【30・任せてみよう】
「…………はぁー……。王都かぁ……」
ライヘン家の執務室で、深いため息を零すこのライヘン領の領主・リカルドは、豪華な装飾のされた手紙を読んでどうしたものかと頭を悩ませた。別に王都に行くのは構わない。……金はかかるが。今はそれより、その登城理由だ。
「まぁ、いずれ呼ばれるとは思っていたが、案外早かったな……」
今朝方、早馬が訪れ恭しく渡してきたので何事かと思えば、私達ライヘン家に領地を分けて下さったデリーム・レンジ侯爵からの早馬で、レンジ侯爵からの手紙と王家の家紋が入った手紙の二通を届けに来たのだった。
恐れ多くも王家からの手紙という事もあり、礼をして恭しく受け取り、読んでみたが内容に気が重くなった。なんせ、フェアリアルキャットが居るならば見てみたいとの事だ。あわよくば、王家に助力を願いたいとのこと。
「レンジ侯爵を通して話は国王陛下に伝わったのはいいが、アリア殿についてはそのまま放置した方がいいと言ったのに……。」
夕食前にでも話をするか。と再び、重いため息をした所に愛息子のリューリからの呼び声。まさか、話題の方から来るとは思わず、少し躊躇うが、夕食前に話すか今話すかの違いだけなので、入室を許可した。
「……どうした?先程、冒険者ギルドに行くと聞いていたが?」
「ただいま。えと……ブラックサーペントの討伐報酬を受け取ったんだけど、いいかな?」
「あぁ、そうだったのか。おいで、一応、内訳を聞こうか?」
イリスに似たハニーブロンドの髪を揺らし頷くと、最近はブラックサーペントの討伐に行ってから雰囲気が何処かしっかりしてきた我が子と、今悩みの種のフェアリアルキャットのアリア殿が入ってきた。
アリア殿は、小さくなっていて初めて会った時の威圧感は少ないもの、存在感はあり、かなり知性も併せ持っている。リューリの魔力が最近増えてきているのも、アリア殿自ら教えたらしい。
「父さん、ブラックサーペントの討伐成功報酬だけど、金額を聞いて驚かないでね?」
「ははっ!ある程度は覚悟しているさ。ブラックサーペントの脅威は俺自身身をもって知っているからな。……どれ、幾らだい?」
ブラックサーペントを討伐すると聞いた時は危険過ぎると反対した。いくら、アリア殿が居るからとはいえ、リューリはまだ13歳の子供。実力も経験も少ない。子を思う親として反対するのは当然だ。
だが、リューリ達は我々、大人の心配を他所にアリア殿に連れて行かれるまま旅に出てしまった。確かにアリア殿はリューリの従魔であるので、討伐に行くには、主人であるリューリも行く必要がある。それは解っているが、それとこれとは別だ。
しかし、帰ってきたリューリの顔を見て俺達は驚いた。いつも、ホワホワとした雰囲気が何処かあり、冒険者としての才能もあるが、リューリはどちらかと言えば、パン作りやデザートをしているのが性に合う感じがしていたのだ。
リューリは今回の旅で少なからず、何かを得たようだった。それは、アリア殿かもしくは旅そのものかは分からないが。そのブラックサーペントの討伐成功報酬。………気にならないと言ったら嘘になる。
「………………え?桁数が凄い事になっていないか?」
「………間違ってないよ。僕も数え直したし」
「…………金貨……さ、345枚……。嘘じゃないよな?」
リューリから渡された詳細内訳用紙を見て思考が止まった。俺の時より高くないか?え?皮だけで100枚超えてる……。しかも、冒険者ギルドだけでなく商業ギルドからの金額も入ってる。
「……………い、イリスーー!!」
「へぁ?!な、なに?!」
思わず、見た事の無い金額に慌ててイリスを呼んだ。リューリが驚き変な声を出したり、アリア殿は両耳を両前足で塞ぎ俺の声に文句を言いたそうにしていた。
イリスが来るのを待っている間にリューリは応接用のローテーブルに自身のマジックボックスから金貨が入った麻袋を4袋。ドドンっと置いていく。
「リカルド?ちょっと、どうしたの?」
不思議そうにしながらも何処か警戒感のあるイリスが杖を片手にやって来た。さすが、元Sランク冒険者。警戒するのはいい事だ。ってそれどころじゃない。
「リュ、リューリがとんでもない金貨を持ってきた………」
「はぁ?もう、なぁに、びっくりしちゃったじゃない。今更じゃないの」
「ち、違うんだっ!き、金額が凄いんだって!ほら!」
俺の言葉に呆れた様子のイリスに証拠の用紙を見せると、イリスもローテーブルに置かれた金貨の入った麻袋と用紙を見比べて大声を出した。
「え、え?金貨……さんびゃくよんじゅうごまい……ぇえーー!!」
ほら、俺が慌てたのが分かっただろ?
「いい加減にしないか!アンタら一々、煩い!」
俺らの声に我慢の限界だったアリア殿が吠えた。
いや、驚くって。俺だってSランクとして稼いだ時はある。でも、せいぜい、金貨200枚が限度だった。しかも、5人パーティだったから分けたら1人40枚だ。それを、たった2人で345枚。
「ふん。私がやったんだ。当たり前だ。なるべく傷を少なく仕留めたから余計、上乗せされたんだよ」
自慢そうに話すアリア殿に何処か納得する。さて、問題はこの金貨の使い道だ。今までは子供という事もあり、私達が預かってきたが、金額が金額だし、せっかくの2人の成果。安易に我々が預かっていいものでもない。
それに、王都の件もせっかくなら話してしまおう。
「リューリ、この金貨はせっかく作った宝物庫にリューリ専用の金庫を作ろう。そこに入れたい分だけ入れるといい。これからは一人の冒険者として、自分のお金は自分で管理しなさい」
「リカルド?いつもみたいに預かってもいいんじゃないかしら?」
「いや、リューリも13歳。2年後には成人を迎えるんだ。せっかく自分達で稼いだお金だ。試しに管理させてみようと思ってね」
金額を聞く前であの手紙の前だったらそうしていたが、リューリはしっかりしてるし今後の事を考えたら、それくらいさせてみたい。
「しかしだ。今回は早速その金貨を使ってやって貰いたい事がある。もちろん、父さんからもちゃんと出すよ?どうだ?」
「やってもらいたいこと?僕が中心となってって事?」
「あぁ、契約とかでリューリが出来ない時は俺が代わりになろう」
13歳の子供に何をさせる気でいるんだと思うが、リューリならなんとか出来ると思う。まぁ、やることと言っても王都への旅費の調達とそれに必要な人材。行くまでの間の宿の手配。などだ。今まで俺がしていたことをそのままやればいい。
「………うん!分かった!やってみる!」
少し悩んだ結果、リューリは俺を見上げ力強く頷いてくれた。俺はリューリの前にしゃがむとワシワシと頭を撫で嬉しくて笑ってしまった。
読んで下さった方々、ありがとうございます!
稚拙な文章で読みにくかったり、誤字脱字があったりすると思いますが、温かーく、優しーく見守ってくださいませ(笑)
初のリカルドパパからの視点です(笑)
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応援されるととても嬉しくて何度も読み返しちゃうかもです(笑)




