーの片隅にどんっとあった精米機だが、ここのは違う。 まず、サイズが小さい。 例えるならフードプロセッサーみたいにコンパクト。 中身は見えないが、魔石がボタンのように付いている。
夢中になって『精米機』が置かれたテーブルの周りをぐるぐる回るがコードらしきものは無い。 宰相さんが使い方とか説明してるけど、そんな事より早く動いてるところをみたい。
私は好奇心に負けて、正面に戻れば右前脚を伸ばして魔石へとかざした。
「ぉお……!」
静かにふぉんっ…と音を立てて『精米機』は動き出した。
「あっ! アリアったら勝手に動かさないでよ!」
「いいじゃないか! ほら、見てみなよ!」
説明を聞いていたリューリが私の行動に気付き慌てて止めに来るが、動いている『精米機』を顎で示すとそちらに視線を動かした。
「これは、風魔法?」
「はい。 魔石に風魔法の術式が込められておりますので、これで動きます」
リューリの呟きに宰相さんが頷き、さりげなく止める為に再び魔石に手を翳す。 すると、『精米機』は止まったのだった。
「これには複雑な魔法回路が繋がってるねぇ」
「分かるの?」
「ん、何となくしか分からないけど、魔道具技師、付与術師などが絡んでるねぇ。 私じゃこの動きを再現出来ないさね」
悔しいが、いくら魔法が得意でも使い方が違うので私には出来ない。 つまり、壊れたら大変な事になるのは必須。 大切に使わなくては。
「おやおや、かの有名なフェアリアルキャット様にそのような事を言わせたと伝えたら、技術者達は諸手を挙げて喜びますよ」
ぐぬぬ……。 本当に悔しいっ!
「な、何はともわれ! 僕達の為にこのような凄い物をありがとうございます! 大切にします!」
受け取った『精米機』をリューリはマジックボックスにそそくさと仕舞って笑顔で頭を下げると、私達は城を後にした。




