51 迷宮盛祭
御台場壱拾参号埋め立て地――
この日、完成した複合商業施設のオープニングレセプションに多くの企業とそして、探検者たちが招待されていた。
「これで、五件目ですか……」
五度目の喧嘩を制圧した龍雄は、少しため息をついて、警備をしていた。
本日の龍雄の仕事は、オープニングレセプションの警備を探検者協会から受けて見学のついでにと受けてはいたが、まさか、これほどとは思ってもいなかった。
正八角形にデザインされた商業施設は広大な広さがあり、全てを回るだけでも2、3日はかかるもはや、小都市ともいえる規模である。
「なんだか不思議な感覚がしますね。けど、しっている気配が……どこでしたか……」
そう思った瞬間、空間が歪む。
「これは……強制転移? まさか、ポータルでもないのに!? いえ……まさか!?」
そこで龍雄は気が付いた。似ている感覚の正体。四神宿房と同じ感覚なのであることに。
「まさか、あの商業施設がポータルだったのでしょうか? いえ、それよりもここは……」
あたりを確認するとそこは、墨でも垂らしたかのように黒で染められた古代中国の都市を思わせる街並みであり、中央と思わしき場所には塔が見えていた。
「とりあえず、塔へと向かいますか。『赤兎馬威駆』」
古都を疾走するバイク。
そして、襲撃してくるのは。手を前に伸ばし額に札が張られた人。
「まさかキョンシーですか!?」
不死の化け物。その動きは一見コミカルではあるが、決して侮ってはならいな中位モンスターである。
「わけがわかりませんが……人為的に起こされた事態の可能性が高いですね『青龍槍』」
槍を片手にバイクを加速させながらキョンシーを切り払う。
「シャー!」
行く手を遮ろうとしたキョンシーに、龍雄は前輪をあげキョンシーの顎を跳ね上げると、こんどは前輪で頭部を踏み砕き、そのまま一気に駆け抜けた。
「……あちこちで戦闘音がしますね。いったいなにが……」
そういって、バイクを走らせる龍雄。
「【シザーズスラッシュ】」
背後からの奇襲。龍雄は、無理やりハンドルをきり車体を低く滑らせるようにして躱す。
「今のは!?」
「久しぶりですね」
目の間に現れたのは蟹の怪人。
「蟹沢さんですか、今はあなたの相手をしている時ではないのですけどね」
そういって体を起こしつつ槍を構える。距離は30メートルほどは開いているだろう。
「そう言わないでください。せっかくの祭なんですから」
祭…その単語をつい最近も聞いたなと思いつつ確認をとる。
「この事態に何か関わっているということですか?」
「さぁ、そんな金にならない質問に答える気はないので」
そう言って、両手を広げ襲い掛かってくる。
「なら、倒して聞くとしましょう『武着』」
ガキっン――
蟹沢の両の蟹爪と槍がぶつかり合い、力が拮抗する。
「良い槍ですね。高く売れそうだ」
左の爪で救い上げるように振るう。それを踏み台にして後方へと宙返りで距離をとる龍雄。
「【精幹】」
踏み込んでの力強く鋭い突き。左の爪で弾くが威力に押し負け吹き飛ばされるが、爪はほんの少し欠ける程度。
「こいつを使うか」
そういって取り出したのは一枚の札。
「こいつは霊符といって、ちぃとばかり高価だから使いたくなかったんだが……仕方ないよな。『招来巨鋏』」
札から現れたのは巨大な大蟹ではあるが、爪はまるで鎌のように鋭くなっていた。
「さぁ、これからが本番だ」
表情がわからない筈の蟹沢の顔がニヤリと歪んだのを龍雄は感じた・
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