46 呉越同舟
――闘凶塔三階層――
階段を上がった先には、門があった。
「これは……ワープゲートですね。なにがあるのでしょうね」
転送された先には、ざっと50人程の探検者が集まっており、そして、抜けてきたはずのゲートは消えていた。
「かなりの数の探検者がいますね」
武装はそれぞれ、そして殺気立ってもいた。
「ひゅー、獲物発見!」
ジャラリ――
乾いた何かがすれる音が聞こえたとおもった瞬間。龍雄は咄嗟にしゃがみ込むと頭上を白い何かが通り過ぎていた。
「久しぶりぃじゃねぇか……えっとぉ……あぁ、名前なんだっけか?」
目の前にいたのは骨の鞭を手に持ったブラッディ・スパイダーの浅田厄雲であった。
「浅田厄雲さんでしたか? いきなりとは、とんだご挨拶ですね」
「なぁに、こないだは、いいところで邪魔が入ったからよぉ。うれしくてついなぁ。なぁ名前教えろや」
「……教える義務はありませんよね」
「確かぁに。なら名無しで死にな」
骨の鞭を振り回す。巻き込まれまいと周りの探検者たちは距離をとるが、厄雲はお構いなしに振り回す。
「奇妙な武器を使いますね」
「蛇骨刀ていうぅ、俺の最近のお気に入りの武器だよォ!」
脊髄のような形の骨に小さな刃が鎖で連結されたそれは、あまりにも厄介ではあった。
「くっ。これは厄介すぎますね」
面を捉えようとする蛇骨刀の動きに龍雄は困惑していた。なにより、周りに被害がでないように立ち回るだけでも苦労していた。
「オラァオラァ」
割って入るものがいない現状。二人の実力は肉薄している。
ビィビィビィ――
そんな中で部屋に音が鳴り響くとドスドスという足音と共にそれは姿を現した。
「なんだぁ。あのデカい蜘蛛は」
一軒家ほどの大きさの大蜘蛛がその姿を現すと探検者たちを襲い始め、前足で突き刺し、溶液で溶かし啜っていく。
「一時休戦としませんか?」
「ちっ、またお預けかぁ……ザコの癖に邪魔しやがってぇ……ムカつくぜ」
そう言いながらも、振り下ろされた爪を飛び退く。
「さてと……」
――天武クエスト――
――木克土毒『麻痺禍蜘蛛の毒腺』の入手――
「久々のクエストですね。シンさん、あのモンスターの名前と戦闘力はわかりますか?」
――是――
――イビルタイラントスパイダー――
――推定戦闘力5120――
「ほぼ互角ですね」
そういって蜘蛛へと駆け抜ける。
『シャー』
威嚇音とともに振り回される爪。だが龍雄は焦ることなく
「一式【伏柢】」
石突で、攻撃を流す。さらにその勢いのまま
「六式【連理】」」
槍で前足を斬り飛ばす。厄雲はといえば
「おらおら邪魔なザコが、下級の蜘蛛のくせに俺にたてついてるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
蛇骨刀で残っていた前足に絡めるとそのまま引き、ズタズタに砕く。
「とっとと片付けてるぞぉ」
乱雑に蛇骨刀を振り回しイビルタイラントスパイダーの表皮を傷つけていく。その傷目掛け龍雄は…
「五式【精幹】」
槍を深々に突き刺す。
明らかに敵対する二人。一人は探検者を守りながら、一人はお構いなしと探検者ごとイビルタイラントスパイダーを斬り刻む。
明らかに異なる二人。
だが、その二人が組んで戦ったイビルタイラントスパイダーは、毒液も糸も、ありとあらゆるが否定され。事もなく退治されるのであった。
バチバチと何かが焼けてはじける音と甲殻類独特の匂いが漂っていた。
「くぅぅ、意外といけるじゃねぇか」
「普通…食べますかね?」
蜘蛛の足を探検者たちに焼かせながら、焼き上がった足を殻ごと噛み砕く厄雲を見ながら、龍雄はあきれていた。
「あぁん? 食うだろうそこに喰い物があったら……」
そう言いながら齧りつき探検者たちに目を向ける
「てめぇらとっとと解体しろ」
生き残った探検者たちは仕方なく解体をさせられていた。
「ふぅ……てめぇ、まだ名前教える気はねぇのかよ」
「はぁ……苗字だけならいいですよ」
「ちっ……ならいい。とりあえず、ここで帰るとするしな」
「そうですか」
毒腺をストレージに収めた龍雄は次の階層へと進もうと歩き始めた。
「もう少ししたら、祭がある、その時にまたな」
祭という言葉に龍雄は心当たりはないが嫌な予感はしながらも、次の階層へと向かうのだった。
「行ったか……さてと、そろそろメインデッシュはと……」
ほとんど解体を終えたイビルタイラントスパイダーの胸部に腕を突っ込むと目的の物を引きずり出す。
「なかなか大きいじゃねぇか」
取り出したのはメロンサイズのイビルタイラントスパイダーの魔石。
「じゃぁ。ご苦労さん」
そういって蛇骨刀を数度振り回すと、その場に生き残った者はいなかった。
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