【43・ショウユ続】
「おや、可愛いらしいお客さんだねぇ。若い子には地味なお店かも知れないけど、ゆっくり見て行ってね?」
可愛らしい優しそうなおばあちゃんが、レジにある椅子に座るとそう話しかけて来たので、リューリは特に警戒する訳でもなく、笑顔でおばあちゃんに近付いて問いかけた。
「あの、初めてこのお店に来たんですが、ここの調味料はどんな調味料ですか?」
「ふふっ……。これはね、しょう油っていう調味料なのよ。あっちに並んでいるのは私が作った料理よ。あと、少しだけど、お味噌っていう調味料も作っているの」
「しょう油に味噌?!」
「おや?知っているのかい?」
「え?!いやっ、そのっ……」
これには、私も驚いた。まさかの全て手作りとは恐れ入る。たしか、どっちも温度、湿度、麹菌などの管理と維持が大変なはずだ。
「はぁ……。おばあさん、私達はその調味料をいつか探して手に入れたいと思っていたんだよ」
「ま、魔物が喋ったっ?!ひぇー。長い事生きて来たけど、初めてみるよ」
「ふん。私の方がおばあさんより歳上だよ?そんな事より、よく、こんな調味料を作れるねぇ」
「そうですよ! 手作りって凄いです! あのっ! 味見とかって出来ますか?」
「ふふっ……。そうかねぇ。昔からやってきた事だけど、そう言われるのは嬉しいよ。味見かい?もちろんいいよ」
驚きすぎてしどろもどろになっているリューリに代わり私が話すと、お馴染みの反応。そこに、気を取り直したリューリが問いかけると、おばあちゃんはにっこり笑って、ちょっと待ってて?と言って店の奥へと戻って行った。
「アリア……」
「リューリ……」
「「やったー!」」
「味噌まであるなんていいじゃないか!」
「しょう油、味噌、くぅっー!やっぱ、元日本人としては恋しい味っ!」
私達は嬉しさに声を揃えて喜び合った。これで、米を見つけるのみ!しかし、昔から作ってたってどゆこと?
少し待っていると、おばあちゃんは小皿を二つ持ってきた。
「はい、坊や。どっちも少しだけにしなさいよ?しょっぱいからね?」
「ありがとうございます!」
リューリの後ろから覗きながら匂いを嗅ぐと、嗅ぎなれた香りがして一気に懐かしくなった。そりゃあ、この異世界も楽しいけど、でも、やっぱり前世の世界の方が馴染み深い。
ちょっとだけ切なくなったけど、今はそれよりも目の前の二つだ。私達は小さく頷き合うと、リューリは小指をしょう油に付けて舐めた。
「ん!いい味!こっちの味噌は……。こっちも正しく味噌って感じの味だ!大豆からどっちも作ってるみたいだけど、雑味が無くて深い味わい。味噌はこのままきゅうりとかで食べたいくらい。しょう油は刺身って言いたいけど、焼きおにぎりでも食べたいくらい!」
「ちょいと、私にも味見させておくれよ!」
リューリの話を聞き、我慢出来ずに私は頭をさらに突き出して、リューリが止めるのも構わずしょう油と味噌を味見した。
「ぉお!いい味じゃないか。これで、さらに料理の幅が広がるんじゃないかい?」
「それはやっぱり僕が作るんだよね?」
「おばあさん、このしょう油と味噌はどうやって作っているんだい?」
「ねぇ、アリア、聞いてる?」
「おやおや、魔物さんもこの婆さんが作ったのが、そんなに気に入ったかい?変わってるねぇ。でも、作り方は教えられないよ?そんなに気に入ったならどうだい?買って行くかい?」
「あぁ、もちろん買うさね。やっぱり、そう簡単には教えられないかい。中々、商売上手じゃないか」
「ふふっ……。私も魔物さんがここまで話が出来るとは冥土の土産になるよ」
「……二人とも僕の話を聞いてよ」
私がおばあちゃんと話をしているとリューリが肩を落としながら呟いた。
「リューリ?アンタじゃ、まともな話にならないし料理をするのは決まってるだろう?何言ってんだい|『だいたい、前世に関する事をちょいちょい言ってて危なかっしいんだよ。変なのに目を付けられたらどうするの?』」
「うぐっ……。それは、ごめん。あまりにも嬉しくてついっ……」
私が念話を混じえて話すと図星だったのか、シュンと落ち込むリューリ。そんな私達の様子を見ていたおばあちゃんは、面白い物を見ているようにニコニコだ。
まぁ、このおばあちゃんが私らを悪用するような人には見えないけど、一般人にも見えない。所々、隙のない動きに私はフェアリアルキャットとしての勘がそう言っている。
「おばあさん、ちょいと聞くけど、穀物で米とかいう物は扱ってるかい?」
「米?」
「あぁ、私も東の国にあったような気がするという記憶しかなくてねぇ。なんでも、殻に入っていてその殻を取ると、黄色味がかった粒が出るらしい。さらにそれを綺麗にすると白くて粒になるらしい。水を入れて火にかけるとふっくらして食べると、甘くて美味しいらしいんだ」
「うーん。ん?もしかして、あれかい?」
私は出来るだけ簡単に米について説明すると、おばあちゃんは少し悩んだ結果、惣菜を売っている棚を指差した。
そこには、棚の片隅で申し訳なさそうにちょこんと小さな麻袋が一つだけあった。
読んで下さった方々、ありがとうございます!
稚拙な文章で読みにくかったり、誤字脱字があったりすると思いますが、温かーく、優しーく見守ってくださいませ(笑)
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