03 迷宮教練
「う、受かりました」
思わず泣いてしまった。龍雄。なんとかギリギリで指導員免許を習得した。受験料は2万円は痛かった。なにせ一回落ちていしまったので手痛すぎる出費である。
しかし、時間が足りない。慌てて何とか臨時指導員として応募。なんとか席があったので、採用という運びとなったが、あくまでも臨時の超短期ではあるが、足掛かりにはなるだろう。
(超短期の臨時指導員。それでも5日で6万とは、かなり良い金額です)
ちなみに以前の会社での龍雄の給料を日当換算すると、6500円であるったことを考えると喜びもひとしおである。
そんなわけで、始まった臨時指導員としての仕事だが、初日は、ミーティングに始まり、会場設営に、資料の印刷に備品の確認と雑用の数々である。
(それにしても自動冊子機能もある印刷機もあるんですね。会社の時は、一つ一つ手作業でしたけど……これは楽でいいです)
会社員時代の経験から手際よく、作業も進み、定時となっていた17時前には、業務は終えることができた。
さて、講習会の参加者は18歳からは19歳がメインの約300名となっている。覚醒が起きるのは多くは第二次成長期の13歳ごろから起こる。だが、精神的や法的な問題から成人年齢の18歳が主な参加者となっている。
「探索者としての適性はスキルや能力値で判断されるが、これらは後天的にも発現したり、成長したりするので現段階の能力に満足することなく励んでほしい」
現在、探索者協会で定められた種目によって能力値を評価されるが、それとは別に、モンスターを討伐することで能力値が成長する、通称レベルアップと呼ばれる現象も確認され、その際に新たなスキルが発現・成長することもある。
こういった話は受講者は目をキラキラさせて話を聞いているのだが、次に講義は半数くらいは目が死んでいた。
「装備品は、減価償却で計上できます。ポーションなどは医療費控除になります」
税金関連の講義である。簿記の知識や確定申告などの経験がない受講生にとっては、もはや地獄である。
「これらの手続きは複雑なので、税理士か会計士に依頼するのもいいですが、マイナンバーで保険証と銀行口座を紐づけすれば手続きは楽になりますよ」
最後の説明で講義をきいた全員の心は
(それ、最初に言えよ!)
真面目にきいていた受講生含めて一つになった。
退屈という拷問の果てにようやく解放され、一番の目玉であるポータルへと向かう。といってもポータルへ300名全員が向かうと研修に支障がでるために6か所ほどに分散する。このために指導員が多数必要だったのである。
そんな中、龍雄が配置されたのは『小鬼の巣穴』
「えっと、みなさんの担当になりました竹田龍雄です。本日はよろしくお願いします」
挨拶を終えてる。手元のタブレットを操作して担当する受講生を確認する。
「まずは、赤坂燕慈さん」
「ウィーッス」
やや猫背気味の派手な赤髪でツンツン頭の男がだるそうに手を挙げる。目つきは鋭く少々ガラが悪い印象を受ける大学生だ。
「次は、逸橋真守さん」
「はッ!」
長身角刈りの筋骨隆々の青年が背筋をピンと伸ばして敬礼をする。さきほどの赤坂とは対照的に生真面目で実直な印象をうける。
「内宮朱里さん」
「いえ~ぃ」
軽い口調で、野球帽にスカジャンにデニム地のショートパンツとクラブにでもいくような恰好。腰まで伸びた金髪は軽いくせ毛のある彼女は逸橋と並ぶとその小柄な体躯がより強調されるが、資料によると、このメンバー最年長の20歳となっている。
「衛藤菜桜さん」
「は、はい」
少し、おどおどした反応を見せたの彼女は少しゆったり目のケープに細長いロッドをもっち、少し地味目な印象をうけるセミロングの少女が最後のメンバーとなる。
「全員揃っていますね。では、今回の探索は6時間となります。難易度はEランクの『小鬼の巣』主なモンスターはゴブリン。それを時間内に可能な限り討伐して終了となります。ゴブリンの特徴は大丈夫でしょうか?」
その問いに、真守が背筋を伸ばし
「ハッ。ゴブリンは身長130㎝前後の額に小さな角があり深緑色の肌をしたモンスターであり、群れで襲撃をするモンスターであります」
解答に龍雄は首を縦にふり補足をする。
「その通りです。最弱のモンスターと侮られますが『ルーキーキラー』とも呼ばれるモンスターでもあります。実際に探検者の死亡例の4割は探検者歴1年以内にゴブリンに殺されるケースとなっています。この点も含めて注意して挑んでください。
それでは皆さん装備を整えたらいよいよ入場になります」
探検者の装備は、個人の趣味が大きく、ポータル前はコスプレ会場のように和洋折衷、古今東西のデザインの衣装にあふれているが、その性能は見た目だけでは測れはしないが、新人の装備だと一式で20万から30万が相場となっている。
そんな中で龍雄の装備といえば二世代前の型遅れの武骨なプロテクターとかなり浮いている。
それに対して装備を整えた4人はといえば……
燕慈は、赤を基調に裾には黒のラインが入ったロングコートに手甲。風貌と相まって特攻服にも見えてしまう。
真守はヘッドギアにタイトな紺色の衣服。迷彩柄のロングパンツにポールアックス。
朱里はナイフを身に着けていたは、いたがそこまで変わっていない。ただ、ゴム質のインナーを身に着けてはいる。このインナーはスライムインナーと呼ばれておりスライムを原材料に特殊加工されて作られたインナーで探検者の間でも人気の一品である。
菜桜は修道女のような装いに細長いロッドを身に着けていた。
「装備は、大丈夫そうですね。では、ポータルに入場します」
初めての入場に龍雄以外の全員が緊張の面持ちで入場する。
ポータルを抜けた先は洞窟だった。若干、明るいのはヒカリゴケの一種の影響だろう。
全員がポータルを抜けたのを確認した龍雄は説明を始める。
「このダンジョンはゴブリンが出現します。奥にはゴブリンチーフがボスモンスターといますが、無理に倒す必要はありませんし、戦闘継続が不可能と思ったら迷わずに言ってください。戦闘によりPTSDを発症してしまうかもしれませんから」
初陣での実戦による現実は、想定以上の不可になり稀代の英雄候補と呼ばれた若者がリタイアしたのは業界にいれば珍しい話ではない。
そんな話を聞きながら、受講生たちはどうしたものかと顔を見合わせる。
「ダンジョンに入ったらまずは、隊列を決めなければなりませんよ」
なにをしていいか分からない受講生に、何をすべきを促す。ある程度、自主的にできるようになるきっかけを与えるのも指導員の役目の一つである。
「オレのスキルは【炎使い】と【格闘】だ」
最初に名乗り出たのは、いがいにも燕慈だった。
「自分のスキルは【怪力】【ハードスキン】【空間把握】であります」
ビシッと姿勢を真守が正して応え
「はぁい。あぁしはねぇ。【キャットウォーク】にぃ【キャッツアイ】【軽業】だよぉ」
朱里は手を挙げて自分のスキルを説明し最後に、小さく手を挙げ
「わたしは…その【ヒール】と【プロテクション】あと……【ライト】です」
その自己紹介を聞きながら
(一応、バランスよく降る分けられますが……スキルだけなら、スカウトが直ぐにかかるくらいですね。なるほど、だから、わたしが担当だったんですね)
戦闘に関してなら、貢献ができない龍雄は、探検者が戦闘するうえで起こりうるシチュエーションとしてはない話ではない。
「では、そうですね。赤坂さんが仮のリーダーがいいでしょ。いまからドローンを起動させますので指揮を執ってみてください。助言も必要ならしますよ」
指名された燕慈は背筋をただし
「あぁ、まぁそ言うことらしいから、ヨロ。で、下の名前、呼び捨てで行かせてもらうけど、先頭は朱里、うんで、最後尾に真守、菜桜、あぁやっぱ年上の人だから龍雄さんにさん付けで、で、オレの順ですすみたいけど、いいよな?」
その提案をしながら全員の顔を確認する。
(言葉使いは悪いですが、イイセンスですね。最後尾に防御力の高い真守さんを配置し、夜目が効く【キャッツアイ】のスキルをもつ朱里さんを前衛に、自分は対応のしやすい中衛に配置。理想的ですね)
そんな事を思いつつピンポン玉サイズの撮影用ドローンを起動させ。いよいよ奥へと向かい歩き始めた。
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