33 龍蟹相搏
32話の『好人壊事』の「獣魂覚醒}→「解人」に変更しました。
金色の蟹を纏った正志と龍雄の戦いは、規格外の身体能力をもつとされる探検者どうしの戦いからも逸脱していた。
「【潮招き】」
正志が、ロープを引っ張るような動作をすると、龍雄の体が何かに引っ張られるような感覚に襲われる。否、感覚ではなく、実際に大気事引っこ抜かれる。
「これは……抵抗は無意味ですね。なら……ばっ!」
抗えないのなら、勢いに乗るまでと逆に引き寄せられる力に乗る。
「【飛翔龍硬脚】」
勢いを利用した【龍硬脚】での跳び蹴りは、胸部にあたるが……
「フンっ!」
逆に跳ね返され、バランスを崩して着地してしまう。
「【シザースブレイク】」
両手の爪で叩き潰さんと力強い振り下ろし。バランスを崩した状態では、避けられないと思われた瞬間。
「【龍爪破】!」
【龍爪斬】の応用技で地面を吹き飛ばし距離をとる。だが正志の追撃は止まない。
「逃がすか! 【キャンサービーム】」
蟹爪から放たれた閃光が龍雄に迫る。
「くっ、【龍咆破】」
二つのエネルギーがぶつかり合い、せめぎ合う。
互角。
武龍の鎧は能力を大きく引き上げる。それにも関わらず、正志の戦闘力は龍雄と変わらないレベルである。
だからこその膠着状態。
攻撃力はほぼ互角、速度は龍雄に防御力では正志が上といった状況だと二人は理解できていた。
「まさか、貴方がこれだけの強者だったとは……その鎧の効果かもしれませんが、それでも力を仕えている。多彩な技。どうです? あなたもこちら側にきませんか?」
だからこその勧誘。
正志にとっては、龍雄は何が何でも、倒さないといけない相手というわけではない。
仲間にできれば損はないという打算と、戦闘のリスクからなる損得勘定。それだけが正志に対しての感情。
仲間がやられたという意識は皆無であり、自分にとっての利益しか考えない人間が、蟹沢正志という人間の本質でしかない。
「お断りします。仲間を仲間とも思ってない人はお断りです」
「そうですか……面倒な人だ。損か得で考えればいいのに」
再び爪を広げ構え駈ける。
「はぁぁぁ【シザーススラッシュ】」
左右からの挟み込むような斬撃。
「【双龍爪斬】」
龍の爪でその攻撃を弾き、態勢を崩すと、そのまま地面に手をつく龍雄。
「【昇龍連脚】」
地面を強く蹴り上げ、逆立ち蹴りで正志を浮かせてからのからの連続蹴りを叩き込む。
一撃一撃に耐えられても、空中には吹き飛ばされる。
「この【キャンサービーム】」
光線を躱し、正志よりも高く跳びあがる。
「【龍牙咬】」
「ちっ」
龍雄の空中かかと落としを右腕で受け止めるが、腕の殻に亀裂が入り、地面に激突する。
「いろいろとお聞きしたいことがありますので、答えてもらいましょうか?」
「はぁ……はぁ……調子にのるなよ……」
硬い殻に覆われていても、衝撃は体内に伝わり、かなりのダメージを受けながらも、正志は立ち上がる。
「これで決着です」
龍雄は深く腰を落とし力を溜める。
その時……
「【三日月斬り】」
頭上から放たれた衝撃波が地面に直撃し土煙を巻き上げる。
「こ、これは!?」
突如の第三者による介入で龍雄の動きがとまり、土煙が晴れたあとには、正志の姿はなかった。
「逃げられましたか……」
そういって、辺りに敵意がないことを確認し武装を解除する龍雄であった。
一方――
人の姿に戻った正志は、腕を抑えながら森を走っていた。
「くそッ! くぞッ! あの野郎ッ!」
木を背にしながら、へたり込み荒れた呼吸を整える。
「ハハハハ、無様じゃないか」
正志の前に、音もなく刀を持った黒い兎が降り立ち笑みを浮かべた。
「充……てめぇ……」
「助けてやったんだよ。お礼くらい言って欲しいな。これもあるよ」
そういって、液体の入った試験管をひらひらと振る。
「よこせ」
「後で、金払えよ」
試験管を投げて渡す。
「ちっ……最悪だ。あの野郎ぶち殺す」
封を開けて飲み干す。
「ところで、てめぇ、なんで参戦しなかった」
傷がみるみる治っていく。
「理由がないからね。ここはボクの立つ舞台じゃないし、無理に戦う必要もないだろ?」
「ちっ、そうかよ……」
「まぁ、フウさんからも戦闘をさけるようにも言われたからね。君も大人しくしてくれたまえよ」
「はぁ……しかたありません。しばらくは静養させていただきますか」
「そうそう,それでいいんだよ」
そう話しながら、この場をさることにするのであった。
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没案
正志「【積尸気〇界破】」
龍雄「【廬山〇龍覇】」




