84 愛中水池
『龍天武院』の宿舎・女子部屋にて――
「はぁ……」
薬師寺柚恵は、枕を抱きしめながら大きなため息を吐いた。
「柚恵ちゃんなに落ち込んでるの?」
寝間着姿の二人はベッドに腰かけ向かい合っていた。
「うぅぅ……男の人とどうやって喋ればいいんでしょう」
涙目である。この薬師寺柚恵。錬丹術と薬学においてはまごう事なき稀代の天才。が、それ以外は、ほぼポンコツである。
「どうって……うぅん? 普通に、こう気楽に友達感覚かナ」
「……友達……はっ! 私、友達て思い浮かばないです……そういえば、携帯も仕事以外からかかってきませんし……」
「どんまい。けど、あぁしとは普通に話せてるぅよぉ?」
「うぅぅ……プライベートとなると緊張してしまって……年上なのに、少しでも大人の魅力でリードしようと思ったのですが……」
なれない事をしようとしての空回りである。
「へぇ……あぁぁ……そ、そういえばぁ……柚恵ちゃんは知らないだっけぇ……」
「なに…をでしょうか?」
「龍雄さん年上だよ? へんろかんどお? だったかな? そんな感じので若返ったけど……最初あったときはでっぷりとした、人のいいおじさんだったしぃ」
「えぇぇぇぇ」
衝撃の事実である。
「じゃぁ、出会った三ヶ月前の話をするねぇ」
三ヵ月前の出来事を語り始める。朱里。それをきいた柚恵はというと……
「たつおしゃんしゅてき」
何かが振り切った。
「かわいいぃなぁこの人ぉ…よし! あぁしにまかせてぇ」
そういって、おもむろに携帯電話を取り出しかける。
「あ、あの朱里ちゃん?」
「ふっふっふっ決戦は週末だしぃ!」
――∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬――
8月も半ばですが、まだまだ暑いです。
そんな中、朱里さんの提案でブールにきました。なんでもマリリンさんがプールのタダ券をもらったけど余っているからと貰ったそうです。
ついでにと、真守くんと菜桜さんも
プールなんて何年ぶりですかね? 最後に来たのは20年くらい前だった気が……
それにしても人の視線が集まってますね。やはり燕慈くんはモテモテですね。それに真守くんと並ぶと圧巻です。
「おまたせぇなのっ」
男性の視線が一気に……なるほど。朱里さんのヒョウ柄のビキニにデニムのショートパンツの水着はほどよい褐色の肌と相まってエキゾチックな魅力があります。
「えっと……燕慈さんどうでしょうか?」
菜桜さんは花柄のレースがあしらわれた肩フリルがある水着ですね。清楚な雰囲気とよく合ってます。
「お、おう。よく似合ってるとおもうゼ」
「そうですか」
ちょっと声が裏返ってますが、花の咲いたような笑顔ですね。菜桜さん。美男美女のカップルでなかなにお似合いですね。これでまだ付き合ってないそうなのですから不思議です。
「あ、あの……どうでしょうか」
女神がいました。
女神です。
間違いありません。
誰がなんと言おうと女神です。
とっても似合ってます。柚恵さん。白のワンピースの水着姿……いけません。邪な目で見てはいけません。彼女は門弟です。
「年甲斐もなかったでしょうか?」
いえ、そんなことはありません。
とても魅力的だと思います。
「エヘヘヘ。そうですか」
あぁ、可愛すぎます。思わず抱きしめたくなります。てっ、何を考えてるんですかわたし。年を考えないと……
けど、視線が外せません。なんども目が合って……
ぐっ……こ、こういう時はどうすればいいのでしょうか?
――告――
――このような場合は男性がリードすべきかと愚考します――
おぉ、ありがとうございます。シスさん!
プールはイベントの宝庫でした。
流れるプールで流れに身を任せるのは、癒されましたし。
50メートルブールで、覚醒者向けのイベントとして、浮かんだ発泡スチロールを駆け抜ける催しにも参加して、イルカのぬいぐるみをいただきました。
「……なんかぁ。超二人の世界だしぃ……」
「であるな」
「菜桜っちもそう思うよね? 菜桜っち?」
「燕慈殿とあちら、向き合ってジュースを飲んでるであります」
「ぐっ……ラブい空間があっちにも」
今日はいい一日でした。来て良かったですね。今度は二人きりで……だから、何を考えてるんですかわたしは!
――ビィビィビィ
ポータルブレイク警報。ポータルブレイク警報。
覚醒者は速やかに、指定の場所に集合してください。
繰り返します。
ポータルブレイク警報。ポータルブレイク警報。
覚醒者は速やかに、指定の場所に集合してください。
これは訓練ではありません。――
いい一日で終われると思ったのですが……まさかポータルブレイクが発生するとは思いもしませんでしたね。
評価や感想、ご意見など時間がありましたらどうかお願いいたします。




