【91・ハッカク】
わざとらしく咳をして空気を換えるようにこちらを見て居住まいを正し、貴族らしい礼をしてきたのは、メガネ君ことジャック・スパータ。
グレーヘアーのオールバックに歳を重ねた顔の皴が、フェアリアルキャットの記憶との差を感じるが、理知的なメガネ姿と何だかんだと言いつつも、言葉の節々にグランチェーダを心配している様子は、記憶のかなたにある在りし日の二人に見えて懐かしく感じた。
「今も昔も相変わらず、このグラン坊には苦労させられているようだねぇ」
「もう坊などという歳ではないわい」
「ふん。私からすればアンタもジャックもまだまだ子供さね。 まあ、人間からすればいい歳らしいから坊と呼ぶのはやめとこうかねぇ。 それで? わざわざ私に会いにここまで来たのにはなんか用でもあったのかい?」
暗に用が無ければ帰れと二人に聞けば、口を開いたのはジャックだった。
「色々ご迷惑をお掛けしたと聞き及びまして、そのお詫びと久ぶりの再会ということでぜひグランチェーダの屋敷に招待したいのですが、いかがでしょうか」
色々ねぇ……。
含みがある言い方や視線が私の後ろにいるリューリをちらっと見てのことなので、気になるところではあるが恐らく悪い話ではないだろうなと思う。
「ふむ……。 リューリ、どうする?」
「えっ?! えー? 僕に聞くそれ……?」
「当たり前じゃないか。 私はアンタの従魔なんだよ? 主人のいうことは聞くさね」
「それ、今まで聞いたことないけど? だったら、もっと僕の話聞いてほしいんだけど?」
「あらん、何でもかんでも聞いてやるのは私じゃないね」
騒ぎを聞きいつの間にか集まっていたリカルド達は、面子のすごさとそれを目の前にしていつものやり取りをする私たちの様子に頭が痛いとばかりに片手で目頭を揉むと、二人ともそこまでだ。と言ってリューリの頭を軽くたたいた。
「それで、どうする? 行くのか?」
「父さん……。 うーん。 あ! 家族皆でいいのなら行きます!」
閃いた!という感じでリューリは言うが、それ巻き込むなら最初から巻き込んでしまおう!と感じ取ったのは私だけ?
あ、リカルドも何か感じっとったぽい。口元ひきつってるよ。
リューリの言葉に快く快諾したグランチェーダとジャックは、リカルドを見てそれぞれ挨拶を互いにかわし、ジャックはおもむろに懐から封筒を出すと、リカルドはうやうやしく受けっとった。
そして、頃合いを図ったように護衛騎士が爺さん二人に声を掛けて来た。ジャックはそれに抑揚に頷くが、グランチェーダは違ったが、目ざとくジャックに見つかりまた拳骨貰ってる。
なにあの二人。反応が真逆過ぎてコントみたい。
「ちょいとアンタら、こんな騒ぎを祭典中に起こしたんだ。 まさか、なぁんも買わずに帰ろうなんてしないだろうねぇ?」
忘れかけていたが、祭典のさなかだ。 元とはいえ国王とその側近。 いくらお忍びとはいえ護衛がこんなに何人もいたんじゃ周りは察しが付くというもの。
現に遠巻きにこちらを伺いながら、ひそひそと二人の素性を話す声が聞こえてきている。
私がそう話すと連中は申し訳なさそうにしたり、苦笑いや私の顔色を伺うように恐る恐るそれぞれが売上に貢献していく。
「ちょ、ちょっと、アリア?!」
「なに?」
「なに? じゃなくて、なに脅すように買わせてるのさ!」
「心外な! 脅してないし、むしろ迷惑料代わりにいいじゃないか」
「だからって……!」
声をひそめるようにリューリが言ってきたが、私悪くない!
せっかく食べ歩きしてたのに邪魔してきたんだ。これくらいいいじゃん!
そんな私達の声が聞こえていたのか、グランチェーダが豪快に笑いながらリューリの頭をガシガシとこれまた豪快に撫でて話を遮ってきた。
「気にするな!元はと言えば、儂一人で来るつもりだったのに、こ奴らが気の聞かん連中なのがいけないんだしのぅ。 それに、他国の騎士爵のSランク冒険者の前で剣を抜くなど、迷惑をかけたのは違いない。気にするでない」
「「いやいや、アンタ(グランチェーダ様)が原因でしょうが!」」
私とジャックの声が重なりツッコミを入れたのは言うまでもない。




