差出人のない手紙
六時間目の授業がやっと終わり、一日はこんなに長いものなのかと僕は背筋を伸ばしていた。
「あぁ疲れた……」
そこに知哉が近付いて来て、僕に話しかけてきた。
「遼介、なんか前より明るくなってない? 笑顔が増えたっていうか……」
「え?」
知哉に言われるまで、僕はあまりそのことを意識していなかった。
けど言われてみて、思い当たる節はあった。
「そうかな? もしそうなら、知哉たちのおかげかもしれないね」
僕は、少し前までの僕にはできなかった笑顔で答えた。
「本当か!」
僕の答えに、知哉は純粋に喜んでくれた。
その知哉の喜びに、どこか僕も嬉しくなっていた。
ホームルームも終わり、僕は帰宅しようといつものように自分の下駄箱を開けた。
「あれ……」
(何だろう、これ……)
下駄箱の中には僕の靴と、その靴の上に一通の手紙が入っていた。
僕がその手紙を手に取ると、
手紙の封筒には、<ダリアへ・私より>
と書いてあった。
それが何の手紙なのか。心当たりもなく……
しばらく手紙を手に考えていると、まだ帰宅していなかった知哉が下駄箱の前で立ち止まったままの僕を見兼ねて近付いてきた。
「どうした?」
「え?あ、うん。大丈夫」
このことを知哉に相談するべきだったかもしれないが、知哉には既にたくさんの迷惑を掛けている……
そんな知哉に僕はこれ以上の心配事を増やしたくはなかった。
だから近付いて来た知哉を前に、僕は咄嗟にその手紙をカバンに隠していた。
その手紙が何だったのか。
僕は家に帰って部屋で一人、持ち帰ったその手紙を読もうと手紙の封を開けた。
<ダリアへ
元気ですか?
最近学校で見かけなかったので少し心配になってしまい、本当は私の番じゃないのにまた私から手紙を出してしまいました。
私の方は以前と変わらず、何ともない日々のままです。
でももしここにダリアがいたらどんな日々になるのだろうと、いろんな想像を膨らませています。
ダリアはいつも私の予想を裏切る行動をするでしょ?
私はそれに驚きつつも、今思い返せば楽しい思い出ばかりです。
次はどんな予想を裏切られるのか、楽しみにしています。
私より>
手紙を読み終わり、この手紙がどういう意味なのか……どういう意味があるのか……
記憶を無くした僕には理解することができなかった。
でも手書きで書かれた手紙の字はどこか優しく、温かさを感じた。
誰から届いたか分からない手紙。それでも僕にとってはどこか心地の良い手紙だった。
ダリアというのが本当に僕のことを指しているのか。
それに対しても確証は持てなかったけど、記憶が戻ったらこの手紙に関係することも思い出せるのかもしれない。
そう思い、とりあえず記憶の戻っていない今は机の引き出しにそっと閉まっておくことにした。