86 沼九頭蛇
龍雄は一人前進していた。
現在の龍雄の能力と柚恵たちとでは実力差があるために、先に進むことにしたのである。
異界と同化した地域は沼地域には奇妙な卵のような岩があった。
「アレは…シンさん」
――スワンプ・リーチの卵――
――体長1メートルのヒルが生まれます――
――この沼に生息するモンスターの主食です。割れるときに瘴気が発生します――
「潰さないほうがいいですね」
――是――
――瘴気は【十毒不侵】がある主には効果は薄いですが、浴びない方がいいです――
「そうですね。しかし、先行してよかった。この領域は、毒性が強いですから、耐性がない人だと、大変なことになってしまいます」
奥へ奥へと進むたびに、徐々に足元が、沼へとなっていた。そして、そこには、九つの頭がある一匹の巨大な魔物がいた。
「あのモンスターはヒドラ。いえ、ちがいますね」
――是――
――スワンプヒドラ――
――戦闘力『16421』――
――全長41メートル――
――天武クエスト――
――水克火毒『九頭蛇の毒牙』の獲得――
「…両国の国技館なみの大きさですよね。気を引き締めていかないといけませんね」
そういって、手には『白虎牌』に握られている。
『おい、主。白虎はやめときな』
「鵬天。珍しいですね。話しかけてくるなんて」
『ちっ。死なれたらオレも困るんでな。それよりもアイツの属性は水と土と陰だ。金気の白虎は相性が最悪だぜ』
「なら、こちらですね」
そういって『青龍牌』を握りなおす。
「『武着・青龍』」
――青! 青! 青!――
――GO! 青! 龍!――
――モード・青龍――
「『青龍槍』」
槍を構えると歩法【天猛兵林】で苦も無く沼地を翔ける。
迫る龍雄に気が付いたスワンプヒドラは首を三つ向けると大きく口を開くと魔法陣が浮かび上がる。
『『『【ブラッグ・フォッグ】』』』
黒い霧が立ち込める。
「【風功・旋風障壁】」
風の壁で黒い霧を吹き飛ばす。
――正――
――触れていたら毒を受けていたでしょう――
「魔法まで使ってくるとは中位のドラゴンで間違いないですね。通常のヒドラだと、再生能力くらいですし…」
距離を詰めるが、近づく程に巨大さを感じる。しかし、その大きさに驚いている暇を与えるほどスワンプヒドラは、ぬるいモンスターではなく、既に頭が3つ龍雄に迫っていた。
「【伏柢芽天】」
最初に噛みつこうとしてきた牙を絡めるように柄でいなし、牙の根元を石突で強打しヒビをいれ、更にそのまま一歩踏み込み、二番目の右眼球に、槍を突き刺し、頭を踏み台にして三番目の突進を躱す。
だが、躱した突進ですら、ひりつくような衝撃をうけ、スワンプヒドラの一撃一撃は、致命傷になりかねない。と気を引き締めつつ槍を握る手に力を籠める。
『『『スワンプ・プロテクション』』』
スワンプヒドラが唱えた呪文に、全身に泥の鎧を身に纏う。
「ならばこちらも【雷功撃】」
【雷功撃】は武器などに雷を纏わせる武功。カンナ曰く「天武神帝のお使いになる【天武神功】の基礎中の基礎」として身に着けさせられたのである。
とはいえ、泥の鎧が電撃を拡散させ、斬撃も打撃も無効にしてしまう。
「どうしますかね……」
『ちっ主、力を貸してやるから、オレを10秒程度、顕現させろ』
「しかたありません【武魂顕現】」
――キュィィィィィィィィィィ――
炎の鳥が顕現する。
『クックックッ。懐かしい姿じゃねぇか。なぁ、小僧』
「時間がないのですから手早くしてください」
『カッカッカッ! あの時とはずいぶん口調が違うじゃねぇか。まぁいい今は、まだてめぇの武魂だ! 力を貸してやる。オレは約束は守る性質なんでな! 【混天天翔】』
黒い炎が巻き起こり、スワンプヒドラを包み込む。
『獄炎の炎で焼かれな!』
スワンプヒドラを包んでいた泥が焼け、乾き落ちていく。
「【雷功連理】」
泥の鎧が剥げ落ちていく。
「【雷功百花乱墜】」
雷の刃が、スワンプヒドラ鱗を削り、身を切り裂いていく。だが
『『『【リジェネレイト】』』』
スワンプヒドラの傷がどんどん治っていく。
「くっ。生半可な攻撃ではだめですか……なら急所を貫くしか」
――【金火神眼】なら可能です――
「【金火神眼】」
金色の輝きが瞳に燃え上がり、スワンプヒドラの首の根元にある中心核を見通す。
『主よぉ。『朱雀牌』に着けな』
「すぅ…【運気調息】。全門開放!」
――了解――
――【金霊門・天璇 開門】――
――【火霊門・天璣 開門】――
――【風霊門・天権 開門】――
――【水霊門・天枢 開門】――
――【虚空霊門・玉衡 開門】――
――【意霊門・開陽 開門】――
――六門開放・30秒が活動限界です――
龍雄の全身からエネルギーが放たれる。
「全力全開【雷功・迎暴流虞】さらに【落月地昇】」
スワンプヒドラの首の付け根。目掛けて槍を放つ。大気を砕き炎と雷を纏った龍がスワンプヒドラを穿ち、残ったのは大きな風穴があいたスワンプヒドラの巨大な体躯だけだった。
「なんとか……なりましたね……けど、これはちょっと……力を使い過ぎましたか……六門開放……は」
そういって、龍雄は倒れて意識を手放した。
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