転生なんてしたくなかった。
こんにちは!抹茶風レモンティーです!
覗いて頂きありがとうございます!楽しんで頂けたら幸いです!
追記:作者が無知過ぎたので内容を少し変更しました。申し訳ありません。
「大変だ!人が撃たれたぞ!警察と救急車を呼んでくれ!」
「ぅるせぇ!!!黙って金をだせ!!!」
撃たれたお腹がじんじんと痛み、意識が朦朧としてきた。
ろくでもない思い出が蘇ってくる。
…あぁ、俺死ぬのか。ははっ、こんなどうしようもない奴にはふさわしい最期じゃないか。来世ではもっと…幸せな…人生…を……
「奥さん!産まれましたよ!男の子です!」
*************
俺、流転優生と名付けられた男は前世の記憶を持っている転生者だ。
前世では恋人も出来ず、就活にも失敗して、親の脛かじって生きて来た典型的なニートだった。
ある日、珍しく昼飯を買いに近くのコンビニまで行った時に強盗に出くわした。そしてそのまま真っ先に逃げた所を銃で撃たれ死亡。
物語の主人公みたいに勇敢に立ち向かっただとか、誰かを庇っただとか、そんな事一切考えずに恐怖に駆られて誰よりも速く逃げた。
そんな社会的にも人間的にもどうしようもない駄目人間だった。
しかし、そんな俺でも神様は見捨ててはいなかったようだ。
偶然拾ったこのチャンス、必ず活かして見せる!
…とまぁ、そう意気込んだまでは良かったが、実際にこの時期にできることって何があるんだ?
まともに喋れない上に、動くなんて言わずもがなである。こうやって脳内で一人会話することしか出来ない。
…詰んだ?
*
それからしばらく時間が経ち、俺はある程度言葉を扱えるようになった。それに加えて自由に動き回れるようになったので、空手の道場に通う事にした。
両親は反対していたけど『将来敵が来たときに自分を守りたいんだ』と熱弁したところ、なんとかお許しを頂けた。
…自分でもませた子どもだと思う。だけど、実際の子どものように振る舞うなんて器用な事は、俺には出来ないので仕方ないとも思う。
―道場―
「…」
空手において大切なのは心だ。常に冷静に、呼吸を乱さず、何事にも動じない鋼の心を持つことこそ、空手の真髄らしい。
そう師匠が言っていた。
……………………………………………………
「優生、もっと肩の力を抜きなさい」
「はい!師匠!」
「良いかね、優生?強くなる上で大切な事は何か分かるかい?」
「はい!師匠!何事にも動じない鋼の心です!」
「間違ってはいない。それは空手における真髄とも言える程の重要な事だ。ただし強くなるにはもっと大事なものがある。何か分かるかね?」
「ええっと…すみません師匠。分かりません」
「今はそうだろう。だがいずれ、優生にも気づく日が来るだろう。その時は後悔の無いように行動しなさい」
「はい!師匠!」
……………………………………………………
あの時のもっと大事なものって一体何なんだろうか?それを知ったら俺は強くなれるんだろうか?
それはまだ分からない。だけど、取り敢えず今出来る事を一生懸命するために、俺は毎日道場に通っている。
「…ぇ、ねぇ君!ちょっと良い?」
集中してて気付かなかったけど誰かが話しかけてきているようだ。
…誰だっけ?この少女。
確か師匠のお孫さんだったかな?師匠は"自慢の孫だ"と言いふらしていた気がする。
「何?」
「君、毎日道場に来てるよね?何でそんなに頑張ってるの?」
「それはもちろん、強くなる為だよ!」
「何で強くなりたいの?」
「敵が来たときに強くないと生き残れないだろ?」
前世のように何も出来ずに死にはしない。絶対に今世は失敗しないんだ!
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ私と組み手しない?」
「遠慮しておくよ。女の子をいじめる趣味はないんだ」
こんな少女と戦うなんて、例え組み手だとしても良心が痛む。師匠の孫と言ってもまだ強い訳じゃないだろうし。
今世では俺は紳士を目指しているのだ。
「まぁまぁ、良いから取り敢えずやってみようよ!多分私、君より強いよ」
「…怪我しても知らないからな」
そこまで自信があるならぜひお手合わせ願おうか。
*
結論から言おう。ぶっちゃけこの少女は弱かった。
…まぁ毎日努力してるし、こんな少女に倒されるようじゃ立つ瀬がないんだけど。
「君、思ったより強いんだね!それでも私の方が強いけど!お名前は?」
この子は数分前の出来事を覚えていないんだろうか?一回も俺にまともな技をかけてない気がしたんだが?
もちろん子ども相手にそんな野暮なことは言わないけど。
「俺は流転優生。君は?確か師匠のお孫さんだよね?」
「そうだよ!私は天川明梨!よろしくね、ゆうきくん!」
「あぁ、こちらこそ!」
こうして俺と明梨はちょくちょく一緒に組み手をやるようになった。
*
数年が経ち、俺たちは小学生になった。
俺は前世の記憶があるから流石に小学校の勉強は余裕だったので、さらに空手に打ち込んでいた。
もちろん明梨も一緒だ。
「もぅー、ゆうきー!また一回も倒せなかった!」
「まぁ、俺を倒すのを目標にしてくれるのは嬉しいけどそれだけじゃ強くなれないぞ!他者を見るんじゃなくて自分を見つめるんだ。目指すべきは昨日の自分よりも一歩前に居る自分。そうやって行けば気付いた時に強くなってるもんだよ」
「ふーん、難しい事言うね。まぁ、ゆうきよりは強い自信あるから良いもんねー!」
「おっ、言ったな!じゃあもう一回組み手してみるか!」
「良いよ!次こそは一回倒してみせる!!」
…結局俺は小学生の間、明梨に倒される事は無かった。
*
また数年後、俺たちは中学生になった。
もちろん、俺は今も空手を続けている。
師匠からはもうそろそろ教える事がなくなってしまうと言われたので絶賛張りきっている所だ。
そして明梨も空手は続けているが、年頃の女の子が興味を持つことも気になって来たみたいで、よく買い物に付き合わされるようになった。
化粧とかも上手くなっており、あどけなさは残るが美人に成長したのでクラスの中心になっていた。
「優生!カラオケ行こっ!」
「クラスの友達はいいのか?確か誘われてたよな?」
「いいの、いいの!優生と遊んでた方が面白いし!」
「まぁ、それなら良いんだけどさ」
この頃から、俺は前世では全く気にしていなかったが、おしゃれにも気を使いだすようにした。
*
さて、俺たちは高校生になった。
明梨はあの頃に比べてずっと大人びて見えるようになったし、俺もおしゃれに気を使うようになったので、なかなかの好青年に育ったと思う。
…お察しの通り今でも明梨との付き合いは続いている。
ちなみに空手も続けていて、俺は未だに明梨に組み手で倒されたことがない。…と言うより、師匠から同年代どころか大人に混ざっても強い方だと言われた、俺が強すぎるんだろう。ふはは!
まぁ結局、"もっと大事なもの"って奴は教えて貰えなかったけど。
「ねぇ、優生!私、今日スイーツ食べたいな!あのコンビニチェーン店で新作のパフェが出たんだって!」
「えぇー、俺そんなに甘いもの好きじゃないんだけど?」
「良いじゃん!二人で半分こすればすぐなくなるよ!」
「んー、しょうがないなぁ」
「やった!!大好き、優生!!!」
明梨が飛び付いてくる。こういうところで明梨は全く遠慮がない。…もちろんちゃんと受け止めるけど。
なんだかんだ明梨のお願いを断れないのは幼馴染み故なのだろうか?それとも…
*
「それでさぁ、優生。昨日も告白されちゃって大変なんだよね。好きになって貰えるのは嬉しいんだけど、全く知らない人からいきなり告白されても流石に頷けないし、下手に断ったら角が立つしさぁー」
「俺は告白とかされたことないから、羨ましいって思っちゃうけど、意外とモテるのも大変なんだな」
明梨はモテる。これ以上無いくらいにモテる。…だけど誰とも付き合った事がないらしい。
俺としても幼馴染みだから距離は近いが、明梨に彼氏が出来たらどう思うんだろう?…寂しく思ったりするんだろうな。
「はぁー、普段から仲が良くて、かっこ良くて、その上私ほどじゃないけど強い男の子が告白してくれないかなぁ?そしたら付き合っちゃうんだけどなぁ?」
「俺は明梨より強いから違うのかぁ。残念だなぁ」
「…この鈍感」
「ん?なんか言ったか?」
顔には出さないが、明梨の付き合っちゃう発言に少しドキッとした。そのせいで話が頭に入ってこなかったのは内緒だ。
「それよりも、明梨。新作パフェってこれじゃない?」
「そう!それそれ!!ってラスト1個じゃん!ラッキーだね!」
「動くな!!!強盗だ!!!」
…………っえ?
「このガキをぶっ殺されたくなければ今すぐ金を寄越せ!!!」
「うえぇぇぇん!おかあさーーん!!助けてー!!」
…平和な日常には似合わない声が聞こえて来た。
ふと振り向くと、入り口の所で覆面を被った男が小さな女の子に銃を突き付けていた。
…それは偶然にも俺が見たことある光景だった。
…もう消えかけていた、苦い記憶が蘇って来た。
…あの時と同じだ。俺が一度死んだ日、その時と情景が酷似していた。
…変な汗が頬を垂れる。
「…はぁっ、大丈夫!俺はあの時とは違う!大丈夫!俺は強くなった!」
「…大丈夫!犯人は一人!銃を持っていても俺が囮になれば明梨が取り押さえてくれるはずだ!」
「…大丈夫!あの子が暴れてるから犯人はこっちを見ていない!今がチャンスなんだ!俺が移動して注意を引けば明梨が後ろを取れる!」
「…分かってる、分かってるのに!」
「どうして俺の足は動かないんだ!!!」
簡単だ。怖いんだ。恐れているんだ。
確かに俺は強くなった。
今世で頑張った空手も師匠からのお墨付きを貰ったし、前世とは比べ物にならないくらいまともな人生を歩めた筈だ。
…でも所詮、俺は俺でしかなかった。
…内気で、弱気で、軟弱で、臆病で、不甲斐なくて、意気地がない俺でしか無かったんだ。
目の前に怯えて泣く子どもがいたとしても、恐怖に取り付かれて動けないような、それどころか人質が自分じゃなくて、心のどこかでホッとしているような、醜い俺が居る。
…結局人はいくら努力しても、いくら環境が変わっても、いくら表面上は良くなっても、本質は変わらないらしい。
…そりゃそうだよな。簡単な事だ。一度形成された自分なんて物は、人生をやり直したって変わらない。
…馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言うが、俺は死んでも治らないみたいだ。
…例え転生しても、俺は俺。それ以上でも、それ以下でもない。
あの時から何も変わっていない。どんなに努力してきても、目の前の女の子ひとり救おうとしない。
それが俺なんだ。
…あぁ、こんな事なら初めから転生なんてしたくなかった。
…ちゃんと正しく生まれ変わって、新しい自分になりたかった。
…記憶を失くして、性格も消して、全てがリセットされた別人になりたかった。
…俺じゃない、俺になりたかった…
「その子を離しなさい!」
…?
「人質なら私がなります。だからその子を解放しなさい」
…明梨?
「赤ん坊より私の方がおとなしくしていられますよ」
…どうして?
「どうですか?貴方にもメリットがあるんじゃないですか?」
…君は
「実際に今困っているようですしね」
…怖くないのか?
「ほら、武器も道具も、何も持っていませんよ」
…恐ろしくないのか?
「っそこの女!!!両手を上に上げてゆっくりこっちに来い!そうだゆっくりだぞ!そのままゆっくり進むんだ!」
…明梨、駄目だ!危険だ!頼む、行かないでくれ!
そんな臆病者の願いとは裏腹に、明梨はゆっくりと歩を進める。
「よし!そこで止まれ!!!ほら、クソガキどっか行け!!!人質交代だ!!」
…そして明梨が人質になった。
…落ち着け、よく考えろ。明梨は空手に精通している。俺を除けば同年代でもトップクラスに強いはずだ。
…それに、空手は至近距離で一気に倒す技もたくさんあるじゃないか。
…むしろあの距離なら明梨の土俵じゃないか。
…そうだ…きっと大丈夫…大丈夫なはずだ。
…今も犯人のお腹に狙いを付けて、
「はあぁぁっっっっ!!!」
…そして犯人は吹き飛んだ。
…明梨の蹴りは完璧だった。間違いなく犯人の意識を刈り取る攻撃だった。
…だが犯人は立っていた。
思いの外、成人男性と女子高生の体格差は大きく、直前に犯人の暴れが通って体勢が崩れてしまったんだ。
「っっ!このクソアマ!!ぶっ殺してやる!!」
っ危ない!!!
「…っ!」
…そして乾いた音が響き渡った。
…明梨が肩から血を流していた。
…明梨が撃たれた。
…明梨が撃たれた。
…明梨が…撃たれた?
…
…俺は一体何をしているんだ?
…明梨が一人で立ち向かったのに、
…俺は後ろで見ていただけ?
…何の為に強くなったんだ?
…敵が来た時に撃退する為?
…違うだろ!
…昔はそうだったけど今は違うはずだろ!!
…楽しかったからだろ!!!
…明梨と、一緒に競い合うのが楽しかったからだろ!!!!
…明梨を、大切な人を、守りたかったんじゃ無いのかよ!!!!!
ここで動けないで何が明梨より強いだ!明梨の方がずっと強いじゃないか!
ここで動かなかったら何で転生してきたんだよ!!
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!死ねクソやろう!!!!」
…きっとこの時、俺の中の俺は死んだ。
「なんだテメェ!!!死ね!!!」
…銃声が響く。
…右肩が撃たれた。
…左手も撃たれた。
…左足も撃たれた。
…右脇も撃たれた。
…撃たれた。
…撃たれた。
…撃たれた。
…撃たれた。
「それでも、それでも!!明梨が苦しむ方が、何万倍も辛いんだよ!!!!!!」
…そして俺は、犯人を力の限り殴った。
空手の型なんてなくて、綺麗な立ち回りでもなくて、ただの振りかぶった拳だったけど、今までで一番強い拳だった。
…やっと、俺は師匠の言葉通り、強くなれたんだと思う。
「…ねぇ…優生!大丈夫!?死んじゃダメだよ優生!!生きて…生きてよ!生きてよ!!」
…意識が朦朧とする中、明梨の声が聞こえてくる。傷口が広がっちゃうから動いちゃダメじゃないか。
…でも、少し嬉しく思っている俺もやっぱりダメなんだろうな。
「あ…かり……、おれ…も…つよく…なれた…だろう…か…」
「優生は強いよ!!私なんかよりずっと強くなったよ!!だから死なないで!!!優生!!!!!」
「よか…った…。…あかり、 」
…そこで俺の意識は途絶えた。
「…知らない天井だ」
「優生!!目が覚めたの!!?」
まさかこんなテンプレな台詞を言う機会が訪れるとは思わなかったな。
ボーッとして頭がズキズキとしていたが、次第に視界がはっきりとしてきた。
「明梨?どうしたの?…ってそうだ!!!怪我は大丈夫!?犯人は!?あの後どうなった!?」
「ちょ、ちょっと待って、落ち着いて優生!ゆっくり話すから」
明梨の説明によると、あの後犯人は殴られたショックで気絶していたらしい。その後、警察が来て犯人は逮捕。死者は出なかったが、どうやら十数年前にもコンビニ強盗をしていて、当分刑務所暮らしらしい。
そして俺は病院に搬送された後、一週間眠り続けていたらしい。
その間ずっと明梨が病室にいてくれたのだと。
「そうだったのか。明梨、わざわざずっとそばに居てくれなくても良かったのに。嬉しいんだけどさ。」
「…だって、優生が起きたらあの時の言葉、真っ先に返事がしたかったんだもん。優生、私も…優生の事が…………
―数年後―
「優生ー、お弁当忘れてるよ!」
「あぁ、ごめんごめん。ありがとう!」
「今日も晩御飯作って帰り待ってるからね!早く帰って来てよ!」
「もちろん!一瞬で帰って来るよ!その子も待ってくれてるだろうからね。それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
…俺はどうやら、あの日の最期の願いを叶えられたらしい。