新たな学校での日々
登校二日目。途中登校だった昨日とは違い、今日は他の人たちと同じように朝から登校していた。
昨日は少人数だったはずの電車も、今日は満員電車と化している。
騒がしい車内の中、僕は昨日の母の言葉と共に窓の外を眺めていた。
窓の外に広がる景色は、昨日までの憂鬱な色から少し鮮やかな色へと変わっているように見えた。
教室へ着くと知哉の姿が見えて、なぜかその姿が見えたことで少しホッとする自分がいた。
知哉は僕が教室に着くと、すぐに僕の存在に気付いてくれた。
「おっ遼介。おはよう」
「おはよう」
三人のうち一緒にいた二人のメンバーを残し、知哉は一人抜け出して僕の席へと来てくれた。
「クラスの人とか覚えれたか?」
「ううん、まだかな……」
「そっか。なら説明してやるよ」
気合ありげに知哉は腕まくりをしながら言った。
そのまま僕の肩に腕を置き、説明を始めた。
「いいか。まず今、俺と話していた二人が一ノ瀬篤志と若槻洋貴だ。
俺とは高一の頃から一緒のクラスで、このクラスになってからは遼介も合わせた四人で一緒にいることが多いな。いわゆるいつメンってやつ」
知哉はさっきまで自分がいた席を指差して僕に話した。
「あの二人にも記憶損傷のことは伝えてあるし、普通に良い奴らだから。
何かあったら俺以外にも、あの二人にも頼っていいからな」
「うん、分かった」
「それからロッカー前にいるのが、この前見舞いにも来てくれた遠坂日菜」
知哉は少し右側に視線をずらし、ロッカー前を指差して言った。
「日菜も学校内では、遼介に負けず劣らずで目立つ存在って感じだな」
「え……
僕ってそんなに目立ってたの?」
「まぁな。
日菜の目立ち方とは違うけど、いい意味で目立ってはいたな」
「いい意味?」
「日菜は見た目とか、性格人気ってやつだけど。遼介は成績優秀系っていうの?
入学試験で一位取って、入学直後の体育祭でもMVP取ってたからな。
あのときは結構目立ってたし、それが今でも残ってるって感じだな」
「そう、なんだ……」
(そんなに目立ってたなら、友達とかも多かったのかな……
いろんな人に話しかけられたらどうしよう……
そうなったら、僕の記憶損傷もすぐにバレるかも……)
知哉の話を聞いて、内心少し焦りを感じた。
「まぁあんまし気にしなくていいと思うぞ」
「え?」
知哉は落ち着いたように言った。
「遼介は、確かに人気者ではあったけど。その、なんていうか……
人気者キャラではなかったからな。」
「どういうこと……?」
「昔から人付き合いが苦手で、望まないままに人気者になったって感じで。
ある意味俺はそういうとこが好きなんだけど。
今の遼介に記憶が戻ったとこで、もともと人との関わりは少ない方だったから……
それなりにはバレないと思うぜ」
「そっか……」
「あ、ごめん。傷ついた?」
下を向きながら納得していた僕を、知哉は気にしていた。
「全然。
安心したよ、良かったって」
僕がそう言うと、知哉も安心して笑顔になった。
「でも一つ心配なのは……」
知哉は続けて少し重い雰囲気で話し始めた。
「遼介が登校するまでの数日の間に遼介と日菜が付き合ってるって噂がどっからかすぐに広まって、今はそのこと知らない人の方が少ないかもな……
何せ人気者の二人が付き合ってることは、この学校のビックニュースだからな。
それをきっかけに変なトラブルに巻き込まれねぇといいんだけどさ」
知哉は噂による僕への影響を心配してくれていた。
「まぁ何かあったら日菜にも俺にも、ちゃんと頼れよ」
「うん、ありがとう」
知哉と話をしていた時、不意に話に出ていた日菜の方を見ていた。
日菜もそれを察知したのか、僕は日菜と目が合ってしまった。
「ねぇ、何の話?」
気になった日菜は近寄って聞いてきた。
「お前の話だよ」
知哉が少し呆れたような口調で答えた。
「え! ほんとに?」
「うん、ほんとだよ」
それでも嬉しそうに聞いてくる日菜に、今度は僕が答えた。
そして二人が揃ったのをきっかけに、僕は心に決めていたことを話した。
「僕は早く記憶を取り戻して、知哉も日菜も、みんなのことをちゃんと思い出したい。
だから二人とも、頼りにしているよ」
「おう、任せとけ」「私も」
真っ直ぐな気持ちを僕は今日、二人に伝えることができた。