15 良縁協栄
帰ってきましたね。
そして、朝です。うわっ、もう11時です。
おや? スマフォに見たことない通知が? あぁ、これはシーカーリンクの通知ですね。最近の若い人は、これでマッチングとかしているそうです。
えっと、通知内容は、メンテナンスのお知らせに、新規メンバーの追加に燕慈さん、真守さん、朱里さん、菜桜さんが……てっ、秤さんに鬼柳さんも!?
……そういえば、会社でも使ってる人いましたね。
菜桜さんから、テーラーなどの紹介は週末ですか……問題はないですね。
さてと、これからですが、まずは引っ越し先を探さないといけないですし……探検者だと、なかなか住める賃貸がないんですよね。けど、若返ったから、いろいろとありますし引っ越ししないわけにはいきませんね。即日入居可能なマンスリーマンションを探してみますか、貯金と考えると3か月。
というわけで、住居さがしを開始しました。若返ってしまいましたが、みためが年齢よりも若く見える探検者は珍しくありませんから。
いまの住んでいる物件の管理会社に電話して、退去と次の住所の紹介をお願いしました。
「一応、お貸しできる物件はありますが……」
えった、1LDKのユニットバスで駅から徒歩10分、単身者用で賃料が5万5千円。すこし都市部から離れてますが問題はないですね。次に進められたのがかなり郊外で駅から徒歩15分の築20年一戸建てが6万円というのも破格ですが利便性に難がありますね。それから最後に駅から5分の1LDKはバスとトイレは別で8万ですね。
内見もさせてもらって、即決できめたのは最初の物件。広さは6畳と手狭ではありますが、利便性もいいです。日当たりは悪い西側の奥部屋ですが、安いですし、共益費が1万円の家賃5万5千円なら悪くはありません。というか前のアパートよりも安いくらいですね。
担当の女性の方から名刺と個人アドレスまでいただきましたが、いまの不動産屋さんはそういうものなんでしょうか?
契約書も作成。とりあえず入居は明日からも可能で退去手続きもスムーズです。
それから、住民票を移したりの手続きをしていたらあっという間に週末です。
「龍雄さん、こちらです」
本日は、菜桜さんと最寄り駅で待ち合わせをしていたら、お迎えにきていただきました。まさか運転手付きのリムジンとは思いませんでしたけど……
「分かる事なので、申し上げますと、私、西条家の傍流にあたる家なのです」
日ノ本十大財閥の西条ですか?
「はい、その西条で間違いありません」
西条といえば、医療系、特に丹薬などの販売も行っていて、西日本で特に強い影響をもつ財閥でしたよね?
「そうです」
お嬢様だとは所作では、解っていましたが……予想以上でしたね。
軽く家族構成の話も聞きましたが、お兄さんが3人もいるとは、そんな話しをしているうちに、つきましたが……
田園調布ですか、これまた高級住宅街ですね。その中でも、大きい家が並ぶ区画とは、いやはや圧倒されますね。
「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ主人も待っております」
出迎えてくれたのは菜桜さんのお母さん。すこし厳しい印象をうけますが、四人子持ちとは思えない若々しい感じの美人さんですね。
「こちらが父です」
「初めまして、衛藤 凛堂です」
挨拶は大事です。軽くお辞儀をして握手を交わしますが、それ以上に委縮する必要もありませんね。あくまでも、先日のお礼ということですから。
テーラーの方が来るのを待つ間に、軽くお茶をいただき……あっ、これ美味しいですね。お土産にもらえませんかね? えっ、ただける。ありがとうございます。その間に、家族自慢を聞いていました。他人の自慢話は退屈といいますが、単純に家族愛が強い方みたいですし、年齢も近いのもあり、気さくに話されます。立場的に友人関係にも利害があるのでしょうね。
「お待たせしました。テーラーの甲武サトルと申します」
おぉ思ってたよりも若いですね。
「彼は30代だが、腕はイタリア仕込みの本物だよ」
それはすごいですね。とりあえず、礼服をお願いしましょう。
「ようござんすよ。他に要望がおありで?」
門外漢ですし、わかりませんが、シャツも仕立ててもらえませんかね?
「ほぉ、それはいいですが拘りでも?」
亡き母の教えでして、スーツを着るときはシャツと靴は同じ価値にしなさいと、いわれましたので。
「承りました。では、採寸の為に部屋を一つおかりして、ようござんすでしょうか?」
「案内させよう、そうだ、採寸がすんだら、昼食を一緒にどうだね?」
せっかくのお誘いですし、お受けしましょう。
採寸はパンイチです。結構、細かく計られました。
…
……
…………
採寸は3時間近くかかりました。
少し、昼食が遅くなりましたが。
「どうかね? 銀座のレストランのシェフを手配したのだが?」
はぁ、こういうことって本当にあるんですね。うん、おいしいですね。
ちょっとした身の上話とかは聞かれましたが、そんなもので、美味しいコース料理が食べられたのなら儲けもんですね。
楽しい時間は、直ぐに過ぎてしまいました。そろそろ、お暇しましょう。
「そうか、楽しい時間だったよ。菜桜、見送ってさしあげなさい」
「はい、お父様」
ありがとうございます。帰りも最寄り駅まで、リムジンで送迎してもらい菜桜さんのお家を後にしました。
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龍雄が帰った後、菜桜の父・凛堂とサトルが向き合ってお茶を飲んでいた。
「彼をどう見るかね?」
「そうでございまやね。かなりの上流の教育を受けたかではないかと感じやしたね」
「私もどう意見だ。事前情報がなければ、どこかの財閥傍流の子息と思ってもおかしくないだろう」
「とっいいますと?」
「彼は母子家庭、むろんそれが悪いとは言わないが、決して裕福ではない家だったし、父親は施設育ち、経歴も調べたが特筆すべき点はなく、温厚で真面目という印象しかない人物ではある」
「うーん、実年齢からすると身に着けていても、おかしくないとはおもいやすが、固さがありませんでしたし子供の頃から躾けられてたってのが、印象なんですがね」
「ただ、少し調査の際に、母親の方の情報が成人前からがごっそりと消えていたのが気がかりではある。むろん、古いものだから何らかの手違いでというのもあるが……途中から追えなくなってしまった」
「そいつは、なにかあるかもしれやせんね」
「が、【返老還童】に達したものであるのなら、今後、頭角を表すだろう。なら恩を売るのも悪くないとは思わないかね?」
にやりと、凛堂は笑って見せる。
「まぁ、あっしは服を作るだけでさぁ。それに中々やりがいのある仕事ですし」
「よろしくお願いするよ」
そういって、手元にある『竹田龍雄調査報告書』と書かれた書類に目を落とした。




