【20・商業ギルド】
あっちもこっちも忙しなく行き交う商人達の間を縫うようにカウンターへと私達は向かって歩いた。
そう、今日は天然酵母の商標登録へと商業ギルドに来たのだ。天然酵母は小さじ一杯分くらい取って置いて次の天然酵母を作る時に入れて培養する。そうする事で早く発酵するらしい。
「早くしとくれよ?」
「わかったわかった。でも、今回は早く済むと思うよ?」
「前にも来た事あるんだったかい」
「そう、一輪車もどきとリヤカーもどきの商標登録でね。ボクはそんな事するつもりなかったんだけど、父さんの知り合いの商人さんに試しに売れるか聞いたら絶対売れるって言われて、勧められるがまま登録しに来たんだ」
「道理で見た事あるのが街のあちこちにあったわけだよ」
そんな会話をしながら歩いていると、ちらほらと視線を感じるが大したものでもないので、放置しているといつの間にかカウンターに着いた。
「いらっしゃいませ。リューリさん。本日はどのような要件でしょうか?」
「すみませんが、新たな商標登録をしに来ました」
うおー!綺麗なお姉さん!!やっと、出会えた!!
あ、一応、名誉のためにいうけど、私自身はノーマル。百合や薔薇は二次元派。おっと、話が逸れた。
私が内心感動しているのは、異世界に行ったら必ず美人もしくは美男に会えると思っていたからだ。まぁ、ライヘン家の人達は皆、美男美女だったけどそれとこれとは別。
そんな事を考えていると話は奥の部屋で聞く事になったみたい。リューリの後について行き辿り着いた部屋の中に居るのは、商業ギルドのギルマス。
「いらっしゃいませ。話は聞きましたよ。天然酵母?というのを商標登録したいそうですね」
恰幅のいい体格だが、如何にも商人です。って感じで人の良さそうな笑顔で、私を見ても表情を変えずに笑顔を崩さない。中々、肝の据わったギルマスだ。
「はい。どのような物で作り方と用途を分かりやすく書いてきたので、見てみてください」
ソファに勧められリューリと一緒に座ると、直ぐにマジックボックスから資料と作った天然酵母が入った瓶、昨日作った丸パンを取り出して、リューリは説明をした。
「どれどれ……。ほう、確かに柔らかく今までのパンとは違いますね。それにしても、酵母ですか……」
「はい。この酵母には種類があって、酒を発酵させるのも酵母もあれば、こうして、パンを膨らませ柔らかくするのもいます。僕はお酒についてはわかりませんので今回はこのパン酵母つまり天然酵母を使ったパンのレシピとそのパンを使った料理のレシピを商標登録または販売をしてくださいませんか?」
「ふむふむ、面白そうですね!いやぁ、リューリさんにはいつも驚かされますね。さっそく、手配しましょう」
「本当ですか?!」
「天然酵母パンは商標登録にレシピは販売でいいですか?」
「はい!それで、お願いします!」
トントン拍子で話は進み、さて帰ろうかと思ったが、ギルマスが私を見て話しかけてきた。
「あの、つかぬ事を聞きますが、フェアリアルキャット様でよろしいのですよね?」
「……そうだけど、何か用かい?」
「やはり、そうでしたか。その気品ある佇まいに毛並み。その強者としての風格。お姿は聞いていたより少々小さいですが、魔法ですか?」
「ふん。アンタ話がわかるやつじゃないか。この姿はスキルを使ったのさ。小さくて窮屈だが、建物に入る時はこうしてるのさ」
「左様でしたか。……小耳に挟んだのですが、ブラックサーペント狩りをなさるのですよね?」
ギルマスの言葉に私は嬉しくなり気分が良くなれば、それがどうした?と問いかけた。リューリは、気品?風格?と訝しげにこちらをチラリと見てきたので、尻尾で叩いておいたけど。
「出来れば、そのブラックサーペントの皮を一部でもいいので、此方にも卸してくだされば、それなりの礼金をお支払いいたします。なので、お願い出来ませんか?」
「ブラックサーペントの皮?そんなのでいいのかい?」
「はい!皮はじょうぶで加工すると光沢もありカバン等にすると、人気なのですよ。ただ、ブラックサーペントがあまりにも我々には危険なので、市場にも中々出てこなくて困っていまして……」
「へぇ、あんなのがねぇ……。リューリ、問題は?」
私的には全く問題ないが、ここは主人であるリューリの判断に任せた。
「そうだなぁ。どれくらいの大きさかはわからないけど、僕的にも問題ないかな」
「だ、そうだ」
「ありがとうございます!」
リューリの話を聞くと、ギルマスは嬉しそうにリューリと握手をした。
そして、話が纏まると私達は商業ギルドから出ていったのだった。その後、商人達が私達とギルマスの話を聞きにこぞってカウンターに群がっていたなんて、私達は知らなかった。
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