76 狂蜘凶修◆
浅田厄雲が案内された先は、深い谷に囲まれた平地に、簡素な屋根と中央の台座に水晶が置かれていた。
「なんだこりゃ」
「そちらの水晶に手を当ててください」
そういいながら、手を当てると床が下り始める。
「ふむ。三ですか」
「なんか文句あるのか?」
「いえ、三獄『衆合地獄』からとは、素晴らしき素質と思いまして。それでは説明しますが、ここではポイントが全てです。ポイントは基本的に闘場で獲得ができます。そのポイントで修練場やアイテムなどを手に入れることができます。むろん深い階層ほどよいアイテムが入手できますよ」
「それだけか?」
「あとは、ありませんね。何もね。この中はポータル内、いかなることも自己責任。弱者が死のうがどうなろうが関係ありません」
「いいねぇ。つまりだ。どんだけ殺しても?」
「構いませんよ。殺されるならその程度ですから」
「そうかよ!」
厄雲そういって『糸』を放ち、案内人を拘束する。
「これは?」
「なぁにちょっとしたお礼をしようと思ってな」
そういって糸を引こうとするが、突如糸が燃え出す。
「クスクス。素晴らしいですね。フウ様が気に入るはずです。申し遅れました。わたしは『火丑』十二死の末席にいるものでございます。あなた様の活躍を期待しますよ」
「本当に飽きさせないな」
三と大きく書かれた門の前で床が止まる。
「この先に別の案内人がおりますので、そちらが部屋に案内します」
「へいへい」
横柄に扉をくぐるのを見届けた火丑は覆面の下でニヤリと笑い。
「素晴らしいですね。最近はここも温くなっていましたから、いいことです」
満足そうに姿を消した。
代わりの案内人に闘場、食堂や修練場、アイテムの交換所の行き方を説明されながら、機嫌よく案内されながら、厄雲は頭の後ろに腕を組みながら、付いていき、最後に案内されたのは宿舎だった。
「ここがお部屋になります」
それだけ言い残し案内人は立ち去ったが、厄雲は気にすることなく大きい扉をあけた。
そこは粗末な部屋だった。
広さはそれなりだが、カーテンによるしきりと簡素な棚の九人部屋。一番奥にだけ少し質の良い布団が置かれており、入ってきた厄雲に八人の視線が向き、入り口に一番近かった細身のモヒカンの男が馴れ馴れしく肩に肘を乗せる。
「よう、新入り。ここでのルールを教えてやるよ」
「くせぇ息ふきかけてんじゃねぇよ!」
そういって、右手で男の口をごと鷲掴みにするとそのまま地面に叩きつけた。
「「「「なっ!?」」」」
他七人があっけに取られている中、厄雲は止まらない。
「なに舐めた口きいてんだぁ? あぁん?」
何度も地面に後頭部を打ち付ける。引きはがそうと両手で厄雲の右手を掴んでいた男だったが、その手も離れだらんとしている。
「邪魔」
そういって男を部屋の外へと投げ飛ばすと、グチャリと肉が潰れる音が背後で聞こえたが厄雲は気にすることはなかった。
「なんで俺の部屋に勝手に入ってきてんだ?」
「てめぇ、ここは9人部屋だぞ! 新人の癖になめた真似してんじゃねぇ」
厄雲は長身だ。190㎝はあるそんな厄雲よりも巨漢であり見るからに筋骨隆々な男が右拳で殴り掛かってくる。
だが、それを左手一本で受け止めと捻る上げると、鈍い嫌な音を立て男が悲鳴を上げるよりも早く、左手を引き、左ハイキックで男の右肘を蹴り砕き、勢いそのままに側頭部蹴り飛ばすと同時に左手を放すと壁へと顔面から突っ込んでいった。
「てめぇらのせいで俺の部屋がよごれたじゃねぇか!」
完全な言いがかりであるが、お構いなしに近くにいた男の鳩尾に膝蹴りを数発叩きむ。虚を完全につかれ無防備に受けた男は嘔吐しそうになるがゴキリと嫌な音を最期にこと切れた。
厄雲が張著なく首をへし折ったためである。
三人。ほんの僅かな時間に三人を躊躇なく殺す。全員が戦慄する。ここがどんな場所かは本人たちも分かっている。
暴力のワンダーランド。
そんな世界でも最低限の秩序はあった。だが、この男はそれを躊躇なく蹂躙した。
「このぉ!」
殴り掛かった男の足を払い浮いた体でアッパーカットで強引に更に浮かすとそのまま踵落としで地面に叩き落として、四人目。
蹴りかかったて来た男の膝を蹴りくだいて五人目が地に伏した。
六人目と七人目は挟み撃ちにしようとしたが頭を掴まれそのまま何度も打ち付けられて失神した。
「たく派手にやるじゃねぇか新入り。だがちぃいとはしゃぎ過ぎたな」
部屋主はスキンヘッドで、巨漢の肥満体の大男立ち上がろうとするが、その顔面にヤクザキックをお見舞いする。
「いい蹴りだなぁっ」
鼻血を流しながらも足を掴むと、そのまま無造作に天井へと投げた。
「雑魚よりはましか、河豚」
「てめぇぶち殺す!」
厄雲は知らなかったであろうが、この部屋主は昔、酒の席でそういってからかわれて、逆上し仲間を殺してここに流れ着いたという経緯がある。
だが、そんなことはお構いなし。少しは楽しめそうな相手に厄雲は舌なめずりを始める。
「おいおい、殺すとか物騒じゃないか、そんな言葉を使うくらいなら」
天井を蹴り肘打ちを鳩尾に叩き込む。だか部屋主はびくともせずに、そのまま抱き着いてくる。
「男に抱き着かれる趣味はねぇよ!」
まるでワイヤーアクションのように体を空中で回転させ両肘の内側を蹴り、そのまま部屋の入口まで飛び退く。
「くっくっくっ。はっはっはっはっ、最高だぜ。まさかこんな面白いとは思わなかったぜ。雑魚は雑魚だが、それなりに喰いごたえはありそうだ」
ノーモーションからの急加速。タネは厄雲が見えない『糸』をくっつけて置いただけなのだが、厄雲の能力を知らなければ反応できないだろう。
厄雲に正々堂々などという概念はない。いや、ある意味で正々堂々,自分の持てる力を発揮する。だまし討ちもだろうと不意打ちだろうと、弱かろうと強かろうと、敵と認識したからには排除する。それだけである。
勢いのまま背後をとるとそのまま、背中を蹴飛ばされた部屋主は四つん這いになた所を、腰目掛けて踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く、踏み抜く。
何度も何度も容赦なく。
「今日からここは俺の城だ」
そういって、巨漢を片手で持ち上げると入口へと投げ飛ばす。
グシャグシャ――
鈍いく引き潰される音とともに元・部屋主は細切れになって部屋の外に落ち、入口には赤く染まった無数の糸が張り巡らされていたのであった。
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