20 血蜘蛛劇
龍雄たちは目的の物も回収できたことから、巣穴を出ることにした。
「それだけでよかったんですか? 朱里さん」
「うん、これだけあれば十分だしぃ~」
そういいながら、洞窟を出る寸前と、龍雄は足を止めた。
「朱里さん、ここで隠れていてください」
「どぅいぅ事ぉ?」
不思議そうに首をかしげる朱里を制して、龍雄は表に出る。
「そろそろ出てきたらどうですか?」
そういって、地面に落ちていた石を拾い、木に向かってに勢いよく投げつけた。
石はグングン加速して、幹を穿ちながら飛んでいき、木が大きな音を立てて倒れ寸前に飛び降りる影が二つ。地面に降り立つと、わらわらと男女が10人ほど姿を現した。
「へぇ、気が付いてるなんてぇ。やるじゃないか」
長身でグラマラスな、扇情的なドレスきた美女を連れた、髪に赤黒いメッシュを入れた、顔半分に蜘蛛の巣のような刺青をいれた男が、ロングパンツのポケットに手を入れながら、楽しそうに話す。
「一応、聞きますが、目的はなんですか?」
「クックック、そんなの決まってるだろ。収穫物を出しな。そしたら、まぁ、腕一本折るくらいで許してやるよぉ」
リーダー格と思われる男の発言に、ニヤニヤと腐った笑みを全員が浮かべる。
「断るといったら?」
「そりゃぁな?」
龍雄の一番、近くにいた男に顎で合図すると、男は鉈を取り出す。
「ぶった切って、モンスターの餌にしてやんよぉ」
勢いよく鉈を振り回しながら龍雄に迫る。が、龍雄はいたって冷静だった。そもそも龍雄は、探検者としてのキャリアは長い。当然、このような荒事に遭遇したことがないわけではない。
「先に手を出してきたのは、そちらということですので、覚悟はありとみなしますね」
そう言って、鉈を振り回す右手首をあっさりと左手で掴まむ。その動きが、あまりにも、自然だった為に全員があっけに取られる。
「は、放せ!」
慌てて男は吠える。そういった瞬間、ゴキリと手首が砕ける音が男の耳に届いた。
「うがぁぁ、俺の手首をお、折り……」
想定していなかった出来事に、手から鉈が滑り落ちるよりも早く、龍雄は、潰した右手首を掴んだまま引き寄せ、今度は、右肘に自身の右腕を当てると地面に押し倒しながら、折る。さらに顔面に左膝蹴りからの、左ハイキック、そして、腹部を蹴り、リーダー格の男へ向かって吹き飛ばした。
「危ねぇだろうが!」
飛んできたきた男を、かかと落としで、叩き落とす。
「あぁん? てめぇ、なにやられてんだ」
ガシガシと折られた右腕、踏みつけ伸びている部下の男を、蹴り続ける。
「厄雲さん、それ以上やったら死んじゃいますわ」
「ちっ……役立たずが」
顎を踏み砕いて漸く、怒りが収まったのか、狂気じみた目で龍雄を見る。
「涼しい顔してやるじゃねぇか、久々に生きのいい獲物だ。お前らぁ……ヤレ」
その言葉を合図に9人の男女が一斉に襲い掛かる。
「ふぅ……わたしは、あまり争いを好まないのですが……因果応報と思ってください」
最初に襲い掛かってきたのは、刺突用のナイフ、スティレットを両手にもった小柄な女性だったが、右横蹴りで左腕を粉砕し、その女の背後から、斬りかかろう直刀をもった男の顔面に飛び回し蹴りを叩き込み、突き刺さんと迫ってきた刃先を捌き、槍を振り回した女の肩目掛けけて、浴びせ蹴りを振り下ろし肩を砕いてから、容赦なく顔面を殴りつけ、グシャリと鼻が潰れる音が響く。
僅か一瞬で三人が戦闘不能にされた事に加えて、女でも容赦ない龍雄に対して、ほぼ全員が戦慄を覚えた。
「おいおい、女の顔まで涼しい顔で潰すかよ」
「関係ありませんよ。敵としてなら、ゴブリンと何が違います? それに女だからと手を抜くと痛い目にあいますからね」
「ちっ、甘ちゃんかと思ったら、わかってるじゃねぇか。しかたねぇ。オレさまも加わるか、おい、麗お前もやれ」
「あとで、ご褒美期待しても?」
妖艶な美女は色気たっぷりにほほ笑み、鞭を構える。
「あぁ、たっぷり可愛がってやる」
下卑た笑みを浮かべる。
「そこまでだ! 浅田!」
突然、響く男の声。龍雄が視線を向けるとそこにいたのは、ダンジョンに入る前にあった青年。蟹沢正志が立っていた。
「ちっ、めんどくせぇのが来やがった……ずらかるぞ!」
蜘蛛の子を散らすように、全員がいっきに逃げ出す。
「待てっ!」
正志が追いかけようとした瞬間、厄雲がポケットから何かを正志へ投げた。
「てめぇら、生きてたら、また遊ぼうぜ」
「舐めるな!」
正志が剣を振るい飛んできたモノを切り払うと
「キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ」
絶叫が響いた。
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