表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/145

35 愛中少女

遅れてしまいました。


 帝都大学。錬丹学部・准教授、薬師寺柚恵の月曜の昼下がり、個人研究室にて、基礎的な錬気丹の調合を柚恵は行っていた。


 何度もやってきた当たり前の工程。失敗するはずのない調合。


 ボンッ――


「はぁ……()()()()……どうして……はぁ~」


 理由はなとなく、わかる。あの人のことを思い出すと、なぜか動悸が激しくなり意識が一気に拡散する。


「うぅぅん。なにかの病気ですかね? ……あっ……材料がなくなりましたです。困りました……今月はもう予算がないから納品できないと……はぁ……自腹は……うぅ、こないだ新しい(かなえ)買った…から……預金が」


 ちなみに鼎とは、錬丹術に使う鍋のようなものである。わりと高価だったりする。


「採りに行こうかな…」


 そう思ったところで先日の、合同採取を思い出して赤面してしまう。


「お、おかしいです。急に動悸が……」


 コンコン――


「柚恵ちゃん。いるかぁ?」


「赤坂君。薬師寺准教授でしょ! なにかようですか?」


「失礼しますぅ~と」


 燕慈は軽いノリで部屋に入ってくる。


「それで要件はなんです?」


「あぁ、龍雄さんから引っ越ししたから、週末に新居で引っ越し祝いをするそうだけど、一緒にいきます? お礼をしたいって言ってたし、龍雄さんにも許可はとってますよ」


「ひゃい!? い、いきます!」


「お、おぅ、じゃー龍雄さんにも伝えておくよ」


 身を乗り出した柚恵に、燕慈はすこし引き気味に答えて部屋を後にした。


「ど、どうしましょうか? 人のお家に伺うのって小学校低学年以来です!?」


 こうして、後に、『柚恵ちゃんの恋愛成就計画』と呼ばれる一週間が始まった。


 まずは、今まで化粧気のなかったのに化粧をするのだが、不慣れなのと童顔があいまって、女子中学生が初めて化粧をしたような状況になり、全員が唖然としてしまったが。


 そこで立ち上がったのが非公式の『柚恵ちゃん見守り隊』


 本人は無自覚であることは間違いなく、恋する乙女モードであると判断した女子生徒が中心に陰ながら見守る同好会が立ち上がっていたのである。


 はっきりいって薬師寺柚恵は丹薬バカである。【錬丹術】【異火】といいう錬丹術の申し子のようなスキルをもち。さらに祖父も錬丹術の権威であったこともかみ合い365日、24時間。錬丹術のことばかり考えていたと自負している。


 が、ここにきて、異性。しかも外見年齢はともかく()()の男の子に恋をしているという自覚はなくが、明らかに意識していることは他から見ても明確。


 それを見かけねた生徒たちが動き出す。


 錬丹術に関しては真摯に分かりやすく教えてくれる教師であり、なにより柔らかい物腰で接してくれる。さらに、先日は生徒の危機に先陣をきって立ち向かった姿に感謝している生徒、それら有志が集まり、これは柚恵ちゃんの恋を成就させなければと一丸となって動き出したのである。


 まずは、化粧。正直童顔で、肌も若々しい(肌年齢17歳)という驚愕の事実に一部生徒が凹んだりもしたが、抜本的にティーン向けの化粧への変更を指南。本人はなぜ生徒が? となったが、とりあえず藁にも縋る思いで助力を頼んだ。


 見守り隊はデートという認識のもと、柚恵は引っ越し祝いと微妙に認識の差がありながらの服装選びが開始。


 どのような衣服が似合うのかで、激論が続き、一時コスプレ会になってしまうほど(なお、流されて渡された衣装は全て着用したもよう)


 こうして、見守り隊曰く、パーフェクト柚恵ちゃん。これで落ちない男はいない! という仕上がりをみせた柚恵を送り出したのでった。


 余談だが。レポートの提出を忘れていた、見守り隊の面々が追加レポートを受けたのはご愛嬌である。

評価や感想、ご意見など時間がありましたらどうかお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ