78 狂魔凶戦◆
闘場――
多くの熱気とも狂気ともいえる雰囲気を孕んだその場所に、厄雲は、武台楽しそうに笑っていた。
「いいねぇ。いいねぇ」
簡素な観客席と豪華な観客席とわかれているが、厄雲にとってはよく知っている作り。裏の闘技場ではよくある作りに安堵し、さらにいえば、ここが血魔教のバカンスというのも納得がいく。
「待たせたな」
そういって武台には、弓をもった褐色の肌に赤い髪、厄雲よりも長身の柘植弓矢が姿を現した。
「弓矢だから弓矢もってくるとか笑えるじょうだんか?」
「違うな。俺に名はなかった。まわりがそう呼び出してから、俺は柘植弓矢になった」
そう言いながら矢をつがえる。
「ふぅん。ちなみにその前はなんて呼ばれていたんだ?」
緊張が高まり、それが頂点にたっした瞬間――
「カの38号だ」
その言葉とともに矢を放ちそれが戦いの合図になった。
闘場の武台は30mとテニスコートは二つ分ほどの広さと十分に広い。対角線にいたっては42m。弓という武器を有効に使うには十二分な広さがある。
「とれぇ」
だが、放たれた矢を見切ることは、覚醒者にとっては、容易い。そもそも探検者が飛び道具を使用しないのは、多くの理由がある。
まず継戦能力。長い道のりとなるダンジョンで、消耗が激しい飛び道具は好まれず、それなら魔法の方が使い勝手がいい。
次に、攻撃速度。Cランク程度までならまだ有効になるがBランクまでになると、躱すものや矢が刺さらないなどの難敵が多くなる。
これに加えて、飛び道具を扱うスキルは複数習得しなければならない。スキルの習得数が増えるほどに成長は遅くなる。成長すると派生が増える武功スキルでもない限りは使おうとするものは少ない。
つまり、柘植は……
「それはどうかな! 【火速】」
矢が加速する。
「【斬糸】」
糸で矢を砕く。
「今のはあいさつ代わりだ。俺のこの弓『一身双弓』と【火弓身功】とくと味わうがいい」
軽快にステップで距離をとりながら、弓を構える。いつのまにか柘植の弓は二つに分かれていた。
「ほら、こいつはどうだ? 【火雨散火】」
「ちっ、矢を作ってるのは【クリエイトアロー】とかのスキルか? めんどくせぇな」
厄雲の『糸』は木属性の技。それに対して柘植の【火雨散火】は金と火の複合属性と相性最悪。そんなことを知らない厄雲は糸で防ごうにも不利に追い詰められる。
「あぁぁくそがぁ、弓なんぞ使いやがって!」
「まぁ、入りたてのお前には悪いが、これも実力だ。武器を用意できなかったお前のな!」
防戦一方へと追い詰められる厄雲。
「腕一本で許してやるよ! 【火霊撃】」
爆発的な加速で矢が迫る。
「なめんじゃねぇぇぇぇ」
口に手を突っ込むと、いっきに蛇骨刀を引き抜き、矢を叩き潰した。
「なっ!?」
「じゃ、いくぜ!」
伸縮自在の蛇骨刀。鞭のようにしなり、鉈と鉞の特性を併せ持つ厄雲お気に入りの逸品である。
「【目迷五重】」
独特の動きが五つの残像を残して幻惑する。
「くっ、残像を複数だと」
狙いが定まらずに、僅かな迷いが間合いを詰められるきっかけになる。
飛び道具が好まれないのは、どうしても動作に遅れが生じた場合、間合いの優位性が崩れてしまう。
柘植も当然、間合いの取り方には注意を払っていた。
「そらっ【七擒七重】」
「のわっ」
空へと投げ飛ばした。
「【四重八苦】」
四肢を切り落とす。
もはや柘植の顔には絶望しかない。
「こいつで終いだ! 【八重餓鬼】」
完全に体に巻き付きそのまま、削り潰し、残ったのは絶望と苦悶に顔をゆがめた柘植の頭部だけだったが、それを踏み潰し厄雲は武台から降りるのであった。
評価や感想、ご意見など時間がありましたらどうかお願いいたします。




