56 餓狼血戦
ぶつかり合う、拳と拳。
それが開幕の合図となった。
「【魔狼歩功・諸神黄昏】」
高速で駈け、さらに加速させながら、龍雄を連続で殴りつける。
「ぐっ……歩法【武星流歩】」
龍雄は、なんとか歩法で致命傷を避ける。
その様子を、影から見つめる視線があった。
――流石というべきかな? ホアンとしては、計画が潰されてお怒りだねぇ~――
見つめているのは、フウの使い魔『陰影眼』。影に潜み視覚を共有する。ただそれだけの能力である。
――さてと、どうするのかなタツオ。ホアンの【魔狼血神功】に勝てるかな?――
ホアンの加速は止まらない。速度はついには残像が残るほどの速度まで達する。
「かなりの時間をかけたネ。これも全てはあのお方のタメに」
完全な八つ当たり。嬲り続ける。
「【龍牙震脚】」
起死回生の一発。全方位への衝撃の牙がホアンに当たるが、その傷が瞬間で治った。
「我が【魔狼血神功】の前には、その程度無意味!」
「百も承知です!【飛翔龍尾脚】」
跳び後回し蹴りを叩き込む。
「【魔狼関】」
その回し蹴りを真正面から受け止め、そのままはじき返し、バランスを崩して地面に手をつく。
「【群狼連撃】」
「はぁぁぁぁ【双龍爪斬】」
足を止めての乱打の打ち合い、金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
「【神喰】」
左のショートアッパーからの、右からの振り下ろしのコンビネーションブローが炸裂する。
「ぐあぁぁ……」
龍雄は吹き飛び壁に激突。さらに追撃とホアンの乱打が叩き込まれる。
「死ネ。死ネ。死ネ」
「ハぁハぁ……【昇龍脚】」
ホアンを蹴り上げる。
「そんなもの効かないネ」
だが、しっかりとガードされてしまう。
「【昇竜連脚】」
それでも龍雄は止まらない。
「ムダね! あきらめろ!」
――ホアン……それは無理だね。目の前にいる男は諦めが悪すぎる男なんだから――
見続けるフウは昔を思い出し、苦笑いを浮かべる。
一発、二発と蹴り続ける。
「【龍牙咬】」
足を交差させるように飛び蹴りを放つ。
「だから無駄なのダ!」
足を掴み反対側の壁まで投げ飛ばす。
「あなただけは……あなただけには負けるわけにはいかないのです!【雷華歩功】【風雷龍皇脚】」
全身全霊の一撃。
「ぐおぉぉぉ」
その一撃を受け止めるホアン。
競り合う二人。エネルギーの奔流が巻き起こる。
「これで終わりです! せやぁぁぁぁあ」
龍雄の蹴りが腹部に突き刺さり、エネルギーの奔流全てがホアンに集中し壁を突き破り吹き飛んだ。
「わたしの……勝ち……」
そこまで口にして、龍雄の意識が途切れ闇へと落ちていく。
――ホアンが負けるとはね……今回は君の勝ちということで引くとしよう――
全てを見届けたフウは使い魔を撤収させるのであった。
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